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長唄の聖地をゆく②地獄谷野猿公苑

歌舞伎ファンの皆さまはお気づきでしょうが、歌舞伎で演奏される三味線音楽のうち、菊五郎劇団の杵屋巳太郎さんは長唄。尾上右近丈は清元。太夫座に座って、熱い演奏を繰り広げるのは義太夫。それぞれ、三味線の大きさが違います。

昨年は、杵屋巳太郎さんの大薩摩(上手の幕前に唄方と三味線方がふたり連れで現れて立ったまま、演奏する)を見ました。この大薩摩、元々は長唄ではなく「大薩摩節」という別の流派でした。長唄はイイトコ取りでいろんな流派を吸収して形を残しているのですが、その中のひとつに「外記節(げきぶし)」があります。今回のタイトルにある『外記猿』は元々は『外記節・猿』という曲名で、語りかけるような独特の節回しが魅力。

今回は『外記猿』のお話です。曲は狂言を元にしていますので『外記猿』の聖地は能舞台の松の前となりますが、猿回しの曲ですので、お猿さんが見られるところを歩きましょう。

長唄『外記猿』はどんな唄?

長唄って、一人称と三人称がごちゃ混ぜが多いんですけど『外記猿』は猿曳(さるひき)の台詞と歌っている唄です。曲の出だしは猿曳の自己紹介です。旅芸人ですから、今宵の宿泊先を案じていますと、♪おーいおーい♪と子供が追いかけてきます。立派な玄関のあるお金持ちの家に招かれて「長生殿のごとく、立派なお宅」と祝辞だの、お世辞だの述べ、お猿さんの芸の始まりです。まずは、狂言『靭猿』でもお馴染み、小猿のでんぐり返し。お染め久松、田植え唄など、次々と踊りまして、最後に御幣(ごへい・神前の捧げ物)を振って、めでたい尽くしで曲を締めます。

都内で猿回しが見られる場所に、浅草神社があります

浅草神社は三社祭のお宮で、浅草寺の向かって右手の奥にあります。私が数年前に見たのは「日光おさるランド」の「ともきりき」ではないかと思います。猿芸は長唄にあるような舞ではなく、華麗なジャンプでカラフルなハードルを飛び越えていましたから。浅草寺でやることもあるようです。

指先や唇の動きが可愛いですね!

続いて、お猿さんウォッチングの旅

タイトルの写真は温泉に入る猿。スノーモンキーで有名な地獄谷野猿公苑の日本猿です。場所は志賀高原の手前。長野駅から、長野電鉄に乗って湯田中駅に行き、そこから、バスで15分の距離です。ふたつの温泉街の間の広い道路はだらだらした登り坂。バスは着実に標高を上げて走ります。上林温泉でバスを降り、冬は凍ってしまう砂利道を川沿いに徒歩で進みます。開けた場所に出ますが、そこは温泉宿です。温泉宿の建物を見ろしつつ、最後のスロープを登り切ると、地獄谷野猿公苑の入口があります。

猿たちは野生で、餌付けされています。係のひとが撒く雑穀の餌を食べに山から降り、夕方になるとワラワラと斜面を登って寝ぐらに帰ります。清流にかけられた橋の先が猿たちの温泉です。私が訪れたのは桃の花の咲く季節で、猿は気持ちよさそうに泳いでいました。

温泉の縁に座る仲間は、ちょっかいを出されて♪しょんぼりしょんぼりと♪濡れてしまいます。他の子猿はわざと、枝から落ちて遊んでます。飽きずに猿を眺め続け、自分はこんなに猿を好きだったのかと驚くことでしょう。

おまけ・お稽古エピソード

『外記猿』には歌詞を三味線でなぞる、台詞のように弾くフレーズがあります。そんな時、講師の先生の唄と共に三味線の音がくっきりと聞こえてきます。それは私の脳内に浮かんだ音なんだけれど、鮮明に記憶に残り、私の記念すべき曲となったのでした。♪は歌詞の引用です。
#わたしの旅行記

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