【TEP×自治体】自治体の新規事業創出支援のあり方とは
TEPでは、TEPに「アドバイザリーボード」としてご参画頂いている自治体や大学・研究機関の皆様や、個別プロジェクトで連携を行う「プロジェクトパートナー」の皆様と密に連携し、企業の事業構築支援を積極的に行っています。自治体が推進する事業の中には、TEPが主な支援対象としている技術系スタートアップだけではなく、中小企業の第二創業なども含んだ新規事業創出に取り組んでいることもあり、そういった企業に対して、スタートアップの理論を用いた事業構築をお手伝いしている場合もあります。
新規事業創出のご支援としては、2019年から茨城県による「次世代技術活用ビジネスイノベーション創出事業」(2019年度~2021年度)、および「新ビジネスチャレンジ事業」(2022年度~2023年度継続中)に統括プロデューサーとして関わり、事業全体のディレクションを行うほか、研修プログラムの企画運営や、TEPメンター会員を中心としたビジネスプラン構築研修の開催、および個別メンタリングを実施してきました。
2023年5月には、千葉県柏市がスタートアップ支援策を本格化させることに伴い、TEPが企画運営パートナーとして、スタートアップ支援事業を受託しました。今後、スタートアップ向け相談窓口の設置やコミュニティ形成、プロモーション活動などを推進し、柏市へのスタートアップ集積を加速していくことになります。
今回はTEPとこれら地方自治体との連携事例についてご紹介します。
つくばエクスプレス沿線(TX)地域にスタートアップのエコシステムを作りたい
ー TEPの事業について改めてお聞かせください。2023年5月から柏市との連携事業も本格的にスタートしましたが、TEPと自治体との関わりや取り組みのきっかけについて教えていただけますか?
TEPの正式名称は「TXアントレプレナーパートナーズ」です。つくばエクスプレス(TX)の沿線に多数集積する大学・研究機関などの「技術シーズ」の事業化を加速していくため、柏の葉のまちづくりの中でコンセプトが生まれ、スタートアップ支援の活動が始まりました。
※TEPの成り立ちや目指す姿についての詳細はこちらの記事をご参照ください。
技術系スタートアップのエコシステムを構築し、新しい産業を地域で育む。私たちTEPが目指すもの。
TEPのネットワークの中には、個人会員であるエンジェル投資家やメンター、スタートアップと連携したい大手企業等のほか、つくばエクスプレス(TX)沿線の自治体や大学・研究機関、公的インキュベーション施設などが「アドバイザリーボード」として参画しています。このように設立当初から自治体も加わり、かつそれが3つの都道府県にまたがっていて横断的な連携をする場を提供している、というところは、TEPの組織としての特徴のひとつであり、他の民間のスタートアップ育成組織との大きな違いかもしれません。
元々柏の葉を拠点にTEPが設立されたのも、TX沿線地域にスタートアップのエコシステムを作りたいというビジョンが元となっています。TX沿線を一帯として捉え、広域連携は必須と考えているので、足元の柏市だけではなく、千葉県はもちろん、つくば市や茨城県、東京都などTX沿線の自治体に横断的にご参加いただいています。
TEP設立当時はまだスタートアップ育成が今ほど盛り上がっていませんでしたが、ここ5年くらいは、TEPのアドバイザリーボードの皆様からも個別のご相談がぐっと増えてきました。
元々TEPは、1つの自治体に限ってスタートアップ支援を行うという考えはなく、シリコンバレーがそうであるように、もっと大きな範囲で産業創出の場を育む必要があると考えています。TEPは柏の葉を本拠点としていますが、柏の葉単体では、日本を変えリードしていくような産業創出は到底難しく、TX沿線一帯に広がる技術シーズを対象とする必要がありました。
ー TX沿線地域では、スタートアップのエコシステムを作り出すのに適切な環境がもともと整っていたのでしょうか?
つくばは大学や研究機関が圧倒的に集積していて、技術研究において間違いなく日本トップクラスです。また、沿線にキャンパスを持つ東京大学や筑波大学は、当時より大学発スタートアップの活動が活発で、シーズを活かした事業化やその拡大へのポテンシャルがありました。
茨城県の公設試験研究機関がイノベーションセンターとしてリニューアル
ー 茨城県への新規事業創出の支援を行うようになったきっかけは、TEP創設時からアドバイザリーボードとしての繋がりがあったからでしょうか?
