いちばん美しい女神へ-『UNCLE』における「パリスの審判」-
概要
コードネームUNCLEって基本的に「パリスの審判」じゃない?
と思ってるけど公式に言及されていないので気のせいかもしれない。
人類史上稀に見るクソ3択
ギリシア神話において何かと出てきがちな戦争、トロイア戦争。10年間ダラダラやっていっぱい人が死んだ大きな戦争ですが、この戦いの発端となったのが「パリスの審判」です。
話は戦争よりけっこう前に遡ります。女神テティスの結婚式にたくさんの神が呼ばれましたが、不和の女神エリスだけは呼ばれませんでした。だって呼ぶとなんかめんどくさいことになりそうだし……でも呼ばなかったら呼ばなかったで当然エリスはブチ切れ、めんどくさいことになりました。
眠り姫の導入かな?
エリスは招かれなかった結婚式会場に「いちばん美しい女神へ」と書いた黄金のリンゴをシュート。このリンゴを受け取るべき「いちばん美しい女神」が誰かという女神間の争いの発端となります。リンゴは自分のものに違いないと名乗り出た女神は、ゼウスの妻にして結婚と貞節の神ヘラ、戦いの神アテナ、愛と美の神アフロディテという錚々たるメンツ。
エリスさんはなんでそんなことするんですか?(A.不和の女神だから)
一方で、パリスというのはトロイアの王子です。しかし彼は生まれた時にいずれ国を滅ぼすと予言されたため、協議の結果森に連れて行って殺すことになりました。しかし殺害担当者は手を下すことができず、森に放置することにしました。
白雪姫かな?
なお一説によると殺害を頼まれた人は、殺した証明として動物の体の一部を王様に提出しました。
白雪姫かな?
まあそのあと例によって動物に育てられたあと人間に拾われてしっかり成長し、色々あって故郷に王子として迎え入れられ、最終的に国を滅ぼします。この手の導入古今東西全部そんなだな。
さて、ゼウスは黄金のリンゴの所有権について、誰を選んでもまあまあめんどくさいことになるのが見えていたので、最終的にこの三択の判断をパリスに丸投げしました。
なんでそんなことしたんですか?
そして行われたのが「パリスの審判」です。
その頃には、パリスは白い肌に黒い髪※の人類で一番美しい若者に成長していました。
白雪姫かな?
※金髪説もあり、絵画でも割と描写は割れている
三女神は何とか選ばれようと、パリスに対してそれぞれ賄賂を提示します。
ヘラはアジアの支配者になること。
アテナは戦いでの勝利。
そしてアフロディテは、この世で最も美しい女性との結婚。
前者絶対二つめちゃくちゃ血が流れるタイプのやつじゃんか~パリスもうお前リンゴ食って寝とけよ~という感じですがこのお話は肝心なところで白雪姫ではなかったのでリンゴは食べなかったし寝ませんでした。ここまで(箇条書きマジックで)割とリンゴ食べそうな流れで進行してたじゃん……
パリスは最終的にアフロディテを選択します。これがオペラだったら絶対テノールだなこいつ。
でも一番平和的な選択肢だな!ヨシ!
しかし、「世界一の美女」は既婚のスパルタ王妃、ヘレネーでした。ヘレネ―にはあまりの美しさに求婚者が殺到した過去があり、求婚者全員が「誰がヘレネーと結婚することになったとしても、抜け駆けしてヘレネ―を奪う奴がいたらみんなでそいつを殴りに行く」という協定を結んでいました。ヘレネ―はお姫様なので、この求婚者たちも各国の王様たち。こうして多くの国を巻き込んだ未曽有の大戦争が始まったのです。
……つまりどれを選んでも戦争になるクソ三択でした。
一説によると、そもそもエリスを結婚式に呼ばなかったのは、ゼウスが「そろそろ人口増えすぎてきたし揉め事からの戦争でも起こしてちょっと人数減らすか……」と考えたからという説もあります。なんでそんなことするんですか?
このクソ三択を迫られたうえで、戦争を起こさない方法はあったのか?
