H28年度 慶應義塾大学法学部小論文模範解答

問題は東進過去問データベースにて閲覧できます。

担当していた生徒が持ち寄ったアファーマティブ・アクションを題材に書いたものです。慶應の小論文の模範解答はどこの予備校も模範解答を公開していますが、高校生には到底書けないレベルの内容となっています。高校生でも書けそうな平易な解答を心がけて書いております。

模範解答

 人間は自分が心から大切だと思う価値観を社会全体に押し及ぼしたいと思うものだが、それを放置すれば血みどろの争いに発展してしまう。これを防いで、社会全体の利益に関わる冷静な討議と判断の場を設けるために、人為的に公と私を区分している。それ故に、立憲主義的な憲法典で保障されている「人権」のかなりの部分は、比較不能な価値観を奉ずる人々が公平に社会生活の仕組みを構築するために、公と私の人為的な区分を線引きし、警備するためのものになっている。人生はいかに生きるべきか、何がそれぞれの人生に意味を与える価値なのかを自ら判断する能力を、特定の人間に対して否定することは、彼らを同等の存在として見なさないことになり、立憲主義はこれを許さない。筆者はこの論理に基づいて、現状の愛国心教育のあり方を批判している。
 筆者が主張する、公と私に区分し、どの価値観をも同等に扱うという立憲主義の考え方に対して、私は概ね賛成である。しかし、この立憲主義の理念は果たして実現可能なのだろうか。これを検討するために、積極的是正措置を取り上げ、論じたい。
 積極的是正措置とは、社会の少数派に対して、大学入試や就職の際に特別枠を設けて、より社会に参画しやすくする制度のあり方ことである。日本においては、男女雇用機会均等法が、企業や公官庁の採用時に女性を優遇することを容認している。
 しかしながら、採用時の女性優遇は、男性側からすれば逆差別であると反論されることがある。なぜなら、仮に同じ能力を持っていた場合であったても、女性であることが採用の決め手になる可能性があるからである。男性側から見れば、男性であることが不採用の理由になり得るのである。これは、どの価値観も同等に扱うという立憲主義の考え方に反する。ただ厄介なのは、積極的是正措置としての採用時の女性優遇は、そもそも女性が社会に参画に際して平等に扱われることを理念としている点にある。積極的是正措置は少数派を公において平等に扱うためのものにも関わらず、一方で多数派への平等性を欠くものであり、逆説的に立憲主義の前提と衝突してしまうのである。
 だからと言って一概に積極的是正措置を否定することもナンセンスだ。重要なのは、時代の流れの中でバランスをとっていくことであり、どの価値観も平等に扱おうとする立憲主義の理念を体現しようとする姿勢である。

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