スペイン長屋2023年初夏~
だんだん暑くなってきた。
今日は36度だそうだ。
まだ朝だというのに、散歩に出かけたら夏がむんむんしていた。午後から本気出していきますよ、と言われているようだ。
さすがにこれはエアコンをつけなければいけないだろうか。
しかし、我が家はエアコンをつけられない状況にある。
どうしてですか?
それは、今年もエアコンの室外機の中で鳥が巣を作っているからです。
前に住んでいた人が設置していったエアコンの室外機。
どこからも手が届かない。
なぜこんなところにあるのか謎だが、そもそもどうやって設置したのだろう。
長屋の住民たちからは、次に買い替えるときは別の場所に置いたほうがいいと言われている。もちろんそうしたい。
おわかりいただけるだろうか。
黒いパイプの隣に藁のようなものが見える。
この奥に巣があり、ヒナたちがいる。
毎年の恒例行事になっているようで、春になると室外機のあたりが
とてもにぎやかになる。
朝から晩まで、ぴー!ぴー!ぴー!と親鳥とヒナたちのさえずりが聞こえる。
窓を開けたり、窓に近づいたりしようものなら親鳥は逃げる。
ヒナたちは途端に静かになる。
それはもう、鳥と私がだるまさんがころんだをやっているみたいに。
藁をせっせと運んできて巣作りに励む親たち。
見ていると感動するが、下の階の日よけカバーみたいなものがフンだらけになっているのは微妙だ。
そんなわけで、36度になろうという6月下旬もエアコンをつけられない。
多分もう少ししたらヒナたちも巣立っていく。
その頃には私は日本に帰省しているので、エアコンを使うときがないかもしれない。
自然との共生、そして省エネということで自分を納得させたいと思う。
◆
先月は、下の階のペピと洋服を交換した。
着なくなった服、新しいけどサイズやスタイルが微妙に合わなかったものなどを交換することになったのだ。題して長屋内リサイクル。
日本で数年前に購入した薄紫のキャミソールとスペインで購入したシャツなどをいくつか持って行った。
キャミソールは、日本では「よし、なかなかいいぞこれは」と思っていたのだが、スペインでいざ着てみると、ランニングシャツと短パンでラジオ体操に行く昭和の小学生男子のようだった。これはいけない。
ペピは喜んでそのキャミソールをもらってくれた。彼女がきたらとても素敵に見えるだろう。キャミソールも喜ぶに違いない。
彼女が持って来てくれたのは、ワンピース3着。
すけすけの真っ黒なAラインのもの、ノースリーブのかなり膝上のもの、水玉模様のめちゃくちゃタイトなラインのもの。どれも素敵だが、かなり攻めている。
ペピと私の体型は似ているので、サイズは多分大丈夫だ。
試着だけでもしてみようか。
そう思って着てみたら、思っていたよりもすごかった。
バブル期のお立ち台には、こういう人がいっぱいいただろうか。
前髪を巻いたら、もっとそれらしくなるかもしれない。
しかし、今は令和。
5秒で脱ぎ、なかったことにした。
とはいえ、私は空気を読むときは読むのと、「いいえ」と言うのが場合によっては難しい日本人。せっかく持って来てくれたものを全て返すのは失礼にあたるかもしれない。
迷った結果、ノースリーブのかなり膝上のものを頂くことにした。
どさくさに紛れて誰かの結婚式に着ていくか、レギンスなどと合わせれば何とかなるかもしれない。
現実的には、「箪笥の肥やしになる」に3ユーロ賭ける。
エコなのかなんなのかわからない洋服交換だった。
◆
「携帯見て―!」
お父さん役をするため外門に向かって歩いていたところ、上から声がした。
下の階のぺパだ。
ルイスの奥さんである。
携帯を見ると、ドラム缶ぐらいのサイズのかぼちゃの写真が添付されていた。
「かぼちゃいる?友達にもらったんだけど、こんなの2人じゃとても食べられないからみんなに分けてるの。後でもらいに来てくれない?」
お父さん役の帰りにぺパの部屋をノックする。
「どのぐらいほしい?」
とりあえずキッチンまで来いとぺパが言う。
スニーカーのままキッチンにお邪魔する。
果たして、目の前にはとんでもない大きさのかぼちゃがあった。
半分に切っても、バスケットボールより大きい。
ほんの少しだけお願いしますというと、ちょうど2人分によさそうな大きさを切ってくれた。
「たまねぎ、かぼちゃ、豆なんかと一緒に料理するといいわ。あ、そうそう、レモンも少し持って行きなさい」
その後、パティオを案内してもらう。
きれいに手入れされた花々や塵一つないぴかぴかのキッチン。
まるで映画に出てくるような空間だ。
そして、ぺパの趣味がよすぎる!
「あのね、将来私たちがもう動けなくなったら、あなたたちは上のピソを売って、このピソを買うといいわ。パティオもあるし、全部あげるから」
そんなことを言って、ぺパは笑う。
「いつも家で仕事してるんだろうけど、たまにはうちにいらっしゃいね。困ったことは何でも相談するの。自分だけで解決しようとしないの。ここにはみんないるの。休憩時間にパティオに本を読みに来たっていいの。お茶を飲みに来たっていいの。あなたがスペイン語勉強したかったら、話しに来たらいいの。ただここに来るだけでいいの。あなたの家族や友達は日本にいるかもしれないけど、今ここには私たちがいるのよ。いい?わかった?」
朝からそんなことを言うのは反則じゃないか!
こういうとき、スペイン人にはかなわない。
ぺパのあたたかさがこちらに直球でやってくる。
これ以上話していると、朝から泣いてしまいそうだ。
ありがとう!ありがとう!と連呼し、大急ぎで自分の部屋に戻った。
私は自分一人で大したことはできない。
アンダルシアは全部お見通しだ。
◆
アンダルシア長屋は暑苦しい。
でも、その暑苦しさがたまらなくありがたいときがある。
今日もそんな日だった。
隣の部屋のパコはそろそろ海の家に出かけるころだろうか。
ルイスには昨日通りで会った。また私を拝むようなポーズをして、笑顔でセントロまで出かけて行った。
いつまでいるかわからないこの長屋だけど、自分の居場所が少しずつできてきたような気がする。
日本から来た長女の私は、甘えることがなかなか難しい。
でも、ときどきはちょっとぐらい甘えたっていいのだ、きっと。
まずは、もう少し肩の力を抜いて。
さあ、かぼちゃで何を作ろうかな。
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