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澤岡レモンの手づくり工房 さいころを作ろう編


手作り界のレジェンドあらわる!

調布アートアカデミーの名誉顧問を務める、日本の手づくりの第一人者である澤岡レモン先生の連載がスタート!
毎回、レモン先生がテーマに合わせて、自慢の手づくりスキルを披露しますよ
あたしが何かを手作りするだけじゃ、映画と変わらないでしょうよ」という先生の提案をもとに……
①制限時間は1時間
②レモン先生はテーマをその場で聞かされる
というルールを設定!
アシスタントは期待の若手・中むらソテーが努めます。
ぶっつけ本番の緊張感の中、手芸界のサルバドール・ダリと渾名される澤岡レモンの指先が生み出す作品に乞うご期待!

そして、気になる第一回のテーマは「小物入れ」。
一体どんなステキな手作りを見せてくれるのか……一緒に見守りましょうね。


最近みんな『ポチる』って言うでしょ?
とりあえずAmazonで注文。気にすること、レビューのみ。あれ駄目よね。
まず『自分で作れちゃうかな』って考えちゃう。
で、何でも作っちゃうからさ。もう何年もネットショッピングとかしてないもんね。
でも犬とか猫だけは、ネットで買うのが一番よね(笑)

澤岡レモン3rdエッセイ『れもんがたり』より

テーマは「小物入れ」に決定!

よろしくお願いします

中むら:はじめまして先生、よろしくお願いします!
レモン
:よろしくね。緊張するわね。
中むら
:1時間っていう時間の中で、レモン先生に何かを作ってもらうということで……ボク結構不器用なんですが、アシスタントして精一杯お手伝いさせてもらいます!早速なんですが今回のテーマ発表しちゃいます。「小物入れ」です!
レモン:どうしよう、すごい緊張してきた!クーーーー!
(レモン、左手を大きく挙げ白目に)
中むら:先生!?どうしたんですか!?気絶してます!?
レモン:……あ、ごめんなさい、今日のあたしのラッキー気絶が西川くんだったのね。
中むら:ラッキーカラーみたいなことですか?意外と愉快な方なんですね(笑)
レモン
:じゃ、さいころ作りましょうね。
中むら:え?先生、テーマは小物入れってなってますけど……
レモン
:反発したくなるの。すごい早口で小物入れ小物入れって言うから。もう、鬼の首を取ったようじゃない。
中むら
:いや、そんなには言って……
レモン
:鬼の首を取ったように言うじゃない。でも、その、取ってはないんでしょ?取った「よう」だから。ホントは取ってないけど、こう「先生、鬼の首です!」って見せてきてるわけでしょ?それは……どういう神経で、その鬼の首をあたしに見せてきている?「わあ、すごーい」って言われたいねやったら、キャバクラでも行ったらよろしいやん!好きなだけ言うてもらえるで!
中むら:(沈黙)……すみません。
レモン
ええで!(桂三枝)
中むら
:じゃ、さいころ、ですか、作っていきましょうか!
レモン
誰がそんなもん作るか!


