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後編 アマーロで、文化を紡いでいく 伊勢屋酒造 元永達也さん

神奈川県相模原市緑区小原(おばら)でアマーロ「SCARLET」を造る元永さん。前編では、アマーロを造ることになった経緯を中心にお聞きしていきました。後編は、元永さんが持つこだわりやお酒造りへの考え方についてさらに深掘りしていきます。

取材・文・写真:大島 有貴

前編はこちら↓


ひと目で伝わる「見た目」の重要性


──ラベルのデザイン、素敵ですよね。BARに置いてあってもその世界観を壊さない雰囲気です。

ありがとうございます。僕は、バーテンダーとしてBARにいましたし、酒屋さんで働いた経験もあります。そこで、お酒がどのようにお客さんに選ばれているのかを体感してきました。その中で特に感じたことは、味も大切だけど、「見た目」もとても重要だということ。BARでお酒を頼むお客さんも、酒屋でお酒を選ぶお客さんも最初は飲んだことがないものを購入することが圧倒的に多いからです。だからこそ、お酒の紹介をするバーテンダーを始めたとした伝え手のプロが介在するわけなのですが、見た目における世界観の体現は造り手側でもっと意識する必要があると僕は考えます。一目見た時に、お客さんのイマジネーションを掻き立てる何かがあることが重要だと思うのです。僕はデザインから「SCARLET」固有のオリジナリティはありながらも、丁寧に紡がれてきた歴史の雰囲気を伝えたかった。そういった世界観を体現するために細部まで「見た目」にはこだわりました。

「SCARLET」のフォントはあえて印刷部分をずらし、にじみの表現を行っている。これは、フォントのデザインを全て手描きで行っていた古い時代の空気感を出すため。手仕事感を出すことで、ものづくりへの愛を表現している。

理想の味の原点は、
お酒を選び、楽しむ場での経験から


──味わいの造り方については、どのようなこだわりをお持ちですか。

味を完成させる地点についてはよく考えています。漬け込み酒を造る上で、ベースのお酒のアルコール度数が高い方が効率よくボタニカル(素材)の味が滲み出て、早く完成品を造ることができます。ただ、そうするとアルコール度数が高いがゆえに、最後に完成品のアルコール度数を調整する際に加水の量が多くなります。つまり味が水っぽくなる。それは僕の中では違うなと思うんです。なぜならば、ジンやウィスキー、リキュールといったお酒はそのままストレートで飲むシーンが少ないことを知っているからです。やっぱり夏だったら炭酸割りがお店ではよく出るし、アマーロはカクテルによく使われます。完成品の味わいが水っぽくならずに凝縮感を出すためにどうしたらいいか。たくさんの試作を繰り返した結果、元々65%のアルコール度数があるベーススピリッツを45%にまで下げてから漬け込みを行うとベストであることを発見しました。漬け込むボタニカルは草根木皮。その中でも特に重要な素材はルート、植物の根っこです。この味わいが出ていないとアマーロらしさがなくなってしまうのですが、抽出されづらい素材なので、ある程度のアルコール度数が必要になります。45%という数字はこのルートの味わいがちゃんと抽出されるギリギリの度数なのです。

「SCARLET」には20種類以上のボタニカルが使用されている。ハーブやスパイス、果皮、木皮、根などの草根木皮だ。自社畑で収穫したボタニカルも使用している。

思いもよらない作用が生まれる
香りの組み合わせの妙


──素材、ボタニカルはどのように組み合わせているのですか。

ボタニカルの香りを形で捉えているようなところがあります。「なんや、ええ香りやな」とふわっと香るのは丸い形に感じるし、柑橘に多く見られるシュッと立ち上がるような香りは縦方向の線の形だなといった自分なりの感覚です。そういう香りの形の組み合わせで、思いもしなかった効果が生まれることがあり、それが面白い。例えばブラッドオレンジとクローブを合わせた時にオレンジの香りが出なかったので、オレンジの量を多くしました。だけど、上手くいかなかった。そこで意外にもオレンジの量を少なくして、引き算してあげたら、香りが立ち上がってきたんです。クローブとの組み合わせによってそういう事象が起きてくる。そんな感じでレシピを決める時は、小ロットでそういった試作を何度も繰り返します。今後、造り手としてのキャリアを重ねていくことで、最適解へ辿り着く時間が短縮されるのではないかなと思っています。また、いろんな繋がりの中で新しい素材に関する情報がよく集まるんです。扱ったことのない素材でもピンと来たら試作をし、味わいを探求することを欠かさないようにしています。

元永さんは絵を描く。デザイナーにイメージを伝えるために自分でラフ画を描くそう。描いた絵をそのままラベルにすることも。フランスっぽい雰囲気で好きな作風だったので、思わず撮影。

未来へ文化を紡ぐために、
考え、行動していかなければならないこと


──元永さんはこれから「SCARLET」をどのように育てていきたいと考えていますか。

アマーロで世界一有名なものといえば、カンパリだと思います。その歴史は古く1860年に遡ります。初代がブランドの核になるものを作り、二代目の息子が広めていった。そのようにお酒は世代を超えて繋がり、文化として紡がれていくものだと思うんです。令和2年創業の僕は、これからやることがたくさんあると思っています。ただ、日本でアマーロがまだ広まっていないからこそ、そのイメージを自分たちが作ってしまう可能性、責任も考えながらやっていきたい。例えば、価格の話。品質の良いものを使ってクオリティの高いお酒を作るにはそれなりにコストがかかります。適正価格で売らなければならないのは大前提なのですが、あまりにもそれが高い金額になってしまうと飲んだことがない人が「アマーロって、高いお酒なんだ」と敬遠してしまう可能性がある。自由に自分らしく楽しめるアマーロを多くの人に知ってもらう機会を損失してしまうことがないようにしていきたいと思っています。価格の話は一つの例ですが、文化を育むという中長期の視点を持ちながら、ブランドを育てていきたいです。直近で取り組む予定なのが、Friends of SARLETというメンバーシップ制度。そこでは一緒にアマーロづくりをしたり、クローズドのS N Sでコミュニケーションを取ったりできたらいいなと考えています。「SCARLET」を中心とした人と人のコミュニティをつくっていくことによって、思いもよらないアイディアが湧いてきたり、面白いことが起きたりするのではないかと今からワクワクしています。これからも新しいことに挑戦しながらも、視野を広くもち、文化が紡がれていくための活動をしていきたいです。

スコットランド現地で日本のメーカーの樽選定に同行した際の様子。月日を経て味わいが紡がれる熟成の世界観に魅了されるきっかけとなった。現在、「SCARLET」では熟成用として国内外のウィスキー蒸留所5種類の樽を持つ。今後はラムやシェリーの樽も使う予定。写真:ご本人提供

元永さん、お話ありがとうございました。
これからも「SCARLET」と元永さんを応援しています。

伊勢屋酒造さんの情報はこちら
・オフィシャルサイト

・Instagram

・販売サイト THE ULTIMATE SPIRITS 株式会社RUDDER


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