旅文通2 - リスボン
さて、私のリスボンに至るお話。
ある年、空腹というものを経験した。
ひと月ほど入院している間、数十年に渡ってくり返してきた物を食べるという習慣が禁じられ、アメひとつさえ何やらという成分が入っているゆえ云々と、主治医から許可が出ることはなかった。未曾有の空腹感を経験するうち、しだいに食べ物は空想の中で、どこか遠いが確実に存在する夢の世界に浮かぶ色とりどりの雲になって、夜な夜な虚しく魅力を増した。
その後、退院し、回復し、ごぼうのように痩せた身体が新鮮な大根になった頃、ようやく