ててっと
サードアイ・オープニングに続く、サードアイシリーズ第二章。地球に降り立ったオーエンは、元、特殊任務部隊長のアリフを四次元世界に連れ戻すべく旅に出る。
日常生活の中の、ふとした疑問やちょっとした気づきを書き綴ります。
noteで週刊で掲載している「サードアイ」を完結させて、創作大賞の応募用に編集した「サードアイ・オープニング」です。これは第一章ということで、この後も続けていく予定です。どうぞオーエンを応援してやってください。よろしくお願いします。
会の後半は、都市開発にまつわる関係者や開発チームのスピーチが続いた。男が先ほど示したアリフらしき人物がいつ登壇するかわからなかったので、見逃さないように注意していると、最後のゲストスピーカーとしてその男が登壇した。ひときは大きな拍手で迎えられる。男は堂々として場慣れた様子で気さくに語り始めた。タイトルは「過去と未来を繋ぐもの」で、どうやらこの街の遺構を活かしたエコシステムで街を再生していくという案は彼を中心に策定されたものらしい。 あの古い煙突が活かされ、高度な建築技術に
ゴージがあんなに冷たいやつだったとはと、昔の自分に幻滅しながら、二階の指定されたゲスト席に着く。大きなスクリーンが左右にあって、会場の様子が映し出されていた。いったい、この会場には何万人入るんだろうか。この規模の宗教団体って、結構な勢力じゃないかなどと考えながらいると、アナウンスが流れて開会式が始まった。 今日はこの団体の年次集会で、宗徒が全国各地から集まってきているそうだ。会の主催者から挨拶があり、関係各位に向けて活動報告と今後の方向性が示された。それから、何人かの来賓
腹ごしらえもすんだところで、いざゴージとの再会の場に向かった。来た道を引き返して再び大通りに出る。そこからモノレールに乗って二つ先の駅で降りると、目の前には巨大なドーム状のホールが建っていて、ここが会場だと言われて面食らう。勝手に、貸会議室のようなところでやる小規模な集会だと思っていたので、その規模の大きさにあっけにとられた。 ドーム会場の中に入るとすぐに受付があって、まだ時間が早いのか、さほど混雑していない様子だった。入場料のことを失念していたので、先ほどの男に尋ねると
街で声をかけてきた男のローブの襞を追って路地に入っていく。メインストリートを外れると、とたんに道も悪くなっていて、でこぼことした石畳が続く。古い建物のいくつかは人の住んでいる気配もなく昔の寂れた様相を呈していた。通りは薄汚い屋台や胡散臭い雑貨屋などが点在していて、中にいる主人はみな暗い顔つきで、眼光だけが野良猫のように鋭く光っている。 男はしばらく道なりに進むと、再び角を曲がって間口の狭い店に入っていった。すぐに、顔だけ出して手招きをしてきたので、俺も後に続いて店に入る。
地下鉄を乗り継いで「わすれじの三区」に向かった。ブルーノが準備してくれたIDチップのおかげで移動や食事にかかる費用は賄えるのだが、その期限は半年後となっている。それまでには四次元世界に戻らないといけないってわけだ。 最寄り駅で降りて外に出てみると、町は見事に様変わりしていた。もはや俺の知っている三区ではない。 何本もの古びた煙突がむき出しで立ち並んでいることは変わらないが、それらの間を埋めるようにコンクリートのビルが新しくできていた。ところどころにお伽話の城のような建物
瀬戸内海の島めぐりツアー最終日、チャーター船は犬島に向かった。見えてきたのは、赤黒い煙突が何本もそびえ立ち、朽ちかけた建造物が剝き出しになって打ち捨てられた巨艦のような島だった。 瀬戸内海の島々は日本の近代化産業のしわ寄せをくらい、公害被害や環境破壊を強いられてきたのだが、先に巡った直島は、今や国内外から観光客が押し寄せるアートの島としてリゾート化されていたし、豊島では原生林や棚田が広がり、そこからひょっこりとアートが出現して微笑ましかった。それに対して、この犬島は未だに
とあるコーチングセミナーで「余命一年をどう生きるか」というワークを受けたことがある。大切な人や物、重要な仕事や役割などを何枚もカードに書き出し、指示に従って不要になった順に破り捨てていった。人生で大事にしている物事を、意外にも抵抗なく手放せていけたのだが、驚いたことに、最後の三枚の中に、ふんわりとした憧れでしかなかった「作家」というカードが残っていたのだった。他の二枚は家族の名前が書かれてあり、それらを見比べながら天秤にかける。いよいよ、今際の時がきて、涙ながらにそれらを順
俺が地球に降り立った時、まずは、生まれ育ったこの場所にちゃんと戻ってこられたことを、天才科学者、ブルーノに感謝した。あの一人用の古めかしいタイムマシーンを見たときには、違う時代の違うエリアに飛ばされやしないかと一瞬不安がよぎったのだが、こうして無事に目的地に着いて本当に安心したのだった。 ぐるりとあたりを見回してみる。特段、異変はなさそうだ。四次元の世界にいた頃、ラボの体験ルームで、俺が赤ん坊だったときのこの町に意識だけで降りてきたことがある。今回はいつの時代なんだろう。
