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深夜の巡礼者たち

南インド・オーロヴィル編-8

ポンディシェリーの元フランス領ならではの可愛いカフェに入る。クレープとチャイを食しあーだのこーだの話しながら、日本でお茶してるときバス君はポンディシェリーやオーロヴィルでコーヒー飲んでるんだな…としみじみとしていた。

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彼は血糖値が上がるから1日1食にしてから調子がいいんだという話をしていて、日本の30代と同じだなと思って面白かった。

その後に海沿いの道を散歩したりしたものの、可愛い見た目のクレープやチャイも洗礼にしっかり貢献してくれたようで、やはりお腹が痛くなる…。

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だったら食べなければいい話。しかし断食状態を続けることもできず、つい小腹が空くと懲りずに食べてしまっていた。ゴロゴロする腹を抱えた人間に、ポンディシェリーの強い海風が刺激的に吹き荒んでくる。

『ごめん、やっぱりお腹が痛いし体調が……。
もうオーロヴィルに戻ってもいいかな?』

…ポンディシェリー散策を切り上げ、バス君に急いでオーロヴィルまで送ってもらうことになった。

バイクで2人乗りしながら夕焼けの中オーロヴィルに帰るべく向かっていると、彼が恋愛対象というわけではなくとも何かこう、これって青春みたいだなー…とぼんやり思えてきた。昔、こうして旅先で出会い始まった恋愛を思い出したりしながら、ノスタルジックな気持ちも湧き上がっていた。

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しかーし、そのとき一番に求めていたのは青春タイムよりも、すぐにひとりで横になって休めるベッドといつでも駆けこめるトイレだった。

とほほ…もっとポンディシェリーを味わいたかった…でも彼のおかげで素敵な時間をすごせてありがたかった…青春タイム…それどころではない……。

早く部屋に着かないと、あらゆる意味で本当に困る…!!!

焦りながらオーロヴィル近くの薬局で、バス君に旅行者の腹痛に聞く薬を買ってもらう。もはや自ら英語を話す余裕などなかった。自ら発声したのは『Traveler’s diarrhea…』(旅行者の下痢)くらい。とほほ。

もう汚い話で申し訳ない。
(購入したのは大きなオレンジ色で80円くらいの薬。これが後日えらい効いた。日本から持ってきた梅肉エキスやら胃腸薬はほぼ効果なかった。)

焦りと緊張感とともに、なんとかオーロヴィルに辿り着き、バス君にお礼を伝えるとわたし達はそれぞれの場所へ帰ったのだった。 

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泊まっていたAsfanah guesthouse.

---夕闇の中で部屋にひとり戻ると、
風と共に雨が降り始めていた。

その雨のせいなのだろうか。なんとか部屋に戻れたと思いきや今度は、腹痛に苦しむわたしの滞在部屋には入り口のドア下から、うごうごと灰色で大きめのウジ虫のような芋虫が大量に入り続けていて、沢山の芋虫が行進している部屋と化していたのだった。

どうして体調が悪い今日に限って…。突如として芋虫部屋になっていることにうんざりしながら観察すると、彼らは数歩進み、その場で何故かひっくり返りのたうち回りまた進む…という奇妙な動きをしながら、列になって部屋を囲むように壁際をぐるぐると巡回しながら行進していた。

どういう生態なのかは分からない。数歩進んでのたうちまわり…まるで自分みたいだなと苦く思ったことを覚えている。

旅の最後はちょっと良い部屋を、そう思って宿をVéritéの道路を挟んで向かい側にあるAsfanah guesthouseという、部屋の中にトイレとシャワーがある、お値段もそれなりの部屋へ移動していたものの、

せっかく良い部屋に移動したのにも関わらず、小綺麗な部屋の大きくて高めのベッドでひとり腹痛に耐えながら、何故か入ってきて部屋を巡回する沢山の芋虫達に囲まれているのは滑稽で皮肉だった。

何故こんなにも大量の芋虫達がこの部屋めがけてやってくるの?雨の日は毎回そうなの??これだったら宿を変えなければよかったのかな?!

