【医療ゴミ削減プロジェクト】現場視察Vol.3 ~株式会社ZEROアース~
こんにちは!今回は、石川県で感染性医療廃棄物のリサイクルを行っている株式会社ZEROアースにお邪魔して、社長の中村 郁さんから直々に廃棄物処理の現状と課題、今後の展望などをうかがってきました。
視察先で実際に見たこと、聞いたこと、考えたことをまとめていきますのでぜひ最後までお読みください!
視察先の特徴
現在、感染性医療廃棄物の処理の多くは焼却や溶融に限られています。
そのような中、株式会社ZEROアースは感染性医療廃棄物を焼却・溶融処理するのではなく独自の『連続加熱滅菌処理システム』を活用し、CO2や温室効果ガスを発生させない「地球にやさしい医療廃棄物の処理」を行い、廃棄物をリサイクル可能な資源へと再生しています。
インタビューのポイント
1.株式会社ZEROアースの歩み
まず、中村社長から株式会社ZEROアースの生い立ちをうかがいました。
「この会社は私(中村社長)が15年前に作った会社です。それまではプラントの製造や設置を行う会社の営業マンでした。その会社は倒産してしまったんですが、そこで培ったノウハウを活かして、自分ならもっと上手くやれるなと思って独立したんです。主な製造機械品目として、コンクリート、アスファルト、空き缶、ペットボトルのリサイクルプラントを作ったりしています。あとは、砂利、砕石、生コンプラントなどの設計施工をする会社です。じゃあ何で医療廃棄物かと言いますと、プラントを設計して製造設置をするとなると、行政にお伺いを立てにいく必要があるんですね。その時に、こういったゴミのリサイクルができるノウハウを持っている中で、あなたそこまで詳しいんだったら医療廃棄物のリサイクルを考えたらどうですか、と提案されたのがきっかけです。」
会社設立当初は、中村社長が自らのノウハウを活かし機械屋として起業されましたが、自社製品の確かさを証明するために産廃処理業を始め、現在では感染性医療廃棄物をリサイクルする会社として活躍されています。
2.感染性医療廃棄物のリサイクル
現在、感染性医療廃棄物の多くが焼却・溶融処理されている中、株式会社ZEROアースではどのような処理を行い、リサイクル可能な資源へと生まれ変わらせているのか、これまでの過程や課題も含めてお話いただきました。
「感染性医療廃棄物を白い容器に集めてきて、それをそのまま焼却してしまうというのが一番簡単なやり方です。焼却はリサイクルじゃないって思ってるんですけど、熱を回収することがリサイクルなんですね。私が会社を起こした15年前、焼却はリサイクルではなかったんです。それが最近ではサーマルリサイクルというリサイクル品目に当てはめちゃったんです。
だけど当時、 医療廃棄物というのは全て焼却で処理されていたから、リサイクルできるようにすれば事業として成り立つんじゃないか、これからの環境保全の時代にものすごく当てはまっていくんじゃないか、という話を行政からいただいて、それで作ったのが今うちで使っている機械なんです。」
「これ(写真1)は、私が会社を作った当時参考にしていた資料なんですが、医療廃棄物はどうしたら処理したことになるのかが書いてありまして。医療廃棄物の処理方法には高圧の蒸気滅菌、乾熱滅菌、それから化学消毒滅菌、焼却、とか色々あるんですが、これがガイドラインなんです。これをもとに私どもは、リサイクルするためには焼却じゃなくて滅菌だ、と考えたんです。そこで、素材をそのまま残して、菌だけを殺してリサイクルに当てればいいんじゃないかということで、この本には180℃以上で30分熱を加えれば、世の中の悪い菌は全部死にます、ということが書いてあったんです。
これまでにも滅菌器というのはあったんですが、大きな釜に白い容器のまま廃棄物を入れて、完全に密閉し、熱と圧力を加えて滅菌するバッチ式というやり方だったんです。それだったら、何分間に1回は入れたり出したりしなきゃいけないので、これから新しく作るのに面白くないねということで、既に滅菌されたものが出てくる方式を考えようということで今の機械を作ったんです。なので180℃以上で30分というのは変わらないです。それが厚生労働省の指針なので、クリアしなければ機械を作っても許可が下りません。
実際の機械の仕組みは、向こうへ行って機械を見ながらご説明します。」
<株式会社ZEROアースにおける感染性医療廃棄物処理フロー>
①整列コンベアに感染物の入った感染性廃棄物運搬専用容器を並べる。
②ハイレターにより整列コンベアより投入コンベアに容器を移動。
③外扉が開き、投入コンベアより容器が投入室に搬送される。
④外扉が閉まり、内扉が稼働し破砕室へ廃棄物を投入する。