つくばエクスプレス沿線の都県に対して、自治体の枠組みを超えて連携するためにアドバイザリーボードに入っていただいてはいるものの、実はそれが最初から強靭な繋がりであったわけではありません。
TEP創設当時、スタートアップの育成に対する熱量は各自治体においてもバラバラでした。今もまだバラつきはありますが、当時はどの自治体も、そこまで自治体レベルでスタートアップ育成をやる雰囲気はなかったです。
そのような中、2018年に茨城県が元々公設の試験研究機関だった施設を、産業技術イノベーションセンターという名前に変えてリニューアルしました。茨城県が公設試験研究機関の将来のあり方を探っている中で、イノベーションセンターという位置づけを作り、新しいことをやっていこうという革新的な変化があったのです。公設試験研究機関とは地元の中小企業のいろいろな製品を作るときの研究開発や検査、各種機器利用のサポートをするところなのですが、それだけではなく、もっと積極的な取り組みをしたいという思いがあったようです。
ー そこからどのような流れで、TEPと茨城県のイノベーションセンターが連携することになったのですか?
イノベーションセンターの方が、私がインキュベーションマネージャーとして関わっておりTEPも本拠点としているKOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)(*1)へ、訪問してくださったことがありました。そこで、TEPの活動や方針について、一通りの説明をさせていただきました。ただ、その時は支援組織を探すというほど目的は絞られておらず、KOILという場所やTEPという組織を参考にされるために来られたような感じだったと思います。
茨城県では、スタートアップだけではなく「中小企業」も対象に。目標は県北事業者の再興支援
ー 茨城県と2019年から始まった具体的な取り組み内容について、教えてください。
2019年から「次世代技術活用イノベーション創出事業」というプロジェクトが始まり、2022年に「新ビジネスチャレンジ事業」という名前に変わり現在も継続しています。次世代技術活用イノベーション創出事業は、国の予算を茨城県が獲得し運営された事業です。軸が複数あり、TEP以外にも事業者がいらして、例えばイノベーションセンターにあるコワーキングスペースを運営したり、技術やDX、IoTに関するセミナーやAIの勉強会があったりなど、多角的な取り組みをしています。
TEPは副代表理事の尾崎を中心に、この事業全体の統括プロデューサーとして、事業のあるべき方向性を定めたり、ご相談に乗りながら中核的な役回りを担いました。中でも事業の核となる「ビジネスプラン構築研修」は、TEPが中心となって運営しているものです。
ー 茨城県北部は、元々日立のお膝元として製造業が盛んである土地柄も、背景として大きいのでしょうか?
茨城は県の北部と南部では特徴が異なります。南部は、筑波研究学園都市があるように国立や民間の様々な研究機関が全国的に見ても著しく集積しているエリアです。茨城県としては、県北の産業をどう活性化するかという課題感があったようです。
県北はつくばができる前から日立のお膝元で、日立の関連会社を含め、そのほかにも多様な分野の中小企業が多いエリアですが、だんだん規模が縮小してきたり、ビジネスモデルの転換を求められる、といった時代の変化の壁にぶつかっている企業も、全国のご多分に漏れず、少なくはないようです。
このような背景から、茨城県の事業ではスタートアップだけを対象とするのではなく、「中小企業&スタートアップ」を対象にしています。どちらかというと、大部分が中小企業で、事業の再構築、第二創業のような観点で、新規事業創出をサポートすることがTEPの役割になっていますね。
製造業だけではなく、サービス業をはじめ幅広い領域のビジネスをサポート
ー 支援企業の領域としてはディープテックのような技術系が中心ですか?
