
人っておもしろくて愛おしい【隙ある風景 in 高松】
コピーライターで写真家、日下慶太さんの写真展に行ってきた。

「隙ある風景」とは、もともと日下さんが綴っていたブログのタイトルである。
人々の“隙”に焦点を当てたスナップ写真に、コピーライターらしく短い一言が添えられている。
見る人を思わずクスリとさせる、ユニークなものばかりだ。

ブログに掲載された数千枚の写真の中から、選りすぐりの135点を集めて作られた同名タイトルの写真集『隙ある風景』。

冊子ごとにすべてデザインが異なり、
世界に一冊しかない一点物となっている。
この写真集に掲載された写真が、壁いっぱいに飾られていた。

■人っておもしろい
作品をひととおり拝見して、感じたこと。
人って本当におもしろい。
隙のある人間というのは、こんなにも無防備な表情をしたり、ぶっ飛んだことをしたり、思いもよらない景色を生み出したりするのか。
たまらなく、人が愛おしくなる。
みんながみんな、隙だらけで生きれたらいいのに。とつい願ってしまう。

タイガーって書かれたベストなんて見たことない。
タイガーって何?社名?魔法瓶とは無関係?
よりにもよって、こんな緑の中に立つ??
おもしろさがじわじわくる。
「密林のトラ」っていうことばの選び方、いいなぁ。

ひとりひとりあげていく
「清流」と「悪口」って、ほんまは一緒の場所に並んだらあかんと思うねん。でもきっと、めーーーっちゃ悪口言うてると思うねん。
そういうとこ、人間らしいと思うねん。

ハトが来ておこるおっさん
このおっさん、めっちゃ好き。
「なんでハトが来んねん!わしはスズメちゃんのためにエサを買うてきたんや。こら、あっち行かんかい!」
と、いまにも言い出しそうな表情。
「別にええやん。ハトにもエサやりぃーな!」って思う反面、ちょっぴり気持ちがわかるかも。
ほんで、こういうおっさん、昔はけっこういたんよね。なんとなくノスタルジックな雰囲気も感じる。
今は鳥にエサをやるという行為自体が、いちゃもんの対象になったりするからね。そういう意味でも、かすかに哀愁が漂っている気がする。
■物語が見える写真
いろいろな作品を見て、周りから気持ち悪がられそうなくらいニヤニヤが止まらなかった私。
なぜ、こんなにも日下さんの写真に惹かれるのかを考えてみた。
答えはたぶん、物語が見えるから。

この作品がすごくわかりやすいかなと思うのだけど、この2枚の写真の間には明らかに長い時間が流れている。
・なぜ、この人はこんなに長い時間、ここにいたのか?
・そもそも、なぜ、ここにいたのか?
・いつ、どこから来たのか?
・このあと、どこへ行ったのか?
などなど、めちゃくちゃ気になるポイントがある。
真実はご本人にしかわからないことなんだけど、妄想の世界ではこの写真を見た人の数だけ、物語が存在する。
事実はほんの他愛ない理由で、妄想のほうがドラマチックかもしれない。その逆で、事実は妄想をはるかに上回る奇なりなエピソードかもしれない。
正解はわからないけど、写真を通していろんな物語が見える。そこにとてつもなく惹かれてしまうのだ。

このじーちゃん、なんでこんなことに?
おそらくだけど、じーちゃんは妻や娘に言われたんよ。
「タケシ(孫・仮名)寝たから、どっかその辺で休憩して待っといて!」
「私ら、買いもんしてくるから、ちゃんと見とってよ!」
「なんかあったら、連絡してよ!」
そして、じーちゃんは椅子に腰かける。
そう、じーちゃんだって最初はちゃんと椅子に座ってタケシを見ていたのだ。
10分経ち、30分経っても帰ってこない妻と娘。
タケシが寝たのをいいことに、思いきり買いものを満喫しているのだろう。買いもしないものまで、ワーキャー言いながら母娘で見ているのだ。
じーちゃんは退屈になった。そして疲れてきた。
よくわからないしまじろうのイベント(写真右上のポスター参照)に連れ出され、思った以上に疲れてしまったみたいだ。
幸い、周りには誰もいない。じーちゃんはちょっと横になろうと思った。でも、ちゃんと見ていないと妻と娘に怒られる。
じーちゃんは横目でタケシの顔がうかがえるくらいの位置に横たわった。
「しかし、よく寝てるなぁ、タケシは」
親にとって子どもの寝顔は天使だというが、祖父にとっての孫の顔も同じく天使だ。この歳になると、孫の相手も大変なときがあるから、余計にそう思う。
じーちゃんはタケシの横で、そっと幸せをかみしめていた。
両手いっぱいに買い物袋を提げた、妻と娘にたたき起こされるまでは。
「じーちゃん!じーちゃんが寝てどうすんの!!」
「ちゃんとタケシを見ててって言うたやんか、もう!!!」
私の妄想だと、「孫が起きるまでは」じゃなくて、「妻と娘にたたき起こされるまでは」にタイトルが変わってしまうけど・・・。
それでも、楽しい。事実は何なのかわからないけど、妄想が楽しい。
■違いをおもしろいと思える世界に
当たり前だけど、人というのは一人一人違う。唯一無二。オンリーワン。だからこそ、おもしろい。自分では想像もつかないことをしている人たちにビックリしたり、笑えたり。
誰しもが“違いをおもしろがれる人”になれたら、世界はきっと平和になるのに。
そんなことを思いながら、帰路についた。
ユニークでノスタルジックで愛のある、素敵な写真展だった。
「隙ある風景」in 高松
隙、それは人間や風景が無防備な瞬間。
全く他者を意識していない状態。
人間が存在しているところには必ず隙がある。
写真家であり、コピーライターでもあるという強みを生かし、写真に言葉を添えています。
写真そのものはもちろん、写真と言葉の微妙な関係をお楽しみください。
【ケイタタ/日下慶太】
1976年大阪生まれ大阪在住。コピーライターとして働きながら写真家、UFOを呼ぶためのバンド『エンバーン』のリーダーとして活動中。BlogとInstagramで『隙ある風景』日々更新。
著作:写真集『隙ある風景』『迷子のコピーライター』(イーストプレス)
佐治敬三賞、グッドデザイン賞、TCC最高新人賞、造本装幀コンクール、日本印刷業連合会会長賞など受賞多数。
会場:コトマス兵庫町
会期:4/29(金) - 5/30(月) ※お早めに!
時間:11:00 - 19:00
入場無料
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作者在廊:5/28(日)-5/30(月)
タイミングが合えば作品解説も!
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私も少しだけお話させていただきました。
お忙しい中、感謝です!
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