ライターなら「おいしい」以外でビールを表現してみたい
ビアバーに並ぶたくさんのクラフトビールの中から、気分やシーンに合ったものをスマートに選べる、かっこいい大人になりたい……。
そんなよこしまな気持ちで始まったビール特集。
いよいよ、今回はビールを飲み比べながら味の違いをさぐります! 自分好みの一杯を見つけるヒントになるはず!
クラフトビールを飲んでいていつも「なんとなくこんな味」しか覚えていなくて、次に選ぶときは「これってどんな味だったっけ……」になってしまう。そんな自分も、今日でサヨナラだ! レクチャーは第1・2回同様、東京・駒込「日ノモトブルーイング」田村大介さん。
見た目はそっくりな2つのビールでも、味は大違い!?
――ビールの味の違いがわかるようになるコツってなんでしょうか? なんとなく、ビールの色でふだんは判断していることが多いです。黒いビールは苦いし、白っぽいビールはマイルドで飲みやすいようなイメージがあるような……。
田村さん:では、こちらの2つを飲み比べてみてください。色味はよく似ていますよね。
――「いつも飲んでいる日本の生ビール」にも近い色合いですよね……あれっ、この2つ全然味が違う!? しかも、右側のビール、めちゃくちゃ苦い!
田村さん:全然違いますよね。左はケルシュスタイルエールでアルコール度数は5%、右はアメリカンベルゴスタイルエールでアルコール度数は6.4%。だから一概に「色が似ていると味が同じ」ともいい難いのがビールの面白いところ。原料である麦芽やホップの種類や組み合わせ、ホップを入れるタイミングや発酵の時間といったさまざまな要因で変わるんです。
ビールの味わいを表す3つの基準!「苦さ」「香ばしさ」「重さ」
――やはり見た目だけで味の違いを判断するのは難しい模様。ではどうすれば?
田村さん:ビールの味を表現する方法はたくさんあり、お店や人によっても違うんですね。これはあくまでも僕がお客さんに説明するときに使う指標なのですが、大まかに、①苦さ ②香ばしさ ③重さ の3つから捉えてみましょう。
①苦さ:ホップが多いと苦みが強くなる傾向がある。また、国際苦味単位である「IBU(International Bitterness Units)」が表記されているケースも増えていて、数値が高ければ苦味が強い傾向に。
②香ばしさ:麦芽をローストした香り。基本的にはビールの色に比例していて、色が黒いほど香ばしく、白いほど香ばしさはひかえめ。
③重さ:飲みごたえを表す。のどごしが爽快か重厚か、飲んだ後の風味や味がどれくらいあるか。
1回目に出た4種類のビールを飲み比べてみよう
実際に飲みながらのほうがイメージしやすいでしょ! ということで、第1回にも登場した4種類のビールで解説してもらうことに。
①ファームハウスエール
別名「セゾン」。軽やかで爽やかなのが特徴で、苦さ・香ばしさ・重さともにひかえめ。白ワインのようなフルーティーさを持つ。夏の農作業での水分補給につくられたのが始まりなので、暑い日にゴクゴク飲むのにぴったり。サラダなどの前菜に合わせるのがおすすめ。
②ヘイジーIPA
ホップをたっぷり使いながらも、苦みはおさえてフルーティーな味わいが際立つビール。ヘイジーは英語で「Hazy:かすんでいる」という意味で、濁っているのが特徴。飲みごたえもしっかりあるので、ハンバーガーなどのガッツリ系の食べ物と相性が良い。
③ESB(イングリッシュエールのExtra Special Bitter)
穏やかながらしっかりした苦み、かつ麦芽のやさしい甘みと香ばしさが特徴です。炭酸も控えめで紅茶のようにじんわりとしみわたる、素朴なビール。夕方に紅茶を飲むようにじっくり味わいたいときにおすすめで、ビスケットやクッキーなどのおつまみとよく合う。
④スタウト
「ドラフトギネス」が代表的な黒いビール。ローストで黒くなった麦を使った香ばしさが特徴で、苦みも飲みごたえもしっかりある。カカオ、ラムレーズンのような香りと甘さもあるため、おつまみもチョコ系やドライフルーツと合う。締めの一杯として、ゆっくり楽しむタイプのビール。
田村さん:それぞれを5段階で数値化するとこんな感じです。
さらなるワンステップ! 「自分でビールの味を表現する」
田村さんの丁寧な解説を聞きながら4種類を何度も飲み比べてみると、苦さ・香ばしさ・重さの違いがわかるようになってきた……気がする! さあ、ここからが最後の1ステップ。「自分でそれを感じ、表現できるようになれるのか」である。
ということで、利きビールに挑戦! この日まだ飲んでいないビールを、銘柄を聞かないまま飲んでみて、苦み・香ばしさ・重さを自分で評価してみることにした。
ここでワンポイント! グラスへの“ひと手間”でビールがおいしくなる!
