肩関節周囲炎の夜間時痛に対する理学療法
いわゆる「四十肩」「五十肩」などの肩の痛みに悩む人は非常に多く、外来リハビリを担当するセラピストは多くのケースを担当しているのではないでしょうか?
この四十肩、五十肩は肩関節周囲炎とも呼ばれ、海外における「Frozen shoulder(凍結肩)」と同義語とされています。
この肩関節周囲炎は、発症から寛解まで長期間を有し、激しい痛みと長期間にわたる可動域制限(拘縮)などの症状が特徴的で、患者さんだけでなく、我々セラピストも介入に頭を抱えることも多いかと思います。
長期間におよぶ可動域制限や激しい痛みなどこれらの症状は患者さんのQOLを著しく低下させる原因にもなります。
特に、肩関節周囲炎の特徴的な症状である夜間時痛は、痛みによって夜間に覚醒してしまい、睡眠障害につながる原因にもなり、これもまたQOL低下に大きな影響を与えてしまいます。
セラピストにはこの痛みを早急に改善させるために、たくさんのことが求められます。
肩関節周囲炎とは
肩関節周囲炎は明らかな誘因がなく発症し、肩関節の痛みと可動域制限をもたらす疾患の総称です。
40〜70代に発症する例が少なくとも8割以上であり(中略)可動域制限に関しては、制限を有している症例の6割が肩関節周囲炎とされており、可動域制限は肩関節周囲炎の存在を疑わせる。ただし、腱板周囲病変が約3割を占めているため、その可能性も留意しておく必要がある。
(引用:「肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン」)
長期間症状が継続し、発症から一年以上かけて寛解する特徴があり、寛解までの間には、大きく分けて3つの病期があるとされています。
これら3つの病期はそれぞれ介入に対する反応が異なるため、目の前の患者さんがどの病期の状態に当てはまるのか適切に評価し、それぞれに適した対応が必要とされます。
|炎症期
炎症期の特徴は、誘引のない痛みが2ヶ月半〜9ヶ月続き、安静時痛(とくに夜間時痛)が強く出現します。
この期の介入では、関節内に軽微な負荷がかかるだけでも痛みが出現するため、疼痛を発生させない愛護的な肩関節運動を行い、症状の増悪を起こさせないことがセオリーと言われています。
|拘縮期
安静時痛が軽減し、可動域制限が徐々に進行し全方向に出現するのが、拘縮期の特徴と言われています。
この期では、積極的に拘縮改善を図ることが基本方針となります。安静時痛がなくなったとしても運動中や運動後に痛みが出現しやすいため、運動負荷については、症状に応じて対応していく必要があります。
|寛解期
この期では、痛みが消失し可動域制限も改善する時期です。
患者さんのADL上での目標が達成されている場合、リハビリによる介入は不要となります。
以上が、肩関節周囲炎の発症から寛解までの病期分類になります。
特に、炎症期においては痛みが激しく夜も寝れない状態は患者さんにとって身体的にも精神的にも深刻な問題であるため早期に対処し、改善すべき症状です。
夜間時痛とは?
夜間時痛は明確な定義など明らかになっていませんが、肩峰下滑液包や腱板の炎症、それに伴う肩峰下圧の上昇などが考えられています。
肩関節の三角筋付近に鈍痛を惹起し、起床後もしばらく持続するのが特徴である。夜間痛発生要因は肩峰下圧の上昇が引き金とされており(中略)炎症期では、肩峰下滑液包や腱板周辺の炎症が、拘縮期では肩峰下滑液包と腱板との癒着や瘢痕組織が肩峰下圧を上昇させる因子となり、夜間時痛発症に至るのではないかと考察している。
引用:「夜間痛を合併した肩関節周囲炎の臨床的特徴」
夜間就寝時に疼痛を生じる理由として座位や立位では上肢の重量により烏口肩峰弓下の間隙が拡大するが、背臥位では拡大せず、このため烏口肩峰弓下の圧が上昇しやすいことを指摘している。
引用:「整形外科運動療法ナビゲーション」
林は夜間痛を引き起こす要因を2つに分類し、一次的要因として肩峰下滑液包炎、腱板炎にともなう腫脹、肩峰下骨棘の増殖、烏口肩峰靭帯の肥厚を、また二次的要因としては、肩峰下滑液包と腱板の癒着、腱板のスパズム・浮腫・短縮、腱板疎部を中心とした上方支持組織の拘縮をあげている。
引用:「整形外科運動療法ナビゲーション」
一時的要因・二時的要因どちらも結果的に肩峰下圧の上昇および上腕骨内圧の上昇によって夜間時痛が引き起こされるとされています。
具体的に肩峰下圧および上腕骨内圧の上昇の原因は以下のように考えらえています。
夜間時痛は痛みの出現する特徴によって分類されています。
夜間時痛が長期間続くことで、外旋可動域や結帯動作の制限などその後の拘縮期に対するアプローチで難渋することが多いため、症状に応じながらになりますが、可能な限り早期からこの問題にフォーカスを当てて対応していく必要があります。
私たちセラピストができること
肩関節周囲炎における夜間時痛に対して私たちセラピストができることは一体なんでしょうか。
夜間時痛につながる原因は肩峰下圧と上腕骨頭内圧の上昇と言われています。
肩峰下滑液包や棘上筋腱の炎症に対して介入することは、病態悪化を招く危険性もあるため慎重に行い、状態に応じて注射や服薬など医師と連携し病態をコントロールしていく必要があります。
棘下筋や小円筋などの伸張性低下は、血管の圧迫による上腕骨頭内圧の上昇だけでなく、上腕骨頭のアライメントにも影響を及ぼし肩峰下圧の変化にも影響しているケースも多く経験します。
そのため、夜間時痛の改善のためにもこのような軟部組織へのアプローチは早期から私たちセラピストができることでないかと考えています。
この後からは、早期から肩関節周囲炎に対して介入していくにあたり病態の把握のための評価や私たちができるアプローチについてまとめていきたいと思います。
肩関節機能への評価
肩関節機能への評価で一番重要なのは、疼痛評価であると考えます。詳細な病態の特定まではいかずとも痛みの種類などを把握しておくことは、今後の治療の大枠を決めるために必要な情報となります。
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