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ポール・バーホーベン監督に会った時の話 ②
前段はこちら↓
4.二人目の大物、来たる
問題は2つ。
抽選突破とスケジュール調整である。
まず抽選だ。
これは運否天賦に任せるしかない……
いや、果たして本当にそうだろうか?
私は受講生。
学費を払っている身として、一般希望者よりは当たるはずだ。
正義がそこにあるならば。
公明正大なんて、もはや不公平である。
ともあれなにか判断材料はないか……
そう考えていたとき、また事務局からメールが届いた。
ふたたびマスタークラスの案内だ。
2度も開かれるのか。どれどれ。
「マスタークラスを開講します。
俳優のカトリーヌ・ドヌーヴさんをお迎えして……」
What?!
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ご存じ『シェルブールの雨傘(1964)』や『昼顔(1967)』でお馴染み。
フランス映画界だけでなく世界の映画人から尊敬とあこがれを受ける大人物だ。
この報が来たとき、同級生が狂喜乱舞していたのを覚えている。
そりゃそうだ。
なんてったって最後の大女優、カトリーヌ・ドヌーヴだぞ。
それがマスタークラスで特別講義だと……
フランス映画祭つながりで緊急開講とはいえ、
ちょっと映画美学校、大盤振る舞いすぎやしないかい?
しかもなになに。
要綱を読んでみると、これも同じく抽選だが、締め切りと結果発表はバーホーベンより早いではないか。
カトリーヌ・ドヌーヴには申し訳ないが、これは運だめしとして使わせてもらおう。
すまんねカトリーヌ。
命に代えてもバーホーベンが大事なんだ。
早速応募だ。
どうせこれも撮影で行けない。めちゃくちゃ行きたいが。
それでも優遇があるという証明になれば構わない。
頼むぞ事務局。
これでもし、ということになれば沽券に関わるぞ。
正義を見せてくれ。いや、誠意を見せてくれ。映画美学校。
こっちは授業料45万円払ってんだ。
5.万国の労働者よ
さて、お次は撮影スケジュールの調整だ。
バーホーベン監督の特別講義が開かれる6月24日、アタクシが助監督として参加する組の撮影スケジュールは以下のものだった。
0830集合。
0900撮影開始。
各シーン撮影。
2100撮影終了。片づけ。
2200解散。
特別講義は19時から。
どうやったって間に合わない。
特に問題なのは夜のシーン。
18時から21時まで2シーン、外ロケで撮るのだ。
これは流石に外せないし、演者のスケジュールもあってズラせない。
どうしたもんか……と学校近くの喫茶店で頭を抱えていると、
パーテーションの向こうから「ポール・バーホーベンが……」と話す声が聞こえてきた。
思わずのぞき込むと、そこには同じ組でスタッフとして参加予定のコンノくん(仮名・照明部チーフ)とタカギくん(仮名・セカンド助監督)が話し込んでいた。
カシマ「おう!なにしてんの?」
コンノ「ああ、カシマくん。こんどのバーホーベンの講義、どうしても行きたいんだけどさ」
タカギ「そうそう。こんなチャンス、2度とないよね」
カシマ「2人とも応募してんの?」
コンノ「もちろん」
タカギ「当然」
2人とも、映画美学校の同級生だ。
コンノくんは新入生挨拶で「好きな映画は?」と聞かれ「『悪魔のいけにえ』です!」と答えたナイスガイ。
タカギくんはいつも穏やかで物腰やわらか。映画をジャンルや国や監督で差別しない、清く正しい映画好きだった。
タカギ「でもスケジュール的に厳しいよね」
カシマ「オレも行きたいんだよ。なんとかならないかなって思ってて」
コンノ「いやあ、現状無理だよね。外ロケだし、ぼく照明部だし」
カシマ「そうだね……」
タカギ「あのさ……提案があるんだけど」
コンノ「なに?」
タカギ「思い切って監督に相談してみようよ。わかってくれるかもしれない」
カシマ「わかってくれなかったら?」
タカギ「そのときは……」
コンノ「そのときは?」
タカギ「ストライキしかないな」
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まさかの労働争議である。
それにしてもストライキも辞さない構えとは。
いつも穏やかなタカギくんの、闘士の面が垣間見えた。
しかしタカギくんが「団結せよ!」と唱えたとて、ハナっから監督を脅す訳にはいかない。
なにせ監督も同級生なのだ。
お互い持ちつ持たれつ。
自作のスタッフもお願いする仲間。いや、同志である。
6.団交を断行
まずは監督に話してみよう。
ということですぐに電話。その喫茶店に呼び出すことにした。
たまたま近くのTSUTAYAを物色していた監督は、すぐに来てくれることになった。
フットワーク軽くて助かる。
10分後。なにも知らないカントクくんがやってきた。
さっそく我々労働組合側、通称オムニ・ユニオンは団体交渉に突入。
さしずめ気分は古田敦也。
口火を切ったのは労働闘士・タカギくんだった。
タカギ「あの、バーホーベン監督の特別講義なんだけど」
カントク「ああ、あるね」
タカギ「それ、カントクくんは行く?」
カントク「行かないよ。撮影だもん」
そりゃそうだ。愚問である。
自作の撮影初日だぞ。オレだったら自作の撮影よりバーホーベンを優先するけど。
タカギ「オレたち3人ね、特別講義に行きたいんだよね。スタッフに読んでくれて感謝してる。でもこの機会を逃すと……」
カントク「全然いいよ」
いいんかい。
我々三ばか大将の闘争はあっけなく幕を下ろした。
完全勝利で妥結です。
カントクくん曰く、
該当シーンは様々な事情を鑑み、最少人数で撮影したいと考えていて、
監督とキャスト2名、そして撮影部・照明部・録音部が各1名いればいい、
とのこと。
そもそも撮影自体をスリム化したかったと言うのだ。
それは渡りに船。
我々3名は、当日は早退させてもらうことにした。
小さな自主映画で良かった~。
スケジュール問題が解決したし、ひとまず安心した一行。
カントクくんを交え、最近見た映画の話などで盛り上がっていたところに、スマートフォンから通知がきた。
「マスタークラス:カトリーヌ・ドヌーヴさん特別講義のご応募について」
前哨戦はあっけなくやってきた。
スケジュールのことばかり考えていて今日が当落発表とすっかり忘れてしまっていた。
やれやれ。とんだうっかりさんだぜ。
緊張しつつメールを開封すると…
「まことに残念ながら、お席をご用意できませんでした……」
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