そこに一つの回答を出したのが、「コードネームUNCLE」です。
このお話は最終的に(とりあえずイギリスは抜きで考えると)、アメリカ、ソ連、ドイツ(というかナチス)の3勢力があって、テープがどこの国に行くのか?という話になります。どこの国に行っても多分戦争に使われてたくさん人が死にます。
災厄のテープ。これが「黄金のリンゴ」です。
結末部分でテープを持っている人、パリスのポジションのいるのはおそらくソロです。
しかし、戦争を起こすアイテムが3勢力のどこに行くかの話だから同じ!というのはさすがにこじつけが過ぎますね。
UNCLEを「パリスの審判」ベースの物語だと考えた理由は、大きく三つあるので、以下にその辺を書いていこうと思います。
まあ実際のところ、「パリスの審判」ベースで作ったお話というよりは、「このお話はパリスの審判みたいな構図なんですよ」というお話の方向性をわかりやすくするガイドラインとして想起させるモチーフを置いてくれてる、みたいなイメージです。
絵画
まず単純に、ギャビーとイリヤが泊まっているホテルの部屋のベッドのところに、大きな「パリスの審判」の絵が飾ってあるんですよね。このお話が「パリスの審判」じゃないかと思ったのはこの絵がきっかけです。
「パリスの審判」の場面ということは即ち「これから人妻寝取りに行くぜ!」というフラグを立てる場面なので、初見時はハネムーン客泊める部屋に飾る題材の絵じゃなくないか……?となってしまいました。結婚式のBGMで『フィガロの結婚』より「手紙の二重唱」が流れた時と同じ感情ですね。
この絵について特に作中に言及があるわけではないんですが、場面的に違和感のある絵で、かつ結構な長尺で映すから絶対見せたくて置いてる絵だなと思って、何の意味があるかしばらく考えてて、これもしかしてお話自体が「厄アイテム・三択・戦争」の「パリスの審判」みたいな話なのでは……ってなったんですよね。
まあ高級ホテルについての知識はゼロなので実際こういう絵が飾ってある部屋が実際にあるのかもしれないですが。あったらごめんなさい。ハネムーン客泊める部屋に飾る題材の絵じゃねぇとか書いちゃってごめんなさい。愛の勝利とも取れなくはないんでそれはそれで解釈次第では大丈夫ですハイ。
三択でアフロディーテを選びそうな奴
神話のキャラがどういうキャラと解釈されていたかは時代によって結構異なると思うのですが、パリスについては「顔がいい」「誘惑(快楽)に弱い」というところはだいたいどの時代でも一緒なんじゃないかなと思います。
最後の場面でテープを持っているのがソロさんなので、パリスのポジションにいるのは基本的に彼だと思うのですが、単純に、作中のキャラの中では確実にソロさんに近いタイプなんですよね。というかソロさんパリスの立場だったら多分アフロディーテ選びますよね。イリヤは絶対選ばないんじゃないかなー、誰選ぶのかなアテナかな……とかそういう感じで考えていくとキャラクター性の差が面白い。
「神曲」ではパリスとかトリスタンとかそっち系の人たちが第二圏にいるようですが、たぶんソロさんも同じ地獄にぶちこまれる枠だと思います。
なお、パリスがゼウスから審判に選ばれた理由は、「人類で一番美しかったから」という説があるそうです。ゼウスの趣味じゃねえかよぉ……
あいつ三世代くらい前にトロイア王家から「美しいから」って理由でガニュメデス王子を誘拐した前科ありますからね。トロイア王家の顔面に弱すぎるだろ。
アンクル世界の神ことガイ・リッチーがナポレオン・ソロのことを人類で一番顔がいいと思ってるか否かについてはまあ……撮り方的に思ってるんじゃないかな……となるので、ソロさんが審判に選ばれるのはますます不自然なことではありませんね。この解釈で合ってますよね監督?この認識で進めて大丈夫ですよね?大丈夫だと思うのでこれでいきますね。
卓上の果実
この映画はけっこう卓上に果物盆が載っている場面が多いです。実際1960年台のローマの金持ちの家はそんなもんだったのかもしれないですが、演出として重要なんじゃないかなと思っています。
作中だと拷問の人がブドウ剥いてる場面なんかが印象的ですが、だいたいの果物盆にはブドウが載っています。
あとはレモンですかね。
一番最後の場面、テープがお焚き上げされている机にも果物盆があるのですが、そこの中央に、黄色っぽいリンゴが一つ置いてあります。
確認した限り、リンゴが登場しているのはこの場面だけでした。
さすがにこれはもう意図的であってやっぱりパリスの審判なんじゃないかなこの話……パリスの審判ってことでいいですか?
結論
というわけで、どう足掻いても戦争なクソ三択を迫られた時に戦争を起こさない方法は「燃やす」になります。
皆様も黄金のリンゴの処理に困ったら是非焼却をお試しください。