南 信長『やりすぎマンガ列伝』(角川書店、2015年)を読みました。

マンガという想像の世界だからこそ表現できるエクストリームな“やりすぎ”マンガを取り上げた評論。ゴルフで超絶な技を繰り出したり(『プロゴルファー猿』)、還暦過ぎまでバリバリにプレーするプロ野球選手(『あぶさん』)、手錠をしたまま通学する不良高校生(『男組』)など外れ値好きの私としてはたまらない企画です。しかし、社会派の『はだしのゲン』や『光る風』『アシュラ』になると極端な描写の中に社会の本質が炙り出されていることが分かるような気がして映画だけではなくマンガというものは同時代の社会を映し出すものだと妙に納得してしまいました。(こうしたやりすぎマンガが出てくる背景の一つに少年マンガ誌としては後発だった少年ジャンプが新人を起用せざるを得なかった事があるというのにも納得。)マンガ評論としても優れているし戦後の社会史を振り返り日本のギャグの本質を探る資料としても面白いと思います。それにしてもマンガという文化が戦後ごく短い期間に創られたのはある意味奇跡的だと改めて思います。

本書より…

これらの作品に共通するのは、やけくそとも思える荒唐無稽な設定と展開だ。タイトルからして挑発的な『ハレンチ学園』や超人野球に度肝を抜かれる『アストロ球団』はもとより、比較的穏当なコメディである『ど根性ガエル』にしてもシャツにカエルが貼り付くという設定自体どうかしている。『男一匹ガキ大将』はケンカ自慢の中学生が10万人を相手に闘うまでにスケールアップ。最初は王道のスポ根ものだった『リングにかけろ』は途中から宇宙レベルのバトルへと変貌を遂げた。毎週毎週見せ場を作ったうえで来週も読みたいと思わせる“引き”を作らねばならない。人気がなければ早々と打ち切り。そういう状況で、しかも時間に追われて執筆していれば、どんどん派手に大げさになっていくのは、ある意味、必然だろう。

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