絵本「むくどりのゆめ」の夢は誰が見る

企業の内部告発に関する脚本を読みながら

茨城の実家に帰った。

喉が朝から痛い。

凄い痛い。

父も母も元気だった。

3歳の息子に買ってあげたシール絵本で一緒に遊ぶ。

夜は森絵都さんの「カラフル」とモームの「人間の絆」を往ったり来たり読み進める。

どちらも面白い。

首が凝ってきたから母の寝室のマッサージ機で30分くらいくつろぐ。

それからお笑い番組を見て、眠る。

翌朝、フレンチトーストとゆで卵をたべる。

従兄のたかさんと彼の新車でドライブ。

車の名前は知らない。

ペーパードライバー歴だけが長くなる。

彼は高校の国語の先生だ。

彼の教えている女子高校やお互い共通の出身高校をチラ見しつつ

珈琲哲学っていうカフェに入って久しぶりに語った。

夜は彼の行きつけの寿司屋で食事した。

脚本家の恩師から電話が来る。

編集ラッシュの日程調整だ。

戻らねば。

実家には1泊しかしなかった。

自宅に戻って内部告発もの企画をしているプロデューサーに

脚本の感想を送ったがその視点を激賞された。

気をよくして、3本の映画を連続で観た。

「さよならみどりちゃん」「親切なクムジャさん」「太陽を盗んだ男」

めちゃくちゃなラインナップだけどそれぞれ全部面白かった。

でまだ行けると思って

モナコ公国のモンテカルロバレエ団プリンシパル

小池ミモザのバレエを観た。

一種の瞑想的感覚に陥った。

美しいものはやはり美しい。

まだいけるかもしれない。

今日は徹底的に映画を観ることにした。

アルトマンの「ザ・プレイヤー」とシャーリズ・セロンがアカデミー主演女優賞を獲った「モンスター」を観た後に

寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」を観始めた。

苦手な映画だった。

幻想的かつ退廃的な雰囲気からか飽きてしまい

途中で止めてしまった。何も覚えていない。

妻が遅れて息子と一緒に帰ってきた。

茄子とベーコンのアラビアータを簡単に作って一緒に食べた後

息子の好きな「むくどりのゆめ」という絵本を読んだ。

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「おとうさん、おかあさんはまだかえってこないの?」

お母さんが亡くなったことを知らないむく鳥の子。

その心の成長を温かくみつめるお話だ。

後半、おかあさんの不在に気づいたむく鳥の子が悲痛な声で叫ぶ

おかあさーん!おかあーさん!おかあーさん!

私はこの場面を情感込めて、声高らかに読み上げるのだけど

いつも息子は大爆笑した。

最初は感動的に泣ける場面として読んでいたのだけど

息子の爆笑をまたとりたいと思っていたら

いつのまにかわざと大声で声を裏返して叫ぶという

本来の目的と逸脱した演出が毎回の定番となった。

私は心の中では絵本の心を冒涜してると思った。

でも息子の歓心を買うためにやめられなかった。

小さい男だ。

いい絵本なのに。

喉が元々痛かったから

今日は高らかに声をあげるのがきつかった。

それでも今日も息子は爆笑した。

妻は臨月で今にもはちきれんばかりのお腹をさすりながら

呆れたようにこちらを見ていた。

たぶんほんとに呆れているのだと思う。

その後、息子が眠そうにしていたので、

抱きかかえながらソファーでごろ寝していたら

そのまま眠ってしまった。

むく鳥も夢を見るのだろうか。

そもそもむく鳥ってどんな鳥だったか

スズメより大きく、ハトより小さい

でちょっと可愛かった気がする。

最近見てないな。

目覚めると真夜中だった。

ベッドで寝ていた。

息子はいなかった。

無機質な、でもいい香りのする部屋だった。

隣に全裸の女性が寝ている。

枕に顔をうずめて寝ているから顔が見えない。

ただ、かけていた布団が無防備に蹴飛ばされ

彼女の背中からヒップまで流れるようにしなり盛り上がる流線から

驚くほどに細長い足がすっと伸びていた。

淡い光と闇のなかで真っ白な砂丘のような

美しいシルエットを浮かび上がらせていた。

私は一度だけ行ったことのある鳥取砂丘を思い出した。

思わず砂丘の稜線を指でなぞりたくなったけど

思い直してやめた。

ショートカットの髪から

ピンクのイヤリングが月灯りに照らされた。

何でこういうことになっているのかわからない。

どちらが現実なのかもわからない。

たしか彼女はあずきと言っていた。

今日一緒に青山霊園に行って

ママの墓参りをした。

墓標には苗字も戒名も書かれておらず

青葉とだけ書かれてあった。

苗字がない?

パパはママが亡くなった日から行方がわからないという。

ママは死んだという。

ママは生きていると思う。

でも本当に死んでいるらしい。

ママの不在がそのまま死を意味するとは

どうしても思えなかった。

呼んだらいつでも駆け付けてくれる気がした。

ママ👩?

ママいるの?

本当に死んじゃったの?

胸が苦しくなってきた。

おかあさん?

反応はなかった。

おかあさーーーん!

おかあさぁーーーーん!!

おかあぁーさぁーーーーん!!!

むく鳥の鳴き声を真似して

喉から絞り出すように

小さな声で叫んでみた。

喉の痛みは消えていた。

しんとしたまま静寂に呑み込まれた。

笑ってくれる人は誰もいなかった。


天豆エッセイ詩小説④

絵本「むくどりのゆめ」の夢は誰が見る

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前のお話は

もう恋なんてしないなん天豆💌
https://note.com/tenmame0720/n/n6f316c9512ec

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次のお話は

やがて哀しきコーンフレイクやないかい🥣

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天豆 てんまめ
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