いいえ、実は蓋を開けてみると、必ずしもモノ作りの会社だけではありませんでした。もちろん製造業の会社もありますが、例えば、物販やサービス業もありますし、領域はかなり幅広いです。ただ共通しているのは「新しいビジネスをしっかり作っていきたい」という想いでお越しいただいてるというところです。
ー 具体的なプログラムについて教えてください。
TEPが行っている「ビジネスプラン構築研修」では、毎年、9月頃〜翌年2月頃までのスケジュールで、座学とワークショップ、メンタリングを通じて、ビジネスプランを作成していきます。基本的には全4〜6回で、最初の2回は1泊2日で終日イノベーションセンターに缶詰になります。残りの日は、グループ毎や個別のメンタリングを徹底して行い、受講者たちのビジネスプランをとことん磨いていきます。毎年だいたい20社ほど、これまでの4年で約80社に参加いただいています。
ー プログラムをうまく進めるために工夫していることはありますか。
茨城県の事業では初年度よりSlackをフル活用しており、期間中のメンタリングは、全てSlackを使っています。直接会えるときは対面ですが、対面の際でもフィードバックはSlackに打ち込んで、後から見直せるようにしているほどです。
過去の参加者についても同じSlackに入ってもらっているので、例えば色々な補助金の情報やセミナーの情報、新しい年の研修開催の告知などが、引き続き過去参加者全員に届くようにはなってますね。お互いに質問もできますし、同じ志を持ったコミュニティがあることは、どこか連帯感にもつながるようで、研修受講後に事業が着々と進んでいるご報告がたまにあるときは、とても嬉しいです。
本支援事業からJ-TECH認定企業も誕生
ー 研修を受けた企業の具体的な成果について教えてください。
【株式会社ツインカプセラ】
再突入カプセルの “超” 断熱保冷技術を地上へ 社会へ
茨城県つくば市のJAXA発ベンチャーのツインカプセラは、ビジネスプラン構築研修の第2期に参加され、TEPが最初のビジネスプラン構築からサポートをしました。研修終了後はTEPへ入会され、以降もお付き合いがあります。昨年度の「J-TECH STARTUP 2022」認定企業に選ばれたことによりメディアへの露出も増え、現在大きく注目を集めている企業のひとつです。
まだまだこれからの活躍が楽しみな企業ですが、今回の茨城県事業からTEP事業が上手く連携し、継続的でシームレスな支援が実現できているモデルケースと言えると思います。
【株式会社東京電機】
遠隔操作可能なゴムクローラー式移動電源車を開発 〜災害現場に駆けつけ人々に少しでも安心を届ける〜
株式会社東京電機は茨城県つくば市が本社で全国各地に拠点を置く、自家発電装置のリーディング・カンパニーです。2020年に100周年を迎えた歴史ある企業ですが、既存事業の固定概念に捕らわれず、新事業を発案・実現するための、知識・ノウハウなどを体系的に学びたいと考え、本研修に参加されました。
ビジネスプラン構築研修の第2期に実施された実証支援において、茨城県龍ケ崎市が本社で建設機械、土木機械、環境機器、農業機械などの製造販売等を行っている、株式会社諸岡との2社共同開発で試作機を製作。実際の災害地域においての給電作業、悪路走行性、遠隔操作性などを確認し、市場投入できるかの実証実験を行いました。
本事業の成果として、フィールドの使用に耐え、無線操縦、無線診断等のIoT技術も組み入れた上で試作品の完成を果たし、その後正式な製品「ゴムクローラー型電源車MTRP-100」として、世の中へ送り出すことが実現しました。
【株式会社ハリガイ工業】
確かな品質と経験豊かな技術力で、モノ造りのベストパートナーを目指す
茨城県常総市が拠点のハリガイ工業はゴム成型事業をはじめ、精密機器部品の製造受託事業を行っている会社です。ハリガイ工業は、ゴムと炭素繊維を複合化した製品であるCFR(カーボン・ファイバー・ラバー)の量産開発及び販路開拓のスピードを上げることを目的に参加されました。
実証支援において、独自結合技術で強固な接着を実現した新素材のゴムシートCFRは物性機能評価は得られたものの、サイズと価格について課題があることが判明。その課題を解決すべく量産化技術を確立し、価格も試作時より大幅に下げることに成功しました。「事業を通しCFRを社会に貢献できる素材として広めること、その結果、発展し地域経済に貢献しようという思いがより一層強くなった」との言葉をいただきました。
ー 研修に参加した企業のその後に特徴などはありますか?
一部の企業は、研修終了の後も、セミナーに一緒に参加していた別の企業と連携して、新しい事業を始めたりしていることもあるようです。総じて感じるのは、皆さん非常に意欲的であるというところです。1回の研修で約20社いるので、そこで横の繋がりやいつでも相談できるTEPやセンター職員と繋がれるところも大きなメリットです。中には研修のリピーターの方もおられて、毎年の研修をご自身の頭の整理をするために活用されている企業もおられます。
技術系スタートアップも、新規事業を考える中小企業も、事業づくりのステップは同じ
ー TEPは主に技術系スタートアップの支援をしていますが、茨城県事業をはじめ、技術系スタートアップ以外の企業に対して、TEPの知見や経験はどのように活かされているのでしょうか?
