[社説]若手が研究に専念できる時間を増やせ 題目には賛成だけど

研究者が研究にあてる時間を十分につくれない。そんな本末転倒な状況が日本の大学で広がっている。科学力強化のため、国や大学は若手人材の活躍を妨げている問題の解消に努めるべきだ。

前半と後半が不一致。
研究時間を増やすべき→大賛成。これが一番効果が大きい。
若手の活躍を妨げている問題の解消が大事→「活躍」が何を指すか、によるのよね。若手の安定雇用が重要、なら大大大賛成。

大学に在籍する研究者の勤務実態に関する最新の調査結果を公表した。年間職務時間に占める研究に費やす時間の割合は約32%と、この20年余りで14ポイント減った。3分の2は研究以外の仕事をしていることになる。
日本の大学研究者は多忙だ。研究のほかにも教育や社会貢献などをこなさなければならない。入試シーズンになれば試験監督などの業務も課せられる。

百パーセント同意。

んでそれを解消するための日経新聞の改善策がこちら。

政府が新たに始めた大学ファンドの支援対象となるような研究型大学を目指すなら、教授が研究室において絶大な権限をもつ講座制をやめるべきだ。

どうしてこういう結論になるのかわからない。
研究時間の確保に有効な手段は
・雑用を減らすこと
・人を増やすこと
・一人あたりの実働時間を増やすこと
これらだと思われる。後述するが、講座制を辞めれば雑用が増え、研究時間は減る。

准教授や助教を積極的にPI(主任研究者)に抜てきする仕組みも要る。

日経新聞が勘違いしてるかもな、って思うのは、PIになれば雑用が増えて研究時間は減る、ってこと。雑用の中には、
・隣のラボの学生が事件を起こした場合の対処
・研究資金の確保
・パートの人材確保
・外国人研究者の応募者の中からいい人を選ぶ
・研究室へのリクルート
などなど、PIが増えれば増えるものも多い。

もちろん、若手准教授や助教をPIに抜擢すると良い面もある。最先端のイケイケの研究を思いついたり、始めた若手が、自分の研究テーマに集中できる点だ。つまり、スーパーマンのような超人的な若手を伸ばすという点では若手PIが増えると良い。
その場合には、スーパーマン達に十分な給料と研究費を与えるべきだ。研究費の総額が変わらなければ、これは他の研究者の人数を減らすことになる。

まとめると、
(A)革新的な研究を増やすべきだ、だから若手PIを増やせ(研究時間は相対的に減ってもかまわない)
(B)研究時間を増やすべきだ、だから研究者の人数を増やせ(インパクトのある研究は相対的に減っても構わない)
のどちらかであれば筋が通る。

革新的な研究を増やすために若手のPIを増やすと、研究時間の総和が減るというのは、次の話を考えるとわかりやすい。

研究者が獲得した研究費を使い、教育業務を代行してくれる人材を自ら雇う「バイアウト制度」の活用を広げるべきだ。

現状のバイアウト制度は、今同じ学科にいる他の先生に教育業務を代行してもらう制度だ。なので、バイアウトをやれば他の研究者の研究時間が減るだけで研究時間の総和は増えない。
新たに人を雇うのであれば研究時間の総和は増える。しかし、その雇用の経費を使うことになる。その費用を他の若手研究者の雇用経費に充てるのと、バイアウトして教育人材を雇うのと、どちらが総研究時間が増えるだろうか。まず間違いなく、他の若手を雇った方がふえる。

実験を補佐する専門スタッフや、研究を支える事務職員を増員し、研究者が研究に専念できる環境作りが欠かせない。

(教授、准教授、講師、助教など主に研究を推進する人の人数)÷(技官、事務職員、その他研究をバックアプする人の人数)という指標があります。この指標で日本は世界最低クラスです。

https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20220519/siryo2_1.pdf  より

元々日本は研究支援者が少なかったのですが、過去20年で起きたことは、大学の予算が減額されたため、元々いた専門スタッフ(技官)や事務職員が減らされ、教員のポストが維持されてきたということです。

つまり、このまま研究費の総額を増やさないのであれば、少数の若手に、研究支援者の雇用経費を含めた予算をたっぷりつけて、独創的な研究をガンガン進めてもらうのでしたら、代わりに年寄り教員を切り捨てるか、他の研究支援者をさらに減らすか、どちらかになります。

国から各大学に自動的に配られる運営費交付金が減る一方で、競争的資金と呼ぶ研究費が増えた。研究者には申請や評価の膨大な書類作りが負担になっている。紙ベースの対応も残る。国が率先しデジタルトランスフォーメーション(DX)化を進めることだ。

若手PIを増やせばさらに申請と評価が増えます。すでに申請書はほぼデジタル化しています。日経に言われることは何もありません。
今後さらに効率化するのであれば、
・2回連続で落ちたら2年申請できなくする(創発のシステム)
・研究費の無い教員の学生を大幅に減らす(海外のシステム)
・申請書を簡素化する(校費の割合が多い昔の日本のシステム)
になるでしょう。どれも問題は多々ありますが、議論の余地はあります。デジタル化せよなどという、きれい事で中身の無い提言をし続けて改革を先延ばしにしたことで今の日本があるように思います。

文科省は40年までに博士号取得者を現在の3倍に増やす計画だ。高度な研究人材を拡充する政策は妥当だが、単に人数を増やすだけでは困る。若いうちから独立した研究者として活躍できる場を提供しなければならない。

革新的な研究も研究時間も増やせ、というのは、理想論としては正しい。しかし予算の増額無しにそれを実現せよ、というのは、竹槍で飛行機を落とせという話であり、気持ちは良いが、何も生み出しません。


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