サードアイ ep 15 王位奪還計画
体調が戻ってくると、多くの人々が入れ替わり立ち替わり見舞いにやってきた。彼らの話から様々な真実がわかってきた。
ここが本当に四次元の世界であって、長年にわたって人類の次元上昇の準備をしているということ。三次元の人々の魂のレベルを上げて、高次の意識改革をする大規模な計画があること。各国トップの平和への意思決定を促すために、この星の特殊部隊が暗躍していること、などである。
そして、私は次元上昇後、各国首相を従える皇帝となる予定だということだった。従って、私がこの星にやってくるのは必然であったのだとブルーノは言う。ただし、予想よりも早くあちらで死を迎えてしまったようで、準備もないまま緊急対応となったそうだ。
ヒノエと面会したのは、私がすっかりこちらの世界にも慣れ、次元上昇の話にも理解が及び、そういうことならこの命を差し出しても構わないと思うようになった頃であった。長い遠征から帰還したヒノエは、アリフと共に私のもとにやってきた。ヒノエは若々しく快活で、太陽のような美しい髪色と宝石のように輝く赤い瞳をしていた。
「ゴードン様、お目にかかれて光栄至極に存じます」
ヒノエは膝を折って私の手を取り、深々とお辞儀をした。アリフからも聞いてはいたが、王女なみの品格をもった高潔な女性で、その燃えるような強いオーラに正直驚きを隠せなかった。そして、ヒノエになら、アリフの言うところの王位奪還計画を任せられるに違いないと確信したのだった。
しばらく三人で計画についてのあらましを確認しあった。まずは、三次元の各国の首脳たちにアプローチして平和を希求するよう要請をする。そして、その絵図ができたころに、私の王国に赴いてもらい、嫡男である私が王位を順当に継承するという手筈だった。それには、ヒノエとアリフが協同して、息をぴったりと合わせて事に当たる必要があった。そのシュミレーションと演習も幾度も行われているという。
その計画の実行を待ちわびながらも、しばらくは、この星の王としての執務に当たって忙しかった。それと同時に、次元上昇後の世界をいかに構築していくかの課題にも向き合う必要があった。世界各国の異なる歴史や文化、風習を踏まえて、それらをどう統合していくのがよいのか。そのための法律の制定やら都市計画やらと課題は山積していた。
そうして日々やることに追われつつも、使命感に燃えて充実した日々を送っていた矢先、アリフの失踪事件がおきたのだった。
当時、アリフは特殊部隊の長官を務めていたが、一部の腹心の部下を引き連れて三次元世界へ、あの肉体の制限がかかる世界へと逆戻りしてしまったのだった。ヒノエによると、アリフのサードアイが完全に開かれた直後に、彼の思想および行動が偏向したとのことだった。
アリフがいなくなったことにより、我々の計画は頓挫してしまった。私は三次元世界での王位などには、もはや執着がないとの思いを伝えたが、ヒノエはそれなしには次元上昇はなしえないと主張した。王位は嫡男であり長子である私が継承すべきであり、それ以外の者が継げば、その王国は衰退の末路をたどることになる、という。
とりあえずは、アリフの穴を埋めるべくヒノエが特殊任務部隊長となり、三次元世界の維持発展に貢献してくれることとなった。
それから幾年かが過ぎた頃、朗報だといってヒノエがやってきた。ファイアーレッドアイを持つ男がひょんなことからこの星に現れたらしい。その男は身元不明だそうだが、サードアイが開いており、おそらく訓練次第では、王位奪還計画でアリフの代わりを務めることができると言う。
いよいよ、そのときがくるのか。アリフが去った今、もはや王位奪還など夢のまた夢だと諦めていた。実際のところ、アリフほどの能力と胆力を併せ持った男の後継となる者など存在するのだろうか。
「その男は、どんな人物なのですか?」
「野生の勘ともいうべく状況判断能力と類まれなる適応力、そして、馬鹿が付くほどの単純明快さ、といったところでしょうか。つまり、飲み込みが早い、のであります」
「アリフのような、その、人望とか胆力といった、リーダー格の資質はありそうですか」
「はい。アリフとは違った角度のリーダーシップを発揮しています」
「それは、どんな類のものでしょうか」
「他者を何かしらの形で魅了して多大な影響を与えるといったものです。気が付くと他人の懐に入り込んでいて、ブルーノもステファンも、いまではすっかり旧友のように懐いています」
とても興味深いと、期待に胸が膨らむ。
「では、ヒノエもその男に魅了されたのでしょうか」
「いえ、私は誰からもそのような影響を受けません。ただしっかりと鍛えてものになるよう、可愛がっております」というと、何かを思い出したように唇の端で笑った。
「そうですか。引き続き指導をお願いします。その男は、サードアイが開いているのですね。ファイアーレッドアイの可能性もあるということでしょうか」
「はい。まだ潜在的で未知数ではありますが、確かに、ファイアーレッドアイとしての類まれなる能力を保有しているものと思われます。私が光を放つがごとく、アリフが憑依するがごとく、彼にも何かしらの特殊能力がじきに体現されることでしょう。アリフでさえも、その特殊能力の覚醒にはある程度の時間を要しました。最後に一緒に三次元に降りて行った際には、短時間ではありましたが、他者の心身を乗っ取って肉体ごと介入することが可能となっていました。今はどのようであるかはわかりかねますが」
「憑依能力。それはすごいですね。アリフは肉体ごと三次元に向かったと聞きますが、もうこちらには戻ってこられないのでしょうか」
「残念ながら。あちらで有限の命を生きていくことと思われます」
ヒノエはそう告げると、唇をきつく結んだ。
「そうですか。では、その男が成功の鍵を握っていることになりますね」
「はい。さらに訓練を積んで特殊能力が基準値を満たせば、直ちに、王位奪還計画を遂行する予定です」
「いよいよ、ですね。どうかよろしく頼みます」
「しかと承りました」
私は、父と母と弟たちの顔を思い浮かべた。あの状況がどう変わるのだろうか。果たして、王位奪還となるのか。全てはヒノエとその男にかかっている。
私は大いなる宇宙と存在に深い祈りを捧げた。