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絶版本レビュー 第3回 高木彬光『帝国の死角』

Dミスの定例読書会の課題本を選ぶ時その本がある程度手に入りやすいかどうかが問われることがあります。必ずしも絶版本が推薦されないわけではないですし、実際の課題本となったこともあるように思いますが、とはいえやっぱり推薦しにくい絶版本。

 そんな中から面白い本を紹介しようという話です。勝手に引継ぎましたが、かっこいいタイトルは何も思いつきませんでした……。

 今回、取り上げるのは高木彬光の隠れた名作『帝国の死角』。上下巻に分かれた中々の長編で上巻には『天皇の密使』、下巻には『神々の黄昏』という厨二心をくすぐるサブタイトルがつけられています。

 さて、ここまで書いて私は自らの大きな過ちに気がついてしまいました。このようなレビューにおいて上下巻のものは極めて向いていないということです。なぜなら下巻の内容に言及したくても、そのために上巻のネタバレをしてしまうのは、こういう記事においてはフェアではないと思い至ったからです。特にこの『帝国の死角』は上巻と下巻でかなりテイストが違う話が繰り広げられます。

 どうでもいい思い出話ですが、私は鳥の名前のついた某名作翻訳ミステリで上下巻の構造の違いを知らなかったが故にすごく感銘を受けたことがあります。あの衝撃は忘れられませんね。

閑話休題

 しかしながら、ネタバレを恐れ、ここで記事を締めくくるというのも、あまりにお粗末ですから、少しは『帝国の死角』の話をしたいと思います。

 上巻『天皇の密使』の舞台は第二次世界大戦中の欧州で、主人公は大日本帝国の軍人……スパイです。タイトルの通り、主人公は天皇からの勅命を受けて欧州にわたり、とある任務にあたります。
 その任務とは軍需物資の買い付けです。
 皆さんご存知のことかと思いますが、戦時中、島国である日本は兵器を作るための物資が常に枯渇していました。欲しくても自前では採掘できるものではありませんし、他国から書いたくても連合国側による制裁で自由には手に入りません。
 そこで主人公が当時の日本が渇望していたニッケルやらタングステンやらの軍需物資を秘密裏に買い付けて来いと命じられるのです。

 あえて言いますと、この上巻は壮大な前振りです。この小説の肝は下巻『神々の黄昏』です。
 しかし、上巻がつまらないかと問われればそんなことはありません。戦争小説、スパイ小説として出色の出来です。リアリティに溢れた上巻だけでも、一読の価値があります。

 ですが、これは上下巻で構成されたミステリ小説なのです。
 上巻の前振りとはなんなのか、下巻で明かされる真実とは何なのか。
 是非、絶版の本作を探し出し、手に取り、確かめて貰いたいところです。

 

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