茨城県の事業では、研修を受けられているのは中小企業の方が多いですが、TEPでは、スタートアップが事業を作っていくときのロジックを使っています。
ビジネスプラン構築の段階で、想定顧客に対して徹底したヒアリングを行うなど、中小企業では通常はあまりやらないような内容でも、事業を作っていくという点では共通していますので、スタートアップ事業におけるノウハウをどんどんお伝えしています。
ただ、本業があるという点は、スタートアップとは明らかに異なる点です。これまでやってきている成功したビジネスモデルがある中で、それとは異なる視点を持ち、発想を切り替えるという難しさはあるかもしれません。
本業に対応するために、新しいビジネスプランを作る十分な時間が割けないなどの場合は、できる限りSlackやオンラインでのメンタリングでフォローアップできるようにしています。
ー 続いて、2023年5月から始まった千葉県柏市との連携事業についてのお話をお聞かせください。
柏市のスタートアップ支援事業をTEPが受託。『公・民・学』連携のスタートアップ支援加速へ。
ー 2023年5月、TEPは千葉県柏市のスタートアップ支援を本格化させる「柏市スタートアップ・コンシェルジュ運営業務」を受託されましたが、背景を教えてください。
茨城県と同様に、柏市にもTEP立ち上げのときからアドバイザリーボードとしてTEPのネットワークにご参加いただいており、私自身も2016年から柏市の産業振興会議の委員を拝命しています。また、TEPのビジネスプラン作成セミナーは柏市の特定創業支援事業となっているなど、これまでもその都度、柏市さんとの連携はしてきました。
ただ、柏市としてスタートアップ施策に本格的に取り組むことになったのは、今年が初めてになると思います。TEPの足元でもある柏の葉キャンパスで、いよいよ本格的に関係組織間の強い連携のもとスタートアップ支援が始まると思うと、14年前から取り組んでいる者としては、何とも感慨深く、わくわくしています。
ー 具体的な取り組み内容について教えてください。
TEPは、柏市内外のスタートアップの相談窓口を担うことになります。市や県の様々な支援策でスタートアップの皆様にご活用頂けるものをご紹介したり、より専門的なご相談やメンタリングも一定程度まで対応いたします。また、柏の葉を拠点としたスタートアップのコミュニティを醸成していくために、スタートアップのエコシステムに必須のメンバーを集めながら、交流の機会を作っていきたいと考えています。
そのほかにも、柏市内外で行われているスタートアップの取り組みにおいて、柏市のスタートアップ支援策についてご紹介したり、また色々なツールを活用しながら情報発信もご一緒にしていきます。
具体的なところで言うと、例えば2021年までは、TEP主催の「TEP ビジネスプラン作成セミナー」はTEPが単独開催し、柏市の特定創業支援事業である、という座組でした。しかし昨年からは、TEPの拠点であるKOILの正式なアクセラレーションプログラム「KOIL STARTUP PROGRAM」(主催:三井不動産株式会社)における、受講必須セミナーとなっており、さらに本年からは、そのプログラムに柏市も「共催」としてご参画いただけるようになりました。これは2年前からすると、TEPとしてはかなり大きな変化で、いよいよ柏の葉を舞台に、3者が一体となってスタートアップ支援をする座組になってきた一例だと思います。
その他にも、秋頃より様々な企画が予定されており、いずれも各組織の強みを活かしながら、柏の葉ならではの連携体制で、スタートアップへの総合的な支援を実現していく予定です。
ー 本事業のゴールは何でしょうか?
TEPは設立以来、つくばエクスプレス沿線一帯にスタートアップのエコシステムを作ることを目指して活動してきました。一方、柏の葉キャンパスでは、「公・民・学」連携のまちづくりが推進されており、約17年間をかけて、新しい連携の形を生み出してきました。
私は、その拠点となっている「柏の葉アーバンデザインセンタ―(UDCK)」の立上げ当時からのディレクターでもあるのですが、担当している「新産業創造」という大きなテーマの中でも、TEPを通じてようやくそのプラットフォームが整いつつあるなと感じています。今年はその実感が特に強くなっており、さらに次のステップへどう進むかという命題も同時に感じています。
行政やTX沿線の各組織の皆様と密に連携していくスタイルは、TEPの大きな特徴です。設立当初からのこの方針には、なかなかお手本がなく常に手探りの運営ではあるのですが、今年は大きな一歩を踏み出せたと思います。
地域密着型のスタートアップ支援組織としてTEPがひとつの在り方を示して、地域ならではのスタートアップ支援の仕組みが全国的に増えていくと良いなと思います。
柏市スタートアップ支援事業プレスリリース:柏市におけるスタートアップ支援促進事業への参画について
公式Facebook:https://www.facebook.com/kashiwastartups.official/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/KASHIWASTARTUPS