平尾充庸という男
彼は生粋の悪ガキである。
今年33歳にもなる彼は隙あらばイタズラに走る。
人を「うわ!!!」と驚かしたかと思えば、不審者になって私の車の周りをうろつき、舐め回すように車内を覗き込んで去っていく。
そこまで身体を張る必要はないのに。とドライブレコーダーに映る彼の姿を見て冷静に私は思った。
彼はよくオナラをする。
生理現象だから"それ"が出てしまうのは100歩譲って仕方がない。
しかし彼はわざと音を出して、みんなの反応を見て喜んでいる。
放火魔ならぬ放屁魔である彼は、私が思い出す限り被害を受けたシーンを上げていくとキリがない。
練習前はもちろんのこと、
ウォーミングアップ中にも"それ"は聞こえてくる。
「うわ、くせ!」と言いながら自分で喜ぶ彼。
同じ列でアップする選手たちが彼の後ろを通る様子を見ると、とても気の毒に思えて仕方がない。
遠征で移動するバス車内と、ホテルのエレベーターで"それ"をされた時は、殺意が芽生えたことを覚えている。
私も含め数人の選手が被害者の会に入っているのだが、それでも彼のイタズラは留まることを知らない。
彼は日頃からよく、疲れていることを周りにアピールする。
「疲れたー」
「きちー」
練習前のテーピングを巻くベッドの上で、まだ何も始まっていないのに、やたらと疲労感を醸し出す彼。
たっぷり休んだオフ明けの練習前ですら漏れなくアピールしてくる。
日頃から口癖のように言うので
「まだ練習始まってないけど?」
そう突っ込むと、待ってましたと言わんばかりにニヤリとする彼は、実はかなりの欲しがりなのかも知れない。
そんな事を日頃から繰り返しているから、いつも入場前に流れる彼の「トゥース」はどこかふざけているように見えてくる。
さて、そろそろ真面目な事を書かないと本人にどやされるのでここまでにしておく。
試合前になると、それまでふざけていた彼の表情はガラッと変わる。
いつもの「疲れたー」と言っていた彼の姿は微塵もない。
ベンチに座りHCの指示を仰ぐその視線は実に鋭い。
そんな、何かを背負い全身全霊で集中している彼を見るといつも気持ちが震える。
「戦う男の気迫」
それがオーラとなり彼の周りを漂わせる。
そしてそれと同時に私は、その気迫を背中で体現できる彼がこのチームのキャプテンで本当に良かったと、心底思う。
彼の選手としての実力はもう誰も疑う余地がない。
シュート、パス、ドリブル。
どれをとっても「一流」なのである。
彼のピック&ロールからのジャンパーは外れる方が珍しい。
小さい身長の割にフィジカルも強く、スピードは一級品。
フロントコートからパスを受けて、スピードとフィジカルで一人、そのままレイアップに行ってしまう場面も少なくない。
運動量は間違いなく多いはずなのに、ディフェンスだって手を抜かない。
ディナイでパスを切れと言われたら、死に物狂いで敵とボールの間に割って入る。
かなりしんどいはずなのにコート上では、そういった顔を絶対に表に出さない。
だからこのチームはブレないのである。
彼がいる限りこのチームは崩れないと、私は確信している。
それだけ彼の背中は大きいのだ。
知ってる人も知らない人も一度会場で彼のプレーを見れば自ずと心惹かれるであろう。
とにかくこれからも沢山の人に彼の背中を目に焼き付けて欲しい。
平尾充庸という男がこの茨城ロボッツをこれから先、どう導いていくのか。
私は最後まで彼について行きたい。