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労働学生生活2  博士課程。宙ぶらりん、その後

 

スペインの他の大学を調べ始めた頃、K先生からメッセージが届いた。

あなたのことについて、2人の先生と会議を持った。その先生たちは、あなたの研究計画書を読みたいと言っている。読んだ上で、あなたを担当するか否か決めるとのこと。まずは2人に連絡しなさい。

K先生からのメール


 
そのメッセージの下には2人の先生の名前とメールアドレスが書いてあった。

主任指導教官候補:M先生
副指導教官候補:P先生

 
M先生は、修士課程のときにこんなテーマはタブーだからやめなさいと言った人だ。一方で、その後提出したミニ修士論文で9.5の成績をくれた先生でもある。


P先生については名前すらも知らなかった。
博士課程の先輩アルゼンチン人のダンテによると、最近着任した先生のようだ。
 
 
どのみち、この大学に残る場合は学内で新たな指導教官が必要になる。私のテーマが彼らに受け入れられるかわからないが、指導教官なしの今の私には失うものはない。

 
研究計画書、出してみよう。

 
そう思い、2人の先生にまずはメールを送った。
 


M先生から早速返事があった。
 

研究計画書を10ページほどで書き、今読んでいる論文とあわせて送りなさい。それらを読んだ上で、あなたを担当することの実現可能性と妥当性を見極める。計画書を読むまでは、あなたを担当できるかについて何も保証しない。以上。

M先生からのメール



 何も保証しない
 
どきっとした。
 
でも、テーマは決まっているのだから、送ってみよう。
 
そんなわけで、1週間ちょっと前に研究計画書を送った。
今、返事を待っているところだ。


 
昨日、先輩ダンテと韓国料理を食べに行った。
スペインの韓国料理とはかくなるものかなと思わしめる摩訶不思議な体験だった。
 

トッポッキとあった
巨大な卵に驚く


ジャージャー麺とあった



その後行ったカフェでも話し込み、気がついたら13時半に会ってから19時までずっと話していたことになる。
 
その中で、ダンテが実はねと教えてくれたことかある。
 
なんでも、先日、ダンテは彼の指導教官L先生と夕飯に行ったそうだ。そのときに、ダンテは私のことを相談してくれたらしい。話を聞き、L先生は次のように言ったという。

 ああ唐草!よく覚えているよ、博士課程に入ったのか、よかったねえ。でも、あの子みたいな学生は誤解されがちだから苦労するかもしれないよ。スペイン人のやり方、考え方を当たり前としている先生たちにとっては、彼女のような話し方、考え方、アプローチの仕方が奇妙に映るかもしれないからね。単に言葉の壁だけじゃないんだよ。彼女を前にすると、自分たちの型に全くはまらないことがわかるから、めんどくさくなり相手にしない先生たちもいるだろう。そもそも出発点が違うことをわかった上で、自由な頭で彼女の話を聞く先生が見つかればいいのだけど。

L先生の言葉


 
ダンテは言葉を選びながら、彼の解釈も合わせて次のようなことを説明してくれた。
 

自分はアルゼンチン人で、L先生は欧州出身だがスペイン人ではない。だから、唐草のことがよくわかるんだよ。例えば、君が意見を言ったり提案をしたりしたときに、その発言をするにいたった背景はなんだろう、と自分たちなりに一旦考える。興味があるからね。でも、この大学の先生の中には、それを煩わしいと感じる人もいるようだ。箱に入った考え方をしているからだろう。スペイン人学生に慣れている先生たちからすると、自分が望む動き方をせず、とんでもない角度からアプローチしてくる奇妙な存在として映るのかもしれないね。だから、L先生も心配したんだろう。L先生もここで教授になるまでに相当の苦労をしたはずだから。

ダンテの言葉


 
ダンテの話を聴きながら、L先生とダンテの言葉と愛情をありがたく受け止めた。L先生自身が外国人であるから、ご自分の苦労と重ね合わせられたのだろうか。
 

確かに、私はしちめんどくさい学生だ。修士課程のクラスでも、ときには妙な発言や質問をしていたことだろう。私が話し出すと、困ったような顔をする先生がいたことも記憶している。
 
