島中サークルのオタクが自作ボドゲでクラファンに挑戦した回顧録
※本記事は 「Board Game Design Advent Calendar 2021」 12日目の記事として執筆しました。
皆様はじめまして、同人サークル「てんぐすたん」の主催のエヌ氏と申します。
今回の記事はタイトルの通り、自作ゲームである「ロード・オブ・ボーダーズ(以下、ロドボダ)」に関して夏頃に実施したKickstarterプロジェクトを振り返りつつ、良かった点や反省点を述べた後、個人的に意識したことやクラファンについての感想を書いていきたいと思います。
長文となってしまいましたが、もし良ければ目を通して頂けるととても嬉しいです。
ちなみに作ったプロジェクトページや作品の特設HPは下記リンクから確認できます。
プロジェクトページ
特設HP
【概要】
最初にどんな感じのスケジュールでやったかをザックリと記載します。
■2020/11
初モック完成、当時は持ち込み企画として制作開始。
■2020/12
ブラッシュアップしていくうちに、持ち込み企画としては絶望的だと何となくわかる。
■2021/1
持ち込み企画を諦め、クラウドファンディングの実施を検討し始める。
このタイミングでイラストレーター様とコンタクトを取り、依頼OKの返信を頂き腹を括り始める。
■2021/2~3
Kickstarterでファクトリアで国内限定で行っているのを見て、クラウドファンディングする覚悟を決める。各所に相談を始めつつ、制作方針を「コロナ禍でも可能な限り手に取りやすい箱庭ゲーム」「その上で好き勝手やる」の2つに決める。
■2021/4
Twitterで初報を公開。今までとは思えない程RTとふぁぼをもらう。
■2021/5
この辺りで大部分のシステムの仕様は完成し、UIの調整とバランス調整をひたすらに行う。ソロプレイにがっつり対応する仕様で本当に良かったと思ったのもこのタイミング。
■2021/6
Kickstarterのプロジェクトページを制作しつつ、知り合いの方にテストプレイをお願いしまくる。そして拡散してもらえないかメチャクチャ頼む。
■2021/7
プロジェクト開始。なんやかんやあったが後述。
■2021/8
200万円以上の支援を頂き、プロジェクトに成功。入稿作業で死にかける(のちに復活する)
■2021/9~10
ストレッチゴールのグッズ作成を行いつつ、ゲームマーケットに向けての準備をぼちぼち始める。
またエラッタが判明してメンタルが死ぬ(のちに復活する)
■2021/11
無事に本体が日本に届き発送作業。1人自宅で300個以上の発送作業で色々と死ぬ(のちに復活する)
■2021/12
連絡の取れたKickstarterで支援者の方全てに配送を終え、一般販売を開始する。
こんな感じでした。こうして見ると最後の方は死んでは復活してますね……ハースストーンのプリーストかよ。
【やってよかった点と反省点】
クラファンをしてよかった点と反省点、正直沢山あるのですが、その中でも特に感じたことを3つずつ挙げたいと思います。
【よかった点①】金銭面で個人製作では不可能なことができた
私にとってはロドボダは過去最大規模のボードゲームでした。
1~2人用ですが、初回はインストを除き1時間程かかります。コンポーネントもカードとチップが100枚以上で、ボードも付いてきます。めっちゃ多いです。見た目も私の趣味で可愛いデザインにしました。
知り合いの方に「和風アルルの丘」と評価を頂いたこともあるゲームです(正直めっちゃ嬉しかった)
ただそういう仕様だったため、私の貯金だけでは絶対作ることができませんでした。
その上で最初は持ち込み企画も考えましたが、正直無名のオタクが作ったゲームなんて余程のことがない限り出版されません。悲しいですがそれが現実です。
そういう意味で好き勝手作ったゲームが事前に支援を募れるのは、クラウドファンディングならではだな~、と思いました。
クラファンはギークを救います。
【よかった点②】支援者の方が可視化された
これはマジでデカいです。
「このゲームを遊んでくれる人がこれだけいる!」というのが数字として残るのは非常に心強かったです。
コメントをくれる方はもちろん、支援してくれた方が「ロドボダをキックしました!」というツイートを見るたびにとても嬉しかったです。
個人的に「ボードゲームは遊ばれてこそなんぼ」と思っているので、毎回ゲムマ前後は遊ばれるかどうか不安のあまりメンタルが死んでいました。
ただクラファンをした今回は「まぁでも既に300人以上が期待して俺の作ったボドゲを応援してくれてるしな……」という思考の切り替え方ができるのは強かったです。
まぁ、発送作業で肉体的には死んでいたのですが……
またクラファンは応援や支援という性質が強いため、ゲムマ頒布のゲーム以上にプロジェクトに対しての感想を良く聞きました。
その分ネガティブな意見もチラホラ出ましたが、むしろ私は全然分からない部分を指摘してくれる場合も多く、非常にありがたかったです。
何でも意見が出てこないと、人は分からないものです。
【よかった点③】様々な方とつながることができた
若干上とも被るのですが、このプロジェクトをするにはとにかく知識や信用貯金が全くなかったので、まずは何をしたか沢山の方からお話を聞き勉強することにしました。
そのきっかけで、このプロジェクトをきっかけに様々な方とお話したりご縁を広げることが出来たのは非常に貴重な経験でした。普段は行動圏がめっちゃ狭いオタクだからなおさらです。
何というか、おつかい要素のあるRPGのゲームをプレイしているのに近い感覚でした。ただゲームとは違って攻略チャートとかないので、生のお声を頂いた時の感動もひとしおです。
【反省点①】工数のフローはもっと多くとれば良かった
これは一番の反省点です。とにかくクラファンに向けてやらなければならないことは本当にめちゃくちゃ多い!!!
