『二重被爆について』 故鶴見俊輔さんと黒川創さんとの2009年の対談。
『二重被爆について』
哲学者の故鶴見俊輔さんと黒川創さんとの2009年の対談。(音声の書き出し)
黒川)二重被爆をやってなかったらそこからやりましょう。
原爆は仕切り直して、次回やりましょうって言う話だったんです。
ちょっと時間を前後しながらお伺いしたい問題なんですよ。
鶴見)日本のアメリカとの関係に絡むし、現在の問題なんだ。
黒川)最近、鶴見さんよくおっしゃいますけども、要するに8月6日に被爆してもう一回行った、先の3日後に長崎で被爆するってことですよね。そういう人たちの問題っていうの鶴見さんお知りになったのはいつですか?
鶴見)いや全然知らなかったんだよね。
本を送ってきたから読んだんだ。その中に岩永章って言う人物がいるんだよね。
それは広島まで出張していて働いてて、そこで原爆を受けて、長崎まで帰ってくるんだ。それが自宅のある場所なんだ。
行き着く先に、長崎に着いたところでもう一回原爆にあったんだ。
それでも生き残ったんだ。
その中で今、回顧してね。言うんだけどね。
こういうんだ。
『弄ばれたような気がするね。』
いやー・・・・・・
それが心に残ったんだよね。
まさにそれが原爆投下の真相なんだ。
大統領になったばかりのトルーマンは原爆を作ったいきさつから知らないんだよ。
大きな人類史の中で、これの位置づけとか、だいだい発案者がルーズベルトの手紙の最初に書いた、アインシュタインの持っている歴史的想像力を持っていないんだね。 (トルーマンは)正直な男なんだ。
大統領権限だから日本に投下することにした。
しかし、それまでに前大統領のルーズベルトはずっと超高空からの爆撃隊の写真をずっと見てるから、日本にも連合艦隊がないってこと、トルーマンもその結果も知ってたんだよ。
それがだいたい都市にある兵器工場はみんな潰れていて、
あと兵器を出そうと思っても補充できないってこと知ってるんだよ。
その上でね、アメリカの兵士の損害を少なくするためとか、、そういう理屈は全然それと整合しないんですよ。
で、この問題をはるかにイギリスで政府と密接に動いていたから、やり方を全部知ってた物理学者のCPスノーはね、ちゃんと事実に基づいた記録としての『科学と政府(Science government )』って言う、これ非常に良い本なんだ。これ小さいけど、それを書き、またそれを背景にして『The New man』新しい人間、って言う小説書いたんだね。事実に基づいてね。
その中で、もうもうすぐ死ぬってことになっている若いイギリスの科学者が2つ目の原爆の投下を聞いたときに、ものすごく怒るところを小説にして書いてるんだ。(ここで鶴見の眼が剥き出しになり、怒りがみなぎる)
ものすごく怒るんだよね。
人間の恥だと思う。
どうしてかって言うと、米国がその時2つしか爆弾を持たなかった。
その2つは組み合わせが違うんものだったんだよ。1つ落として効果は目に見える。その上でもう一つ組み合せの違うやつを落としてみようって、
いったいなんだって言う!!!
本当にその科学者としてインサイダーがなければ怒らないような仕方で英語で言えば、Blow off the top だな。
頭蓋骨が吹っ飛ぶくらい多分腹立つんだよ。そんな事を書いてるんだよ。
これは率直に言ってジキル博士とハイド氏なんだよ。
つまり、原子力の力を手に入れ、もはや科学者はヒポクラテスの時代の科学者ではないんだ。
ヒポクラテスの時は1人対1人だったんだよ。
1人と1人の関係で科学的知識を悪用してはいけない。患者が大金持ちだったら、彼をうまいこと殺して、財産を自分のものにしようと言うふうな仕方で使っちゃいけないって1対1の信義なんだよ。それを僕らは箴言として残した。
黒川)そうだね。
その中間に、ファラデーがいるね。
ファラデーは鍛冶屋の息子で、非常に善人で勉強が好きだから、『ろうそくの科学』というのを書いて、ろうそくが燃えるとは、どういうことかと、きちんと科学的な分析をした。岩波文庫が言っているよね。大変な善人だよね。
ヒポクラテスがいて、ファラデーがいて、100年前に、そして今、アインシュタインまで行った。
アインシュタインには歴史的想像力があった。
だから、日本に落としたと聞いたときに、自分が今度生まれたら、鉛管工になりたい、土木を操作す。
アインシュタインにはひっそりとしたイマジネーションがあった。トルーマンにはなかったんだよ。
こういう残虐な、その時はもう既に国家の予算を受けて、科学的な設計をするっていう事はもうビックサイエンスですね。
これはもう科学者が双葉になったんだ。ジキル博士にして、ハイド氏を兼ねてんだよ。科学者すべてだよ。
そういう自覚がアインシュタインにあったんだけど、ルーズベルトにも何かあったかもしれない。トルーマンにはなかったんだよ。
そしてトルーマンはそうしたアメリカ政府は、それから63年。国民に対して、また世界に対して隠し続けた。
日本人は忠実に隠すことを手伝ったんだよ。
落とされてから64年。
すごいことですよ。
この協力は、これが張作霖爆殺を正統化するもんじゃない。
しかしこいつはまた本当に酷いものでジキル博士とハイドなんだよ。
人間の歴史の中の重大な犯罪なんだと思うようになった。