映画『さがす』鑑賞日記
話題の映画『さがす』を鑑賞してきたので鑑賞記録を。
感想とともにストーリーを語る上で若干のネタバレがあります。申し訳ありません。
あらすじ
大阪・西成。
原田智は万引きをしてしまい娘の楓に引き取られるのだがその帰り道、智は「指名手配中の殺人犯を見た」という。そいつには300万の懸賞金がかかっているとも。楓は冗談っぽく聞き流し親子のいつも通りの時間が流れていたがその翌日智は失踪する。
楓は父を見つけるため奔走し、日雇いの工事現場で父の名前を見つける。しかしそこにいたのは父の名で働く指名手配中の殺人犯"名無し"であった。
楓は父をそして名無しを見つけるため危険を顧みず父の姿をさがす。その果てに楓が見つけたものは…
ミニシアター系の映画(邦画)であり、得てしてそういった作品は、言い方は悪くなってしまうが映画マニアに熱烈に支持され映画を観ない方々の話題にはほとんど上がってこないというのが常のようなところがあったりするが、今作何やら違うらしい。公開されてから日が浅いものの結構色んなところで面白い、凄まじいといった声を聞く。
自分も自称"映画好き"ではあるが、観る本数は月に4~6本程度と真に映画好きな方々からすれば情けない鑑賞本数ではある。ただ一映画好きとしてこれは観ねばなるまいと。
ここまで衝撃的かつダークな作品を邦画で観れたことに感動し、そして自分は趣味で写真をやっているからかどうしても画角やライティング、絞りの具合、映像の中の風景や美術といったことにまず目がいってしまう。市井の写し方や画作り、一つ一つのシーンから生の人間の息遣いや人生が垣間見え、良い意味で湿気ったようなどこか淀んだ空気が流れているような映像は『母なる証明』や『殺人の追憶』、『オールドボーイ』といった韓国の傑作映画を彷彿とさせて「おお!」となってしまった。
画だけでなくストーリーも骨太かつ緻密に練り上げられており、編集でしっかりと無駄を削ぎ落しているからかテンポも良く退屈なシーンというのがなく程よい緊張感を持って観れて「俺は今映画を観ているぞ!」ともう釘付けに。
楓が青春を犠牲にして父をさがす内に見つけた事件の真相。そして父の真の姿。間違いなく楓にとっては絶望の底に落ちてしまうほどの衝撃的な体験であっただろうし価値観は後にも先にもこれ以上はないというほどに揺さぶられたと思う。
そして事件の全貌、楓の心情を知った観客の腹の底にも何か言いようのない感情も。
ネタバレしない程度にストーリーを語ると、佐藤二郎さん演じている智は最初はモラルがあるとは言いづらいのだけどでもどこか憎めないおもろいおっちゃんって感じだったのが、実際は重度の障害を持った妻を介護しそれと同時に娘を支えるために日々を懸命に必死に生きている父でありそんな父親を二郎さんは見事に演じ切っていた。
佐藤二郎さんというと近年はどうしてもコミカルでどの作品やCMを見ても「THE佐藤二郎」といった役どころが多く、役者というよりはコメディアンといった感が否めなくなってしまったなあと正直思っていたものではあるがいやはやこの作品を観て自分がいかに浅はかでいい歳こいてものを見る目が養われていないというのを痛感した。二郎さん凄すぎます…!
ちょっと不潔でモラルのない感じや、妻を真剣に思い介護する様、慟哭する様など感情移入してしまうほどに完成されたもので、コミカルを封じた佐藤二郎という役者はここまで凄まじい演技をするのかと見入ってしまった。
二郎さんだけでなく、娘役の伊藤蒼さん、清水尋也さん、森田望智さんと若手の役者さんたちが「こんな怪物じみた逸材を揃えたとは」と感嘆するほど素晴らしいもので、特に清水尋也さんのサイコパスっぷり異常者っぷりは凄まじく多分今の日本で殺人鬼演じさせたら間違いなくトップに君臨できるであろうあの怪演、しびれまくった。
ムクドリのあのTwitterなんかに跋扈するネット民のような性格や頭の悪さを考えなしに他者にぶつけ、全てに対して当たり散らすかのような不愉快なしゃべり方や態度なんかも森田望智さんはよくあそこまで演じることができたなと。
そしてトイレで見せる智とのやりとり。多くは語らない。激烈な心情の吐露といったこともない。なのに二人で泣く。世を呪っていたかのようなムクドリも"素"に戻る。でも二人が泣く理由は上手く言葉にはできないが分かる。そういった演出・演技。何と巧みなのだろうと見入ってしまう。
重く、ダークな人間劇であり、決して感動できるとかそういった作品ではないのだが人間の暗部に迫りそれを躊躇することなく狂気的に悲劇的に少しの笑いどころも交えて表現しきった本作。
2022年早々にして恐ろしくも凄まじい作品に出合ってしまったものだ。
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