もう黒魔術でもかかってるんか、この部屋は…熱と腹痛で朦朧とする意識のなかで、芋虫達よもういっそ入りたいだけ入ればいい…彼らが入ってくるドアの隙間を塞ぐ気力も湧かず、自暴自棄気味にベッドに伏せっていた。

より良い部屋を求めれば、芋虫の列。
持っていた甘い香りのするアロマオイルに対し大量の蟻が窓から入り、日本では有りえない程の密度の濃さでごっそりとたかりもした。

…文字にすれば大したことなく、部屋の中で虫が歩いている。ただ、それだけといえばそれだけのことになるのに。

そりゃ体調を崩し、謎の芋虫隊がやってきたらげんなりするだろう。でも、起きている現実以上に妙に苦しく感じていたのは

『あくまでも自分の好みの流れに収まって、思う通りになってほしい。』と一生懸命願い期待通りにいかないと苛立って、そんな思いをしているのは堅苦しい自分のせいなのだとひたすら分析しながら責めたて、常に何かを思考し続けている心身の有様の方だった。

腹痛と熱で滅入っていたんだろう。
それに初インドで思う通りにいかなくたって、しょうがないわけなのだ。

でも内心、『そんなに虫がどーだの部屋がどーだの苦しんで思った通りにもいかないのも、この現実や体験を選んでるのも堅苦しくて神経質な自分のせいだからな?』と、心の中で忙しなくひとりマインドSMが行われていた。

もっと柔軟な心で対応できたら、こんなにうんざりしないで済むんじゃないかと思っていた。(いま振り返ると、そんな一生懸命になってかわいいなーアホやなーと思える。)マインドSM常連者は、起こることすべてを責めの材料にしていくから忙しい。

さらに同時に  
(何かの修行でもしていたのだろうか。謎の修行僧モードが時々発動する。)

『何でこういうことを体験してるんだろう?』という思考のデススパイラル。虫や洗礼の負荷のようなイニシエーション的な出来事がないと古い価値観や考え方を破壊できないからだろうか?それを深層心理では望んでいるのだろうか?ごちゃごちゃ分析しながら、カオスな思索の森フェスティバル(?)が始まり

さらには『だってインドに来てみたかったんだ!アジアで虫が出たりお腹壊したり、よくあることだよ。しょうがないじゃん!大丈夫!』という小さなマキさんと、『この程度でどうしてそんなに困ってるんだ?大したことないだろ??』という謎の厳しい軍人マインドのマキ氏の声が、内側でおらおらと戦っていた。

精神的に統合されていない心のキャラクター達が、一揆のごとくカオスにわさわさ戦っている一人劇場状態で、そりゃ心と体も疲れる。(この辺りの内なる戦いは後で訪ねたフィンドホーン以降で終戦に向かうことになる。)

虫、熱、蒸し暑さ、腹痛、下痢…主催と参加者は自分のみという孤独な思索の森フェスティバル(?)それらによってひたすら苦しむ夜となったものの、げっそりしていようと自らに寄り添おうと、この夜を峠として。

オーロヴィルを通して体験した出来事は、
わたしのそれまでの頭の中の期待と思考のストーリーをすべて刺激し破壊、解体。濁流のように流していったのだった。

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朝になると雨は止み穏やかな晴れた朝となっていて、芋虫達はほぼ消えていた。

晴れ間のなか外に出ると、部屋の扉の前には大量の羽虫の4cmくらいの羽の部分だけが大きなチリトリ2杯分は山盛りになっていたのだった。

虫の本体は??芋虫のものにしては、羽根のサイズが大きすぎるように見えた。それとも虫の羽根ではなく、独特な透け感のある葉っぱだったのだろうか…。

インドの生命体、謎。涙。一体…。

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オーロヴィル編-9「サラスワティーの夢」へ続く。

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オーロヴィル敷地内を夜に移動していると突然出現するシュールな牛達

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