D2Cはデマンドチェーンへと向かう
少し前の記事になりますが、かのスティーブ・ジョブスに関する記事から、D2Cという概念の先に出てくるであろう潮流について思うところがあったので書いてみたいと思います。
・スティーブ・ジョブズはマーケティングやデザインについての優れた才能で知られている。
・だがアップル黎明期にジョブズとともに働いた元同社幹部によると、ジョブズはサプライチェーン・マネジメントにも優れていた。
・現CEOティム・クックは1990年代後半、同社のサプライチェーンを立て直したことで評価された。だが元幹部は、立て直しはジョブズなしには成し遂げられなかったと語った。
マーケティングやクリエイティブ面での才能と功績で取り上げられることが多いジョブスですが、実はサプライチェーン・マネジメントという考え方にも尋常ならぬ関心を持っていたという記事ですが、メディアやテック主導で語られることの多いD2Cという概念とそこから派生してくるビジネスやその議論のこの先を読み解くうえでも、実は示唆を含んだ内容ではないかと思っています。
メディア&テック企業としてのD2C/1.0世代企業
Takramの佐々木さんの定義によると、D2C企業はメーカー業であるとともに、メディア業でもあり、テック業でもあるということになりますが、現段階までのD2C企業を仮に1.0世代と置くならば、D2C/1.0世代の多くはその成り立ちや特性から考えて、メディア&テック>ものづくり という図式で成長してきたんではないかと思います。
もちろん商品そのものやものづくりをないがしろにしたということではなく、アメリカの多くの先進事例が示すようにモノの機能を限定することでピンポイントの機能性向上とそれに伴う低コストを実現する、といった断捨離的なものづくりに取り組みつつ、語るべき機能を制限することによってむしろ機能の先(もしくは手前)にある価値や魅力を浮かび上がらせるという方法論で、モノとモノが生み出す全体的な価値創造を行なった、という意味で捉えています。
そういった意味合いでのメディア&テック>ものづくりという解釈なのですが、ものちょっとドライにいうと、インターネットの浸透と共におおいに発達した商品生産のOEMインフラにものづくりを任せ、マーケや顧客対応といったフロントエンドを主戦領域として成長を遂げてきた事業群という言い方も出来るかと思います。
ざっくり図式化するならばこんな感じでしょうか。
今の世の中、何かを作ってみたい!と思い立った時、ネットにアクセスして多少でも調べさえすれば、だいたいの方法やそのコストはわかります。製造者側も色々と工夫を重ね、小ロット生産やコストや方法次第では個別の特殊生産などにも対応してくれるところもあります。自分自身にものづくりの知識や経験がなくても、たいていのところは製造業者さんのほうでカバーしてくれる。
そのことを前提に、メディアやテックの扱いに長けた人や企業が支持を得る。そんなイメージです。
ブログやSNSなどに連なる個人の情報発信のコストと障壁が圧倒的に下がると同時に、ものづくりに対する(一次的な)参入障壁が圧倒的に下がったこと、これがD2C企業を生み出す大きな背景になっていることは疑う余地のないところかと思います。
さらに深く、ものづくりの領域へ
こういった背景を前提に考えると、D2C的といわれるスタートアップはこれからもどんどん生まれてくることは間違いないでしょうし、なんらかの思いや志をもって自ら事業に取り組む人が増える世の中、というのは私たちが思い描く社会の理想像でもあるのでこの流れ自体は歓迎すべきものだと考えています。
けれどもその一方で、すでに一定の成長を遂げたD2Cのユニコーン企業たちが、さらなる成長を遂げていくためには戦略の転換が必要だとも言われていますし、大きなスケールを求めないにしてもそれなりに事業が立ち上がって回り始めると、事業者として企業として様々な社会責任を追うことになります。
そういう意味で、D2C企業(もしくはそれを支援する企業)がどこへ向かうのか、どこへ向かうべきかということを考えた時に、やはりD2C企業はものづくりの領域にさらに深く関与して行かざるを得ないと思います。
これは予測というだけでなく、自分たちの実体験に基づいています。私たちが取り組むオーダーメイドの指輪作りは現在全国8店舗で展開していますが、オーダーメイドという部分に多様性という価値の源泉が宿っているという事業的宿命もあり、その成長過程において一番頭を悩ましてきたのはやはりものづくりの領域であり、今もそれは続いています。
今私たちが中長期的な事業目標として取り組んでいるのは、私たちならではの生産管理であり、外部のパートナーも含めた生産システムの構築です。
大げさな言い方をするばらば顧客の価値の需要に基づいて、販売から生産までがダイレクトにつながるデマンドチェーンの創造です。ここでやっと冒頭のジョブスの話と繋がってきます(笑)
