とにかく回せ! されば答えは見つからん!?
#てさぐり部の心の拠り所、手回し式焙煎器くるくるカンカンは、「わざわざ」自分でコーヒー豆を焙煎することで心のゆとりを生む。だったら「わざわざ」くるくるカンカンでコーヒー豆焙煎以外のことをしてみたら、もっと心のゆとりを得られるのでは!? と、前回は重みに着目して書道や筋トレをしてみた。だけどやっぱりくるくるカンカンといえばくるくる、つまり回転だ。
ねっとりとした高級感のある回転機構を生かすものとは?
コーヒー豆焙煎器で「わざわざ」コーヒー豆焙煎以外をやることの良さが未だ見つかってない。「わざわざ」コーヒー豆を自分で焙煎する、あの心の余裕や楽しさはどうやったら再現できるのか。
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前回は重みに着目してくるくるカンカンで色々やってみたのだけど、どれも手応えがなかった。「くるくるカンカンじゃなくていいじゃん」という地点から逃れられなかったのだ。
くるくるカンカンらしさとは、やはりそのくるくる加減、あのねっとりとした高級感のある回転機構にあるんじゃないか。くるくる回転するものといえば……
万華鏡だ。くるくるカンカンでくるくる回す、楽しい万華鏡を作ってみてはどうだろう。
インターネットで万華鏡の作り方を調べてみた。
作り方を紹介しているサイトでは、大きな目をした可愛らしいウサギさんがいて、大人ならおそらく誰でも読める漢字がひらがなで書かれていた。明らかに未就学児向けに作られたサイトだ。
私はくるくるカンカンでコーヒー豆を焙煎し、大人の余裕を楽しんでいたはずだが、幼児返りしてしまったのだろうか……。
そのサイトによると、ビーズを入れたプラケースの中に粘性のある液体を入れるとゆっくり絵が変わるらしい。今回は液体の洗濯洗剤を入れた。
万華鏡の部分はトイレットペーパーの芯から来るチープさがあるが、全体で見ると、くるくるカンカンの存在感のおかげで、科学博物館にあるようなしっかりした展示作品に見えてきた。
さっそく回してみると……
中学生の娘を持つ父たちが万華鏡を見せ合っているシュールさ
かつて子供の頃に作った万華鏡とは見え方が違う。大人になり、粘性のある液体を入れることを学んだことで、より本格的な万華鏡に昇華した!
とはいえこの美しさは「いい大人が万華鏡を作りました」ということでしかない。くるくるカンカンでわざわざやる意味とはなんだろうか。
しいていうなら、このハンドルを回す感触だろうか。
それを意識しながらもう一度見てみた。
ベアリングによるものかグリスによるものかは分からないが、高級感のあるこの重厚な回転の感触が、万華鏡の描き出すイメージの、ゆっくりとした移り変わりと連動している。
これは高級感のある万華鏡体験だと言っていい。
だとしても、だからなんなんだ。
科学博物館に万華鏡として展示できるレベルの見た目であり、それは中身においても達成できた。
だとしても、だからなんなんだ。
このようにちょいちょい「だからなんなんだ」が襲ってきて、我に返りそうになる。
気を紛らわすために、編集担当・いからしにも見せてやった。
どうだ、お互いに中学生の娘を持つ父たちが万華鏡を見せ合っているこの構図は。私たちは心の余裕を得て優雅になるはずだったのに、どうしてこんなことになったのか……。
万華鏡の試みはある程度は評価できたものの、まだまだ我に返りそうになってしまっている。反省点として考えられるのは、題材そのもの、つまりキラキラしたものにそこまで興味がなかったということだろう。
どれだけ回せば絵の具は落ちるんだろう
そうだ、私達は塩麴の発酵具合とか区民センターの登録抽選日とか、もっと生活に密着したものに興味があるのだ。
今度は生活感のあるもの、家事の代表例と言ってもいい、洗濯をすることにした。
店で買えるコーヒー豆をわざわざ家で焙煎することが心のゆとりを生んでいるのだ。
機械でできる洗濯をわざわざ自分の手ですることも心のゆとりを生むに違いない。
ふだんはコーヒー豆を攪拌する羽根が今日は洗濯物を叩きつけている
一回しすると、ぽっちゃりぽっちゃり……と、ゆとりのある音が聞こえてくる。
これはたしかに、心が落ち着いて、良いかもしれない。
靴下3枚程度しか入らないのも、機能性の対極にあって、心に余裕が生まれそうだ。
「私ね、洗濯機が回ってるのを見てたら時間がつぶせるんですよ」
という大竹まことの台詞がシティボーイズのコントの中であった。
たしかに洗濯機が回転し、しばらくして逆回転し、また逆に回り、浮かんでいた洗濯物が沈んだり、泡が生まれては消えていくのは、意外と見ていられるものだ。
くるくるカンカン、いや、くるくる洗濯器の中を覗き込んでみる。
ふだんはコーヒー豆を攪拌する羽根が今日は洗濯物を叩きつけている。洗濯する水の色が絵の具の緑に変わっている。このくるくる洗濯器も見ていられる。
よしよし、きれいになっているぞ……‼
ついほくそ笑む。これは、コーヒー豆を焙煎しているときの気持ちに近いものがある。成功かもしれない。
私は今、わざわざ一枚の靴下を自分の手でぽっちゃりぽっちゃりと洗濯している。こうして丁寧に丁寧に靴下一枚だけを洗濯するのは、新たな趣味として成立するかもしれない。
私は今、右頰を殴られたら左頰を差し出す自信がある。だけど警察には一応届ける。それくらいの心の余裕がある。成功だ。
めちゃくちゃ絵の具が残っていた。
いや、絵の具が落ちていなかった。
自分の子供がせっかく通わせている塾で何も勉強をしていなかったと知ったとき、こういう気持ちになるのだろうなと思った。
試しに自分の手でごしごし揉んでみると、みるみる絵の具は落ちていった。
そうだ、電気洗濯機は「自分でやるのが大変すぎる洗濯をやってくれる」という理由で、戦後の一時代、「テレビすげえ」「冷蔵庫すげえ」と肩を並べていたのだ。コーヒー片手に代役できるような仕事ではないのだ。
あのぽちゃぽちゃとした音の印象は、やさしさから次第に怒りに変わり始めた。なんだったんだあの時間は。
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もちろん、機能や合理性だけを求めるのであれば「わざわざ」自分でやることはない。
とはいえさすがに結果がゼロであると、人は「わざわざ」やることに意味を見出せないどころか、
怒りすら湧くということもわかった。
まだまだくるくるカンカンの可能性を探る試みは折り返し地点である。
ここから大きく巻き返すこととなる……のか⁉
(つづく)
クレジット
文:大北栄人
編集:いからしひろき(きいてかく合同会社)
撮影:蔦野裕
校正:月鈴子
制作協力:富士珈機
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