⑤破砕機により廃棄物の破砕が始まる。
⑥破砕された廃棄物は、直径50ミリ穴のロストルを抜けたものが滅菌層へ落下し、180℃30分以上加熱され、滅菌される。
⑦滅菌された廃棄物は排出コンベアで搬送され、磁石により金属とプラスチック類に選別される。
⑧金属類は金属リサイクルされ、鋼材の原料になる。
プラスチック類は、PRFの原料になる。
※PRFとは
産業系廃棄物のうち、古紙及び廃プラスチック類を主原料とした固形燃料
★中村社長が用意してくださった資料より
「この機械にどうして磁石がついているかというと、医療廃棄物の中にはメスとか注射器とかハサミとかがいっぱい入っています。それらが破砕器を通ってくるので、分けないとリサイクルがしにくいんですね。基本的に医療器具の金属は、低レベルなステンレスなんです。どういうことかと言うと、今医療器具はほとんど使い捨てなので、コストを安くしなければいけない一方ですぐに錆びたり切れ味が悪くなるのは良くない。そこで、多少混ぜ物をしています。だから、医療系のステンレスは熱を加えると鉄に限りなく近く戻るんです。当社は200度近くかけてますので、鉄の成分がものすごく強くなって、磁石でくっつくようになっています。
金属は、菌さえ無くなってしまえば溶かしてリサイクルすることができます。それ以外のものは、紆余曲折ありまして、会社の設立当初は染色工場のボイラー燃料にしてくれるという話だったんです。医療系の廃棄物のほとんどはプラスチックなんです。ガーゼとかもありますが、最近はガーゼもあんまり使わないので結局プラスチックなんです。なので、燃焼が良い、つまりカロリーが高いので、染色工場のボイラー燃料にしたいという約束で始めたんです。しかし、約束した染色工場に持っていくと、臭いが気になって使えないっていうんです。うちの方で工場に置くときは滅菌して(200℃に熱して)ますので、臭いはほとんどなくなるんです、一旦は。だけど、それを染色工場に持って行って、ボイラーに入れるまでに野積みするんです。そうすると、排気物が空気中の水分を吸って、臭いがまた出るんですよ。それで、これはちょっと勘弁してくれっていう話になって、結局1年ぐらいで向こうから断ってきたんですよ。これじゃリサイクルにならないじゃん、ということで、今はPRFの原料になっています。
当時はプラスチックが足りなかったので、RPFの原料に使ってあげるよって言う人が多くて、PRFを作っている工場に原料として供給していたんです。
よかった、これでリサイクルだわと。最終的には燃料になるけど、直接医療廃棄物を焼却炉に入れるのと、こうやって加工して入れるのでは、温室効果ガス(CO2)排出量が30%以上落ちるんです。だから僕たちは環境に少し貢献しているという思いがありました。ただ、今度世の中がどうなっていったかというと、中国が日本のプラスチックを受け入れないっていうことがありましてね。もう5年くらい前ですかね、コロナのちょっと前です。そうすると日本国内のプラゴミが余っちゃったんですね。それでどこのゴミ屋さんも廃プラばっかり処理しなきゃいけなくてキャパオーバーになって、行政も困っていた。そこにRPFの原料に使ってくれという話になったんです。そうすると、きれいなプラゴミが選ばれて医療廃棄物の廃プラっていうのは邪魔者になってしまったんです。
そこで、自分でリサイクルするためにまず考えたのが油に戻すということです。油に戻そうと試作品を作ったら、確かに油に戻りました。だけど、医療廃棄物の廃プラは半分以上が塩ビ(PVC)なんです。最初は自分の会社で使う車の燃料にしようと思ったんです。だけど、塩ビがたくさん入っていると塩素が多いので、それを使ってエンジンを回すとエンジンがボロボロになっちゃいます。そこで、塩素を抜くためにはどうすればいいのか考えると、一番簡単なのはその油を水の中に通して、塩分を水に溶かして脱塩したんですね。そこはうまくいったんですけど、今度はその水が産業廃棄物になるわけです。廃棄物を増やすことになる…。こんなことをやってたらダメだろうというので、油は諦めてじゃあどうしようかと…。
ごめんなさい、今その状態です。」
3.医療現場での現状
今回、今まで見たことのない色の『感染性廃棄物運搬専用容器』を見せていただきました。私は、『ミッペール』と呼ばれる白い容器しか存在していないと思っていたのでとても驚きました。
「これはリサイクルペールです。定番の白い容器はバージン材、つまり石油から作ったチップで作られたものです。対してこれは医療廃棄物(病院から出てくる段階で分別されたもの)をリサイクルして作られた容器でCO2排出量はバージンの容器の3分の1です。だけど売れないんです。どうしてか?