一方で、いろんな意味で十分に浮いていたせいかおかげか、修士課程中または修了してから個人的にメールをくださる先生たちがいる。
L先生のように直接声はかけずとも、案じてくださる人がいる。

なんと幸せなことだろうかなと思った。


 
 
M先生とP先生からは、クリスマスまでに返事がくればよいなと思っているが、来ないかもしれない。

 
同時進行で、国内の別の選択肢もみてみようと考えている。情けないことに、先日のK先生とA先生との1時間半のチュートリアルが尾を引いており、まだあまり気が乗らないが、立ち止まってばかりいても仕方があるまい。
 
 

そんなとき、のりまきさんポン子さんから贈り物が届いた。

「飛び出し太郎の服装=スペインの国旗と同じ色!」というお二人の発見!



小包の中には、飛び出し太郎(正式名称は飛び出し坊や?またはとびだしとび太? 「飛び出し坊や」はみうらじゅん氏が名付け親だそう)のペンが入っていた。
のりまきさんとポン子さんとの初デートで行った滋賀県で、飛び出し太郎について話したことを覚えていてくださったようだ。

一般社団法人東近江市観光協会より


一目見て、目頭が熱くなった。
 

数日後、近隣の大学のセミナーに参加したとき、飛び出し太郎をかばんに忍ばせていった。
 
社会学のセミナーだったが、自分の研究テーマと重なるところがあり、非常におもしろかった。
 
いでよ、飛び出し太郎パワー
 
自分でそう念じたかはわからないが、気が付いたらディベートに積極的に参加していた。スピーカーのイタリア人教授と、ポルトガルとスペイン人教授たちの熱気に勢いづいたのか、日本人宙ぶらりん学生は、思いのほかしゃべった。話しながら、数か月ぶりに味わう活発な意見交換を改めて楽しく思った。


ああ、やっぱりもうちょっと勉強したいなあ。

なんて思いながら。
 

ところで、常々一番前の席に座る癖がついている私(視力が悪いことと、スペイン語がわからないときにいつでも質問できるように)は、この日も何も考えずに最前列に座っていた。後から気づいたが、そこは教授席だったようだ。

 
道理で、他の参加者たちが次々と私に挨拶をしにきてくれたわけだ。初めて行く大学だったので、ここはそういうシステムなのかと思い、どうもどうもと握手やらベシートをしていた無意味に態度だけ大きい自分をちょっと恥ずかしく思った。

挨拶をした人たちの中には、その大学の教授たちも含まれていた。飛び出し太郎パワーのすごさなのか、私の馬鹿さ故なのかわからないが、旅の恥は掻き捨てというではないか。まあよしとしよう。

セミナーが終わってから、教授たちが話しかけてくださり、またこういう機会があったら連絡するからおいでと言ってくださった。
 
宙ぶらりんで退学になるかもしれないんです。

そう言いかけてやめた。大きく息を吸った後、是非お願いします!と答えた。
 

「貴重な機会をどうもありがとう!」
 

そう言って教室を出ていく私の背中に、ポルトガル人の教授が呼びかけた。
 
「知り合えてよかった、唐草!」
 

その昔、友人からもらった手袋をして

 


この大学に人類学部はないが、ひとつ驚いたことがあった。
誰も、私がどこの国から来た人間か聞かなかったことだ。研究テーマやなぜそれをやるのかについては聞かれたが。私を一人の人間として扱った教授たちを尊敬する。
 


飛び出し太郎への感謝と、宙ぶらりんながらもセミナーに参加したこと、ディベートにも積極的に参加できたことへのご褒美にと、アサイーボウルを大学近くのお店で注文した。
 
心の贅沢は大切だ。

ヨーグルトと混ざって色が薄まっていたが、自分の足で動いてみた後のアサイーボウルはとてもおいしかった。


心の贅沢



 

さあ、冒険は続く。
どこに向かって歩いていくのか見当もつかないが、自分を大事にしながらそのときそのときにこれだと思ったことをやってみようと思う。
 
 
このnoteのタイトル通り、アンダルシア生活はてんやわんやなのだ。

だから、私自身もその中の一員になっていいのだ。

きっと。



のりまきさんとポン子さんとおそろいの焼き物
左:私作 乱心ぶりがうかがえる
右:夫作 まともなボウルになっている

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