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辻村深月さん『青空と逃げる』を読んで

感想文を書こうと思って気が付きました。
私、逃避行のお話が好きなんだ。

何かから逃げるという話は「逃げている対象」と「逃げた先での生活」の2つと向き合っていく。

「逃げている対象」はたくさんのパターンがある。
・事件の加害者だから
・事件の被害者だから
・仕事に息詰まって
・怖い何かから
・漠然とした不安から

しかも逃げるっていうことは老若男女誰でもできるので、大人から子どもまで色々な話が生まれる。
現実問題として本当に逃げ出せるかどうかは小説の話なのでどうとでもなるし、現実も何もかも捨てればいつでも誰でも逃げ出せる。

だから色々な人の逃避行を追体験できる。

登場人物が逃げているものと向き合うには時間が要る。
正しい情報も必要。
そしてなにより勇気と覚悟が必要。

勇気と覚悟は、心の安定と余裕から生まれる。
逃げてきてすぐは、心が揺れて落ち着かない。

登場人物の心を落ち着けてくれるのは「逃げた先での生活」によるものが大きい。
どんなに怖くても焦っていても辛くても、逃げた先では気丈に振舞って生活を手に入れないと生きていけない。

そこでまた、小説だから、出会う。
温かく善良な人々や、全てを受け入れる大自然や、楽しくやりがいに満ちた新しい仕事に出会ってしまう。

これがまた、私の目にあまりにも魅力的に映ってしまう。
実際にその自然に触れてみたいし、そんな人がいるかもしれないと思って会いに行きたいと思ってしまう。仕事だってやってみたいと思えてしまう。

この感動的な出会いがあるから逃避行の物語は素晴らしい。

そして、主人公たちが向き合わなければいけない「逃げてきたもの」と向き合えるようになる、その過程を共にしたいと思う。
そうして一歩、登場人物も自分も成長することができる。

『青空と逃げる』は、自分の心の中に残る素敵な物語でした。
四万十のエビを食べてみたいし、別府の温泉にも行ってみたくなりました。
そして、善良と傲慢につながるお話も。
思わずそこでは声が出てしまいました。
「あの物語を思い出させないで!」

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