文化財『百段階段』は見ごたえ十分な、着物の映えスポットだった。
鏑木清方の美人画が、ホテル雅叙園東京の百段階段にあるとnoteの記事で知って、訪れたのは半月前。寒暖差の激しい令和五年。明け方に降った雨が色付いた落ち葉を濡らす寒い日、冷たい階段を登って来る和服姿は紬の三人組と明仙のふたり組だけで、それでも、子育てを終えた世代の女性たちが、若者がデートを楽しむような場所を訪れて、揃いの着物を楽しんでいることに驚いた。
行人坂の急斜面に建てられた三つの棟の客間を繋ぐ百段階段は、戦前からあるそうで、2009年には東京都の有形文化財になった。私のお目当て…、雅叙園側が深く切望し、掛け軸と飾り天井、欄間に絵を描かせた『清方の間』は、最上階のひとつ下にあった。
本間にある作品『四季風俗美人画』の春は『娘道成寺』だ。広げられた三枚の振り出し笠は赤い絵の具の色がくっきりと眩しく、梅とさんさん桜はいづれ兄やら弟やら、梅を描いた扇に重ねられた舞手の衣裳は、八重咲の枝垂れ桜。さすがに手がこんでいる。歌舞伎舞踊では引き抜きがあるが、どれも、地色を変化させた桜の柄だと聞いた。清方がこれを描いた昭和から、令和へ、過ぎた時間が衣裳にどんな変化をもたらしたのか、年明けの歌舞伎座で確かめたいところだ。
さてさて、鏑木清方の『娘道成寺』に超絶⭐︎感激した私は床柱や組子障子の意匠を見ずに、そそくさと階段を降りた。この感動を忘れたくなかったのだ。
今週、着付けの再スタートを機に始めたnoteが一年を過ぎた。振り返れば、家族の不在に代わって、着物が私を様々な場面に出会わせてくれている。根底に流れるのは愛でる楽しさ。こんな風に役立つのなら、河村公美さんになれなくても、中途半端な着姿のままでも、良いではないかと、積んだたとう紙の山に目を向ける。着物はぽっかり空いた時間の穴に収まり、ぬくぬくと過ごしている。クリスマスには桐の箪笥を買ってあげようと思う。#今年のふり返り
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