黒いから。看護師さんが黒いワンピース着ないでしょ。僕らは黒でもいいと思うけど、やっぱり病院さんは、黒はね…って言うんです。処置室やナースセンターに置いてあるのは今まで白だった。白は清潔感があっていいわと。
だからね、これを一部使ってもらっているところは、食品の検査をしている会社なんです。そこから出る検査物は、別に白じゃなくても黒でもいいよって言って、これを使っています。リサイクルすると、結局色んなものが混ざっているので色が付いちゃうので黒に着色してるんです。ピンクに着色されている商品もあります。これは、産婦人科とか女性の多いところからは可愛いねってウケるんですけど、逆に着色してる分だけコストが高いです。
そうすると、高いんだったら要らないわって言われるんですよ。」
おまけ ~台湾での事例~
「うちは台湾にも事務所があるんですけど、台湾の医療廃棄物はどうしているかというと、この黄色い袋に入れて、マイナス20℃の、日本でいうマグロとかを冷凍するような部屋に廃棄物を持ち込んで、そこで手袋とマスクをして、おじいちゃんやおばあちゃんが選別してるんです。処理する前ですから菌がついてるんですよ。でも、低温だったら感染しないみたいな独自の考えがある。だから、滅菌処理する前に先に選別してしまって、一部はケミカルリサイクリングみたいなこともやってます。滅菌した後に、普通に破砕器に入れてチップにして、リサイクルしてるんです。それが今、日本にも入ってきています。工事現場に三角の赤色のカラーコーンあるじゃないですか。
あれは全部、台湾で作った医療廃棄物のリサイクル品です。
台湾のリサイクル率はすごいです。だから医療廃棄物の処理も人の手で分別してからリサイクルするし、金属リサイクルもプラスチックリサイクルも、その他のリサイクルもものすごく進んでるんです。東南アジアで営業をしようと思って、向こうに事務所を置いたんですけど、それでも向こうから学ぶことが多いですね。」
まとめ
今回、感染性医療廃棄物のリサイクルについて詳しく知りたいと思い、株式会社ZEROアースさんを訪れましたが、温かく出迎えて説明をしてくださった中村社長の起業家魂に心打たれるエピソードが満載で、大変中身の濃い視察をすることができました。これまでのリサーチや視察を通して、医療現場から出るゴミの中でも感染性廃棄物は処理が難しいという印象を抱いており、実際にZEROアースでも時代の波に揉まれながらリサイクルできるように試行錯誤されてきたことが分かりました。しかし、分別や滅菌をすることで出来ることはまだまだ沢山あるのではないかと、感染性廃棄物の再資源化への可能性を感じることができました。また、今回初めて黒色やピンク色の感染性廃棄物運搬専用容器を見せていただき、環境に配慮した製品をいかに医療現場に普及させるかも非常に重要な課題だと思いました。中村社長がお話の中で「日本は島国で資源のない国だから、限りあるものを大事にしなきゃいけない」とおっしゃっていたのが印象的で、病院から出たあとはすべて産廃業者にお任せではなく、医療の領域でももっとゴミの行方に意識を向ける人が増えればいいなと思いましたし、やはりみんなで取り組んでいくべき課題だと強く感じました。今回の視察をこれからの活動に活かして頑張ります!
最後まで読んでくださりありがとうございました!
のまちアクセラレター・プログラム
ユース・イノベーター 寺田 絢咲
視察協力:株式会社ZEROアース
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