
一人で行けたよ白骨温泉①
行きたい場所があるなら、すぐに行った方がいい。
なぜならその場所が未来永劫そこに存在し続けて
くれている保証はないし、行きたいと思っている
自分が、将来でも行きたいと思っているとは限らないからだ。
この言葉、私もまったくもってその通りだと思う。
昨日の自分と今日の自分、同じ自分だと思えることの方が少ない。
「欲しい」と思った時にするのと、「あの時欲しい
と思った」からするのでは、得られるものが違う。
問題はそうしたいと思った時、自分の置かれている状況、時間、金銭面、それらの複雑な事情をすべてクリアしていることが、持っているものが増えると困難になってくることである。
ましてや、それを同時期にクリアしている友人が
いることは、奇跡に近い。
だから一緒にいてくれる友人に感謝しつつも、
ソロ活が年々上手になってくるなぁと感じる今日
この頃である。
先月、白骨温泉に行った。
3か月間にわたるモラトリアム期間にも終わりを
告げる頃になり、何か記念にどこか行きたいという妙な焦りをきっかけに思い立ったのだ。
白骨温泉は、長野県松本市にある温泉郷で、バスは一日2本だけ。秘湯でありながらも公共交通機関で向かえる場所というのが魅力的だった。
なんとか一人でも宿泊できる温泉宿を確保して、
足先用ホッカイロや、ウール入りのタイツと防寒
グッズを準備する。
真冬の長野、しかも山奥なんて絶対寒いに決まっている。寒い冬に寒い場所に行くなんて馬鹿げているとも思ったけれども、あまりに冬が大嫌いなので、せめて雪見風呂でもして、「冬もいいものだな」と
思えるようになりたかったのだ。
松本市までは高速バスで移動する。
朝まで全く実感がなかったのだけれども、高速道路沿いのバス停のベンチに座り、目の前をびゅんびゅん通り過ぎていくトラックを眺めながら、先ほど
コンビニで買ったほうじ茶を飲むと、朝起き抜けの体に温かいものがすとんと流れてて、「あー、これから旅行に行くんだな」と感じた。
乗り物の中は、下を向いていると酔いやすいので
スマホや本は基本的に見ることができない。
だから自然と外の景色を眺めるor寝る以外の選択肢がなくなる。
この日はずっと外を見ていた。
高速道路の灰色の外壁にはツタ植物が覆い茂って
いる。そのツルや葉が、冬のために全て茶色に変色していた。時折外壁の切れ目から見える山も、冬の色あせた様子をしている。曇り空の灰色に、枯れ葉の茶色。冬の景色は寂しいなぁと思った。
寂しいものは総じて苦手である。
特に何の感慨も抱かずぼーっと外を眺めていると、乗務員さんからSAで20分休憩を取るアナウンスが
伝えられる。
SA、だって…?!
ペーパードライバーにとっての憧れの地、サービスエリア。
私は俄然色めき立った。
これは20分間を有効に使わなくてはいけない。
私はすぐさまスマホでSAの基本情報を仕入れ、頭の中でバスを降りてからの行動をシュミレーションした。こういうことが楽しめる、お気楽な人間で良かったなとちょっと思った。
SAは楽しかった。
見たことのないお土産品や、初めて見るご当地
キャラクターの顔はめパネル。串焼き肉のキッチンカー。観光地でよく見かけるスジャータのアイス
クリーム。
私はパン屋さんで、さくさくしたパイ生地のパルミエのようなお菓子を購入した。レジ横に珈琲マシンがあり、買うか逡巡していると、レジのお姉さんがさりげなく「珈琲、130円で飲めますよ」と教えて
くれたので、何故か「ありがとうございます」と
お礼を言って珈琲も買った。
気分を察してくれたのがなんだかうれしかったのだ。

外に出るといつの間にか空は晴れていた。
時間に余裕があったので少し回りを散策してみると、見晴らしの良いスポットにベンチがあったので、そこで珈琲とパイをいただいた。
周りに建物は何にも建っていなくて、山々が連なっているだけだった。
空も切り取られておらず、広々としていて、なんだかほっとしてずっとここにいてもいいなぁと思った。
そんなこんなでSAでしっかり休憩を取り、バスに
乗り込むと、やがて外は雪景色に変わり、空が灰色になって、ちっちゃなぽんぽんみたいな雪が空から降ってきた。今年初めて雪を見たなぁと少しそわ
そわした気持ちで外を眺めていると、1時間くらいで松本市に着いた。
お昼は、かねてより食べたいと思っていた山賊焼き定食にした。
がっつりとした揚げ物が目の前にどーん!と出現
する、このごちそう感がたまらない。あつあつの
うちに全部いただいた。

ショックだった
駅ビル地下のお土産屋さんで、晩酌用のおつまみ&ご当地ワインをきちんと買い揃え、アルピコ交通(このあたりを牛耳っている交通会社)の運営する電車に乗り込む。
ローカル線は結構好きである。
少し年季の入りながらも大切に使われている雰囲気や、車内のやかましくない広告にも好感が持てる。都心の「整形して、脱毛してジムに通って可愛くなったら!英会話勉強してスキルアップして転職!結婚もしてマンション買おうね!!」みたいな広告が一切ない。
「Suica、使える駅が増えました!」だったり、「山っていいよね…」みたいな目に優しい写真しか掲示
されていない。乗っていて疲れないのだ。
以外と意識せずに取り入れている情報量は多くて、知らない内に疲弊しているのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、新島々駅に無事についた。

ここからはバスでの移動である。