サプライチェーンとデマンドチェーン、供給と需要という真逆の方向からの見方になりますが、需要と供給が一気通貫で統合された状態という意味では同じ状態をイメージしていると理解しています。
ジョブスが率いたAppleという存在は、D2C企業の先駆け中の先駆けでもあると思うのですが、理想とする思想を実現するために、メディアやクリエイティブワークだけでなく、プロダクト、その生産のあり方にまで意識を向けていたという意味で改めて偉大であり、外からは見えにくい部分に対してもっと考察が必要なのではないかなと思う次第です。
D2C/2.0へ
あえてD2C/1.0を定義したからには、D2C/2.0について述べないわけにはいきませんが、私なりの考えとしてD2C企業のこれからの方向性、論点についおて、メディア、テック、ものづくり、それぞれの側面からまとめてみると、以下のようなことが言えるのではないかなと思っています。
>メディアはよりナラティブ(文脈共有と共創)に。
1.0世代からすでにSNSを軸に共感をベースとしたマーケティング活動が行われてきたかと思いますが、これからさらにお客様が能動的に商品やブランドに関わる時代が来ると思います。D2C企業のリアル店舗出店はその流れの一つですし、そこで生まれるライブ感、インタラクティブな関係性などが、ブランドロイヤルティをさらに高めていくという循環が顕著になる、そういう意味でのナラティブの創れる人や会社がさらに活躍していくのでしょう。
また多少ずるい物言いになるかもしれませんが、ロイヤルティがありさえすれば、生産量の限界や生産にかかる時間の問題やデメリットを一時的でも凌がせたり、逆にそれ自体でもっと高い魅力に変えたり、ということにもつながりますし、これまた奢った言い方になるのかもしれませんが、ある分野でものづくりに取り組んでいる人間はその分野における良いことも悪いことも熟知しているはずです。そのうえでプロとしての倫理観をもって一般の消費者にあるべき消費のあり方を教え諭す、ということも必要になるのではないでしょうか。ファッション業界からのSDGsに伴う動きや問題提起はまさにこういう流れを示していると思います。
>テックとものづくりのイシューはトータルなデマンドチェーンの構築へ
こちらについてはさきほど述べた通りですが、テックの活用シーンはさらに広がって、よりバックエンドの生産管理、製造、そしてフロントからバックエンドまでを繋ぐデマンド(サプライ)チェーンの構築へと広がっていくと思います。
またものづくりに関しては、コストと最適化された少品種・少量生産のあり方の模索とその実装がより進むのではないかと予想しています。
C2Mという概念については、ひとつの理想形として概念的な把握はしやすいと思うのですが、その実装形態ということになるとテクノロジーという面でもマネジメントという面でも、大企業から私たちのような小規模な事業者まで、これが答えだ!という十分な解を見出しているところはまだないのではないでしょうか。
現時点でも完全個別のフルオーダーメイドではなく、パターンオーダーであったり部分的なカスタマイズ、という取り組みはなされてきていると思いますが、前述のナラティブなどとうまく結びつけながら、以下に相応の価値を顧客に見出していただくか。こういった領域へのチャレンジが様々なものづくりの分野で進むのではないでしょうか。
統合が鍵に
最後になりますが以下は冒頭のジョブズに記事の締めの部分を抜粋です。
「優れたアーティストは真似をする。偉大なアーティストは盗む」とジョブズが好きなピカソの言葉を引用しながら、ルーウィンはこう付け加えた。
「自分の周りを観察し、統合する。ジョブズは統合マシンのようだった。優れた起業家が皆、そうであるように」
iPhoneをつくるプロセスにおいてAppleが世界各地の優れた技術を持つメーカーや加工会社を探し回ったというのは有名な話ですが、いかなる大企業であっても自分たちだけで実現できることは限られています。
そういう意味で、D2Cから派生していくビジネスや思想概念の拡がりにおいて「統合」という言葉が大事なキーワードになってくるのではないでしょうか。
私たちの事業においても、ひとつの理想を実現するためには、すでに多くの取引先事業者さんとの連携、そのための統合が欠かせないものになってきていますし、また私たちなりに得てきたマーケティングであったり、ものづくりであったりに関する知見を、これからD2C的なかたちで事業を志す方々に提供できる様な準備も進めています。
D2Cという概念が、スティーブ・ジョブスのような哲学性に富んだ起業家を範に、バズワードに留まらない展開をしていくと面白いなと思います。
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