緊張しながらサーバーから注がれるのを待っていると、あることに気がついた。棚から出したグラスを水で濡らしている?
――あれっ、ビールグラスを水で濡らすんですか?
田村さん:グラスについた埃やにおいを取るために一度水でくぐらせています。乾いたグラスにビールを注ぐと、グラスの内側に気泡がついてしまうんですよ。こうやって一度濡らすことで注いだときの見た目も美しくなります。自宅で飲むときもぜひやってみてください。
そして私は「ビール迷子」になった
――苦みは、さほど感じない気がする。
香ばしさは、色もオレンジで濃いめだし、そこそこある、気がする。
重さは、飲み込むときの重厚感があって、飲みごたえもある……気がする。
あとは関係ないかもしれないけれど、飴のようなねっとり感がある……気がする。
すべての語尾に「気がする」がついてしまった。完全にビール迷子だ。
悩みに悩んで、出した答えはこちら。
<ライター大浦の解答>
・苦み:1
・香ばしさ:2
・重さ:4
気になる答え合わせ。見事当てられるのか?
それでは答え合わせ。
<正解>
・苦み:4
・香ばしさ:2
・重さ:4
田村さん:出したビールは「ダブルIPA」といって、ホップを大量に使うIPAのなかでもさらにホップを多く使ったビール。力強くシャープな苦みと香り、ガツンとパワフルな飲みごたえが特徴です。
――香ばしさと重さは見事正解! でも、苦みはあまり感じられなかったような……?
田村さん:麦芽の甘さで苦みが中和されて感じにくかったのかもしれませんね。とはいえ、いい線いっていると思いますよ。飴っぽいという感想がありましたが、まさにオレンジキャンディーのような香りがこのビールの特徴です。総合で70点くらいかな。
田村さん:今回は苦さ・香ばしさ・重さで評価してみましたが、アルコール度数や産地、透明度、香りなど、評価軸はいろいろあります。自分なりの指標軸が決まると、飲み比べていくのがもっと楽しくなりますよ。飲むときの気分やおつまみで選び方も変わるでしょうし、たくさん飲んでぜひお気に入りの一杯を見つけてください。
今回、いろいろなビールを飲み比べて味の違いをさぐることで、「自分の好きなビールの味」を知ることができたのが一番の収穫かも。どうやら私はヘイジーIPAのような、フルーティーな味が好きなようだ。
田村さん:ヘイジーIPAは世界的に大人気で、うちの店でも売り上げアップのために必ずラインナップに加えます。自分のつくりたいビールをつくるのが僕の基本スタンスですが、ヘイジーIPAはどちらかと言うと“ビジネスヘイジー”です(笑)。
ビジネス……田村さんそれ言っちゃっていいの!? とはいえ、ビールがなんとなくわかるようになったら、今度はビールに合うおつまみをさぐりたくなった。安くて簡単でめちゃくちゃおいしくて、クラフトビールに合う、家飲みでサッと出したら周りに尊敬されるおつまみを。次回、「ビールのおつまみも完全に理解した」人に私はなれるのか? お楽しみに!
(つづく)
クレジット
文:大浦綾子
編集:川口有紀
撮影:和田咲子
校正:月鈴子
取材協力:日ノモトブルーイング
制作協力:富士珈機
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