沢ガニ、生きる。
すぐ目の前の、それもつづら折りの坂を数分下ると渓流があった。
水の音は聞こえていたが、こんなに近くにあるとは思わなかった。
身の丈半分ほどの石がゴロゴロしている。
そこを沢ガニがちょろちょろしている。
その一番大きな石の上で、見知らぬ少年ふたりが釣り糸を流していた。
「こんにちわ」と先に言われたので「やあ、お元気?」と応えた。
ぼくは釣りを嗜めないので、ズックのまま渓流に足を入れ、ひとの頭ほどの石を動かし漁った。
狙いは沢ガニである。
小石を集めて生けすを作り、つかまえた沢ガニ8匹を入れた。帰り際、少年に沢ガニをやると言った。
少年たちは呆れた顔して「ありがとう」と言ってくれた。
きっと、沢ガニは渓流にもどって生きるはずだ。