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挑戦者が集う場所 自分たちでつくる地域の未来

そうめん店「まさご屋」の真砂泰介さん(34)が運営する「麦縄の里(高松市東植田町)」。この春、施設内に次々と個性的な店舗がオープンした。各店舗のオーナーは20代から30代の若者たち。動物性の食材を使わないハンバーガー店やこだわりの材料で作るシュークリーム店など6店舗が入る。各店舗は事業を通じて、「どうすれば持続可能な社会を実現できるのか。そのために何をすべきなのか。」を私たちに投げかける。若者の挑戦を支援し、自らも地域づくりに奮闘する真砂さんに理想の街を聞いた。

▽当事者意識

寺西 真砂さんが考えるいい街とは。

真砂 住民一人ひとりが街をより良くしようと考え行動している街だ。そのために僕は「考える力を養う」ことをテーマに活動している。例えば、安心して飲める水道水や舗装された道路が、どのように供給されているかに思いをめぐらせる。自分自身の頭で社会や経済の本質を考えられるようになると、行動は変わる。

寺西 具体的にどのような活動をしてきたか。

真砂 一般社団法人の「日いづるSETOUCHI」で小規模事業の立ち上げを支援してきた。小規模の起業や開業であっても、経営をすることで思考の幅が広がり、価値観が変化する。そうした人が多様な人を巻き込み行動していくことで、社会の課題に対して当事者意識を持つ人が増えていく。

寺西 一社の活動からどのような事業が生まれたか。

真砂 原材料に動物性の食材を使わないハンバーガー店「ほーぷバーガー」はその一つ。店を運営する香川大学4年生の沖田竜太郎さん(22)とは、一社が開いた勉強会で出会った。沖田さんは環境問題への関心が高く、自らも行動したいとのことだったので、私は「できる限りの支援をするし、高い志の仲間もいる」と伝えた。開業資金を約20万円に抑えるため、設備を無償提供し、麦縄の里に「ほーぷバーガー」のための店舗を建てた。

▽挑戦の連鎖

寺西 麦縄の里は20代から30代の若い世代が事業に挑戦する場になっている。どのように開業までこぎつけているか。

真砂 各店舗のオーナーの思いを僕が理解することからはじめる。次に、金融機関職員に同席してもらい、事業の構想について議論を重ねる。金融機関の全面的な協力のおかげで、対話を繰り返すことで自然と事業計画が練りこまれていく。麦縄の里での開業は、どこよりも挑戦のハードルを下げられたと自負している。オーナーたちが協力しあっていることも大きな価値だ。若者の人生をかけた挑戦を応援したいし、僕が若者から学ぶことは多い。

寺西 なぜこのような場を作ろうと考えたのか。

真砂 挑戦者と一緒に歩める場を作りたかった。僕自身、これまで周りの人たちに助けてもらい、人のつながりの大切さを実感した。麦縄の里内に6月にオープンしたおむすび店の店主は、僕が小学4年生の時に小豆島から転校してできた初めての友人。立ち上げた様々なプロジェクトを引っ張ってくれた。また、施設内のシュークリーム店で働く市原大和さん(23)とは、旧店舗を一緒に建てたり、二人三脚でやってきた。シュークリームは、低温殺菌の牛乳と平飼いの卵を使用するこだわりぶり。市原さんの同世代の仲間7名が集まる法人が、新店舗でシュークリームやカヌレを販売し、その隣でコーヒーやジュースを提供している。各店舗のオーナーたちとは土台となる価値観を共有しているからこそ一緒に歩むことができる。

寺西 市原さんは「真砂さんの価値観に共感した」と話した。真砂さんにとっての転機は。

真砂 約5年前、4000メートルもの竹のレールにそうめんを流すギネス世界記録に挑戦した。廃校になった小学校の体育館を半年間ほど借り、大人と子どもが一緒になって準備を進めた。流したそうめんは小豆島産。残念ながら記録達成とはならなかったが、関わってくれた人たちが悔し涙を流しているのを見て報われた。結果よりも大切なことは、どれだけ本気になって取り組んだか。舞台を作り、人を巻き込んでいくことの大切さを学んだ。それが自分にとっての転機。それに、無謀なことに挑戦する大人の姿を子どもたちに見てもらいたい。

対話

▽伝統を継ぐ

寺西 真砂さんが経営するそうめん店「まさご屋」では、小豆島の手延べそうめんを伝統的な製法でつくり続ける。

真砂 約400年の歴史がある小豆島のそうめん。最盛期には400軒以上あったそうめん店も今では150軒程度にまで減り、伝統的な製法の手延べそうめんをつくる店はほとんどなくなってしまった。私は昔ながらの小豆島の手延べそうめんを後世に残したいので、その価値を伝えようと取り組んでいる。ギネス世界記録への挑戦もその一環。「まさご屋」で提供するそうめんは施設内の製麺所でつくる。手延べそうめんの伝統的な技を多くの人に見てもらえれば。

寺西 国産の小麦を使用したそうめんが人気だ。

真砂 国産の小麦を使用したそうめんの値段は通常の3倍に設定した。「讃岐もち麦ダイシモチ」のそうめんに至っては5倍。それらを売り切れたことは自信になった。味にこだわり、価値を伝えることを徹底し続けた成果だと思う。目先のお金を追い求めてはダメ。その時点では消費者から求められていなくても、自分が社会のために必要だと信じる商品づくりを追求してきた。これは小規模の事業だからできること。仲間たちとこだわりのスモールビジネスを次々に生んで大きなムーブメントにしたい。単独では小さなものでも集まれば大きな力になる。

▽学び場

寺西 地域の子どもたちと一緒に「小麦プロジェクト」を進めている。

真砂 過去に香川県で栽培されていた小麦「農林26号」。ひと握りほどの種を4年かけて180キログラムに増やした。昨年11月に白山小学校(三木町)の4年生とその種を植え、今年6月に収穫した。年度をまたぐことになるので、子どもたちに代々、小麦を守り継いでもらえたら。また、子どもたちに小麦を使った商品案を考えてもらい、地域の商店と一緒に商品化を目指している。自分のアイデアから地域の特産品が生まれれば、子どもたちの自信になるし地域への愛着心が高まるはず。

寺西 体験学習の側面がある。

真砂 まちづくりで最も重要なのは教育。一人ひとりが考える力をつけて、地域のためにする行動の積み重ねが豊かな街をつくる。7月から、野菜の収穫と販売を親子で体験してもらう企画を仲間と始める。参加費は野菜代のみで、月に1回の開催を予定している。当日の朝に収穫した野菜の包装やポップ作りをし、販売価格も親子で決めて、麦縄の里で販売する。売上の90%は参加者が受け取り、残り10%は里内で保管する。毎年3月には、里内に蓄えたお金の使い道を決める総会を開く。会に招待するのは、体験に参加した親子。税金や政治、商売やまちづくりについて楽しみながら親子で学べる機会にしたい。

寺西 「麦縄の里」を今後どうしていきたいか。

真砂 香川県に住む人にとって、なくてはならない生活の一部になりたい。僕が運営する雑貨店で扱う商品や日用品、それに野菜などは、地域で循環するものを吟味している。これは、施設内での出店ルールにもなっている。消費者が商品を買うことで自然と地域内の経済循環が生まれるものばかり。商品の販売や食の提供と一緒に、その背景にある社会課題やストーリーを伝えていきたい。100年先のことを考えて、いま仲間たちと全力で行動する。

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