通常の3倍くらい掛かってるイメージで、6月~11月の間は仕事が終われば基本的に無限にロドボダ関連の作業してました。
エヌ氏の刃・無限作業編です(????)
ボドゲ制作が大好きで、なおかつ応援して頂ける方がいなかったら完走できなかったと思います。
特に今回は動画作成依頼や説明書依頼、Kickstarter担当者の方のやり取りなど初めてだらけのことだったので不慣れな作業に大きく時間が掛かりました。
またコラボ関連の管理やそれに関する告知対応、それとストレッチゴールの制作作業、発送作業の準備などやることがあってもう大変!!!
また、今までとは取り扱う量が大きく違ったり、ボードゲームの数値調整やデザイン以外の部分での作業も多く、このあたりでもっとうまくやれたかな……というポイントは本当に多いです。
その結果、チェック不足からエラッタが何点か出てしまったり、各種告知や連絡が遅くなってしまったり……と協力者の方や支援者の方に度々ご迷惑をおかけしてしまい、非常に反省しております。
その上、できればゲームマーケット前には間に合わせたかったという想いもありました。ただ色々と逆算した結果、想定以上に〆切が短くなってしまいメチャクチャ大変でした。
それに加えて海外印刷だったため、主に輸送関連で常に世界情勢にハラハラしていました。
想定の倍は時間が掛かると思って、余裕を持って予定を組むこと(個人の場合は特に)
クラウドファンディングをする際は、このボードゲームは本当にゲムマ含めどのタイミングで出すか良く考えること。
この2点はクラファンに関する作業を考え始める際に重視した方が良いかと思いました。
【反省点②】ストレス発散方法は用意すればよかった
個人的にストレスがメチャクチャ辛かったです。
色々と覚悟をした上で準備してましたが「これが全く見られなかったら、反応がなかったら、そしてプロジェクトが失敗したら……」という恐怖と毎日戦ってました。
クラファンというのは成功しても失敗しても、その事実はサイト上には残り続けます。
メンタルが強い人間であれば失敗したことを気にしないこともできますが、私は強くなかったので中々に感情のコントロールが大変な時期がありました。
特に今回は様々な方にお願いをした作品なので、自分の失敗の結果、少なからず関係者各位に悪い評判をまき散らしてしまうのではないか、という怖さはありました。
そういう意味で、気の知れた知人や縁のあるボドゲ制作者さんには事前にお願いして、相談したり不安を話したりできる環境を形成しておいた方が良いかもしれません。
あなたが潰れてしまっては元も子もないので。
【反省点③】予想外のことが沢山起きた
初めてだったということもありますが、予想外なことも発生しました。大きく思い出せるのはこんな感じです。
何度も予定を後ろ倒しにすることになった。
プロジェクト開始日を決めた翌日に「ボードゲームヒーローズ(ヒイヅル)」の企画が公開され、プラットフォームと実施期間が思いっきり被った。
1週間以内にプロジェクト達成をを目標に掲げたが、3時間で達成した。
それ前提に追加のストレッチゴールも考えていたが、逆にそれ以降は期間中はメチャクチャ伸び悩んだ。
……と思ったら最後の48時間くらいで100人ほど支援頂き、見積もりを再度見直した。
同封するチラシを日本で印刷し中国の工場に直接送ったが、配送途中で中国国内で紛失するアクシデントが発生した。
登録しているメールアドレスは有効なものでなく、連絡がなかなか取れなかった支援者の方がいた。
などなど……これ以外にも細かいトラブルまで挙げたらきりがありません。私はその度に慌てふためいていました。
ただ、それは他のプロジェクトに挑戦した方から話を聞いたら、ケースは違えど何かしら予想外のことが起きているようでした。
なのでトラブルがあっても感情的にならず、「まぁ、そういうもんだよね」とどっしりと構えて、冷静に対策を練るのも大切なのかな~と思いました。
【個人的に意識した点】
クラファンを実施するに際して、私が普段のゲーム作りよりもより意識した点が2つあります。
【意識した点①】とにかく分析し、言語化しようとした点
とにかく何でも分析しました。デザインやルール、製作方針を修正する際は「何故それをするのか」は必ず言語化してメモに残しました。
「このゲームは誰に遊んで欲しいか」「このゲームの強みと弱みはどこか」「どんな遊び方をして欲しいか」などなど……必要そうなものは可能な限り言語化しました。
