原発事故と被害者心情と刑事裁判


東京電力の旧経営陣3名に対し、東京地裁が原発事故で無罪判決を言い渡しました。刑事事件としては妥当な結論だったように思います。この判決に対し、テレビでは福島県民にインタビューし、「納得できない」「理不尽だ」といった声を取り上げています。福知山線脱線事故でも見られた、お決まりのパターンです。

罪刑法定主義や推定無罪といった刑事の原則は、基本的人権の根幹中の根幹です。人権とは、絶対的な権力者である国家から、私人を守るためにあるものだからです。この思想を自由主義と言います。対する民主主義とは、国家権力の執行を民意に基づいて行うことを言います。民意によって決まる国家権力の執行に対し、私人の生命や財産を守ろうとするのが自由主義であるとしたとき、民主主義と自由主義が原理的に競合することが分かります。そして、民主主義と自由主義の競合の中で、自由主義を優先すべしと憲法が定めたものを基本的人権と呼ぶのです。

私人である東電の旧経営陣3名の無罪判決に対し、メディアが被害者心情を全面に打ち出して世論を煽ることは健全だとは思えません。こういった報道が繰り返されるのは、ぼくら日本人が憲法も人権も正しく理解していないからにほかなりません。法治国家として、自由主義、民主主義の国として、日本社会が成熟していくには、まだ少し時間がかかるように感じます。

#COMEMO #NIKKEI

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