俺達は王のいるテーブルに向かった。国王と話す機会が俺なんかにも訪れるとは。ヒノエの手前、失態をおかさないようにと、柄にもなく緊張する。 目の前にいる王は、見るからに威厳のある立派な人物だった。ヒノエともクロエとも違うオーラの輝きがあって、どこまでも澄んだ目をしている。この人の前では嘘がつけない、そんな感じがして身が引き締まる。 俺は威儀を正して丁重に挨拶をした。王は俺の顔をまじまじと見ると、破顔しながら「こたびの活躍、大いに感謝します」と申された。そんな大層なことはない
音楽祭が終わると、次は百名ほどの要人たちの食事会へと移った。ここにはブルーノやステファンたちの一般研究員たちはいなくて、俺は特別ゲストとして招待されたようだった。 国王は数名の貴族たちに囲まれて一段高いと奥まったテーブルに座っている。その近くでは、ゆるやかにピアノの演奏が行われていた。これもまた、素人の俺が聞いても心に響く音色だった。こんな中で食事ができるとは、なんという贅沢なんだろう。ヒノエが招待してくれたことにも、テーブルマナーを教えてくれたことにも、深く感謝した。
王位奪還計画が無事成功して、四次元世界は大きな転換期を迎えていた。異次元上昇計画の最終ステージといったところだ。 軍内部の大幅な組織変更とそれに伴う人事異動があり、俺はファイアーレッドアイの特殊能力と今回の活躍が認められて、軍の中枢部に配属されることとなった。 ヒノエが回復して初めての軍法会議が行われた。彼女は変わらずに眩しさを放ちながら、きびきびと指令を出していく。頭の中にはすでに異次元上昇のシナリオが完成されていて、あとは全ての計画を実行に移すだけのようだ。 ヒノ
ブルーノに案内されて向かった先はラボの最上階に位置する司令塔で、壁一面に画面があって、各部屋の様子が映し出されているモニタールームだった。紹介されたのは、ラボの上級役員で、ショートカットのキリッとした年配の女性だった。ヒノエのような燃える赤い目をしている。 ブルーノは彼女を見ると、子犬のように近づいていき、 「マミー!元気でっか?」と、嬉しそうに話しかけた。 「ブルーノちゃん、久しぶりね。なかなか顔を見せないんだから」 「いやぁ、マミーの顔を見てると、エネルギー酔いしちゃ
ゴードン王子とその母との別れを見守って、急いでヒノエを連れて帰還した。ヒノエは集中治療室に入ったままのようだ。翌日、俺はブルーノの所に行った。 「これはこれはオウエン殿、遠征お疲れ様でやんした」 「ヒノエは無事か?」 「意識は戻りやした。まぁ、彼女は自家発電機みたいなもんだから、じきに良くなるでやんすよ」 「魂が消えかかってたぞ。普段はあんなことないのに、今回はどうしちまったんだ」 「エネルギーの使いすぎでさぁ。まあ、おそらくは、奥方の闇に呑まれたんでさぁね。さすがのヒノエ
ヒノエとの訓練は日に日に過酷さを増していった。俺ができるだけ多く三次元に移動できるようにと、とにかく基礎体力作りに余念がなかった。男の俺でも音を上げるほどのトレーニングにヒノエは毎回付き合ってくれた。あいつは化け物かもしれないと本気で思う。 俺の場合、特殊任務の帰還に関しては、魂ひとつで空を飛んで帰れば済む話なのだが、行きは肉体と魂の分離をする例のマシーンを使わざるをえず、あれが非常に厄介だった。だが、回数を重ねるごとに、あの重力のかかり具合も、もぞもぞする不快感にも徐々
体調が戻ってくると、多くの人々が入れ替わり立ち替わり見舞いにやってきた。彼らの話から様々な真実がわかってきた。 ここが本当に四次元の世界であって、長年にわたって人類の次元上昇の準備をしているということ。三次元の人々の魂のレベルを上げて、高次の意識改革をする大規模な計画があること。各国トップの平和への意思決定を促すために、この星の特殊部隊が暗躍していること、などである。 そして、私は次元上昇後、各国首相を従える皇帝となる予定だということだった。従って、私がこの星にやってく
私は生まれた時から王位継承者として育てられてきた。幼い頃から両親は常に公務で忙しく家を空けがちで、私たち兄弟の世話は乳母と家庭教師に任されていた。 乳母はとことん私たち兄弟に甘く、どんなわがままでも優しくきいてくれて、教師たちは子供たちの気がそがれぬように工夫をこらして学問を教えてくれた。一方で、大人の目の届かぬところでは、兄弟で悪さやいたずらを散々したものだった。 長じてからは、両親の仕事ぶりを間近で見ることで、上に立つ者の在り方を学んだ。父からは大志を抱き周囲に希望