ザックリとしたメモ書きも多かったですが、言語化したおかげで開発が進むにつれて出てくる問題やシステム/デザインの調整時、クラファンのプロジェクトページを作る際に大いに役に立ちました。
また、幸か不幸かロドボダのクラファン前には「ファクトリア」「HacKClaD」「No man’s planet」「グッドナイトファンタジー」など国内向けでクオリティの高いクラファンが立て続けに実施されました。
なので、それぞれのプロジェクトが何をしていたか、プロジェクトページはどんな構成なのか、そしてロドボダのプロジェクトで活かせないか……など開始するギリギリまで分析して反映させました。
正直大変な作業ですし、普段のボドゲ制作は「私と知り合いが楽しめる」ことを優先したので言語化はあまりしてこなかったです。
ただ、今回この作業をしてボドゲ制作に関する経験値をメチャクチャ得た気がします。多分はぐれメタル100匹分くらいある気がします。知らんけど。
【意識した点②】沢山の人に協力をお願いした点
もう1つは沢山の方にテストプレイをお願いしたり企画書を見せたりしました。その上でもし好意的な反応が頂いた方には感想を書いてもらったり、情報拡散のお願いをメチャクチャしました。
私個人の意見ですが、この点は有名デザイナーや実績のあるサークルであれば、この辺りはそんなに意識しなくても大丈夫だと思います。
ただ私の場合は、正直クラファン実施前は全く知名度はありませんでした。今まで作ったゲームは全て賞や委託店舗のランキングに箸にも棒にも掛かったことがないです。なんか書いてて悲しくなってきたな……
そういう私みたいに信用貯金がない人間がクラファンを成功させるためには「まず存在を知られること」が重要だと思っています。
最近特にクラファンが盛んになっている一方で、殆どの人に知られないまま失敗したプロジェクトは無数にあります。ロドボダもそうなっていた可能性は十分ありました。
ロドボダが成功したのは、結局は「存在を知られたから」というのは大きな要因だったと思います。
ただし、お願いするにあたって私が注意した点があります。
「作ったゲームに好意的に思ってくれたかどうか」をよく観察する、という点です。
お願いというのは「押し売り」になる可能性を秘めていると思っています。話を持ち掛けてなんかノットフォーミーっぽかったり、興味なさそうな雰囲気を感じた人には、大人しくスッと身を引いた方が良いです。きっとお互い幸せになれます。
【完走した感想】
という訳で完走した感想ですが……
クラファン、やってよかったです!!
タイトルにも書きましたが私は島中サークルです。
自虐的に言えば、売れないバンドマンみたいなポジションのボドゲサークルがずっと作りたいけど規模的に諦めていたボードゲームを、実現できる中でおおよそ最高の形にして皆さんにお届けできたのは間違いなくクラファンのおかげです。
クラファン期間中は正直大変でしたが、エブリデイフェスティバルって感じで超楽しかったです。
それに加えて、この規模感だからこそできた経験も沢山ありました。とても勉強になりました。
そしてこのプロジェクトのご縁を通じて、今後もボドゲ制作を続けていきたいと思える気力を沢山もらいました。私はとても幸せです。
【最後に】
そんな環境で制作した「ロード・オブ・ボーダーズ」ですが、なんと実は一般販売が12/10から始まっております!!
「イエローサブマリン様」「ボドゲーマ様」「ヨドバシカメラ様」等で好評販売中です!!
https://www.yodobashi.com/product/100000001006803127/
また、キャラクター人気投票やアンケートも絶賛実施中です!!
いえ~~~~~い!!ドンドンパフパフ~~~~~~~!!!!!!
……お目汚し大変失礼いたしました。
真面目な話をしますと「ロード・オブ・ボーダーズ」は私だけでは絶対に作れなかった作品です。
イラストレーターの方々や制作に直接携わってくださった皆様はもちろん、テストプレイや情報拡散に協力してくださった皆様、そしてクラファンを通じて300名以上のご支援された方がいたからこそ、制作できたゲームです。
もしご興味ありましたら、是非手に取って遊んで頂けるととても嬉しいです。
そして今後クラウドファンディングでボードゲームを作りたい方がいれば、少しでも参考にしてもらえますと幸いです。
てんぐすたん・エヌ氏
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