『カムカムエヴリバディ』の骨格は、〝直線〟と〝円〟と〝螺旋〟だ
3代100年を描くNHK朝ドラの壮大なテーマが、やっと見えて来た。
ネーミングにこだわる藤本有紀さんだからこそ、名前に隠した意味があると思いながら、ドラマを観てきた。〝ひなた〟が小学生になり、3代がで揃ったところで(川栄李奈さんはまだだけれど‥)、見えてきたことがある。
キーワードは『螺旋』だ。今の〝ひなた〟を象徴するのが『螺旋』なのだ。
安子は〝橘〟家に生まれた。この〝橘〟という漢字は「円い実のなる木」という意味だ。旁の〝矞〟には「木に円い穴をあける」という意味がある。立体の「丸」というよりは、見た目の「円」のイメージが強い。
安子の嫁ぎ先の〝雉真〟家に生まれた。〝雉〟は鳥の名前なのに、〝矢〟が入っている。〝雉〟には「矢のように真っ直ぐ飛ぶ鳥」という意味がある。目的に向かって一直線のイメージ。
安子は、大阪での〝るい〟との生活を、おはぎ一本で始めたが、販路を拡大させていく中で、るいに怪我をさせてしまい、岡山でも「たちばな」再建のために〝るい〟と一緒にいられる時間が大幅に減った。
円を描くような、平穏な繰り返しなら、こんなことはなかった。そこから外れて大きな目標を持ち、そっちに向かおうとすれば悲劇を招く。回転焼きしか焼かない〝るい〟の今の生活は、まさに〝円〟だ。
しかし〝るい〟は、ジョーと出会った。ジョーがるいに贈った初めてのプレゼントは、大阪の地蔵盆の出店で買った風鈴だ。この風鈴の図柄が〝螺旋〟なのだ。
実は〝螺旋〟は、最初から出ていた。荒物屋「赤螺」の〝螺〟だ。この店の主人は、上昇志向が強かった。
〝螺旋〟って何だろうって考えた時、思い当たった。〝螺旋〟とは、〝円〟と〝直線〟を融合させたものだと。一気に帰るのではなく、緩やかに円を描きながら位置を変えていく〝螺旋〟にこそ、人間の意営みや幸せがあるのではないか、と思えてきたのだ。
舞台が京都に移ってからの画面を見てほしい。「風鈴」の〝螺旋〟模様は当然として、「あかにし」の店のガラス戸には、大きく螺が描かれている。ジョーのシャツにも大きな螺旋模様があった。第66回では、さりげなく背景に写る石油ストーブのグリルに、螺旋模様が何度か見える。
「たい焼きブーム」で売上が落ち込んだことを嘆く〝るい〟に、一子は「一時的なものだ」と落ち着かせる。
ところで〝るい〟の中にも〝螺旋〟の影が見える。〝るい〟は〝累〟につながる。〝累〟に〝虫〟がつくと、〝螺旋〟になるのだ。