構想を練る

レモン:手づくりに大切なのは、まず作りたい物を想像することなのね。
中むら:はい。
レモン:さいころって言われたらまずどんなものを想像する?
中むら
:んー、やっぱり直方体の、1から6まで点が打ってあるやつが思い浮かびますけども。
レモン
:あの、ごめんね、まだ喋ってる途中だからね。
中むら:え!?いや、先生が……
レモン
:そう、私が聞いたんだけど、でもやっぱり、途中でワーッと、質問きた!って感じで答えられちゃうと、怖い
中むら
:あ、すみません。
レモン
:怖い。質問したけどね。ワーッと来られて、あたしの中で、「質問した」という意識がなくなっちゃって。もう今のあたし視点では、話を遮って急にさいころの話し始めた人になった。大声でうすーい話を。
中むら:それは申し訳ないです。ボクも力が入りすぎてたかな?って思いました。アシスタントって初めてなもので。
レモン
:身長高いな。
中むら
:あ、あざっす、188あります!
レモン
:え、しかも何?ほとんど足やん
(中むらの肩を触る)
レモン:このへんまで、足やん。こっから先が首で……っていや、首の先が手やん!
中むら:先生?
レモン
:あ、ごめんなさい、置物を触ってました。こんなとこにあるから。
中むら
:置物じゃなくて、ボクです。普通に頭もあります。
レモン
:ほんとごめんね。舞い上がってる!あたし!
中むら:いや、いいですけど。で、どんな感じにしましょう、さいころですよね?
レモン
:あのガキがさっき言ってましたけど、さいころってだいたいあの形でしょ、四角くてね。
中むら
:はい。
レモン
:で、転がして、こぞって、皆がこぞって問うでしょ?その数字を。何なんだと。なんの面で、なんの面を上にして止まるのかとね。
中むら:まぁまぁ、そうですね(笑)
レモン
:(笑)じゃないわよ、なにが面白いのよ。でね、あたし、テーマを聞いて、小物入れか、って一旦考えたんだけど、どうしてもさいころのことが気になっちゃった
中むら
:あ、発想のスタートは小物入れからなんですね!
レモン:だから独立宣言したいと思うのね。さいころの。
中むら
:というと?
レモン
:だから、いままでのさいころは、おじいさんが放り投げて、回すでしょ、で、なんの数字が出るか、もう一人のおじいさんが見てるでしょ?そういう運命……もう"呪い"といっても過言じゃないわよね。そこから、独立させたいのね。
中むら:(なんか言うとまた怒られそうだなという顔)んー、はい。
レモン
:っていやいやいや!別におじいさん以外も回すけども!ツッコんでーな!
中むら
:あっ……次は、がんばります!
レモン
:で、気になって考えていくと、可哀想じゃない?誰かの都合で転がされて、おい1か?4か?1なのか?かと思ったら4なのか?はやくどっちかはっきりしろよ!ってね?
中むら:あんまいないですよ、さいころが2択だと思ってる人。
レモン
ウフフ!(笑)
中むら
:だって123456ってありますからね!6分の1ですよ!どれかな?だったら分かりますけど(笑)
レモン
:いや、その補足で全部ダメになった。
中むら:それは……そうっすね、余計でした。


命あるさいころ

レモン:ゆえにインデペンデンス・デイならぬ、インデペンデンス・サイを作ります
中むら:どういうさいころになるんですかね?
レモン
:だからよね。
中むら
:転がされる、の逆、ってことですか?
レモン
:なんで急にガチガチに韻踏み出したのか分かんないけど、そういうことね。
中むら:踏んでたかな……
レモン
:インデペンデンス・サイは自分で回るのね。で、自分で「あ、6出た、ラッキー」とか「3連続で4出たじゃん、すご!」とか思うわけです。
中むら
:思う?
レモン
意思があるのね。あるというか、持ったのね、長い時を経てね。付喪神ってわかる?
中むら:作られて百年経った道具に魂が宿る、的なやつですか。唐傘とかそういう。
レモン
:そういうさいころを作るのです!
中むら
:ちょっと面白くなってきましたけど、どうやって作るんですか?今から作って、百年待って付喪神になるのを待つわけにもいかないですし……もしや、作られてからあと一時間で百年経つさいころを用意してくださってる、とかですか?
レモン
:ちょっと面白くなってきましたけど、どうやって作るんですか?今から作って、百年待って付喪神になるのを待つわけにもいかないですし……もしや、作られてからあと一時間で百年経つさいころを用意してくださってる、とかですか?って、聞こえたぜ?気のせいじゃなければだけど。
中むら:そう言いました。
レモン
:ハァ……
中むら
:え……
レモン
:とんでもねぇ甘ちゃん……見っけ。
中むら:甘ちゃん……ボクですか?
レモン
他に誰が居るってんでぇ!黙って聞いてりゃグチグチグチグチ、言い訳ばっかり並べやがってよ、ここは築地か?あ?
中むら
:築地?先生のアトリエですよ、ここは。
レモン
:てめえが言い訳の船出してな、言い訳海に出て、そんでしこたま獲ってきた言い訳魚並べて競りしてる築地かっつってんだよ!人の工房乗り込んできて、店広げてんのかって聞いてんだ!
中むら:いや、そんな言い訳とかしてないですよ!
レモン
してねぇのかよ!じゃなんで俺キレてんだ!
中むら
:ちょっとボクには……とりあえず先生落ち着いてください。
レモン
:熱くなりすぎたわね。らしくないよね。
中むら:いえ全然、いいんですけど。
レモン
氷よりも冷たい鉄の女、澤岡レモン。
中むら
:はい。
レモン
惚れんなよ。
中むら:どうですかねえ、惚れちゃうかもですよ(笑)
レモン
:で結論としては、そういうさいころは作れないのね。
中むら
:え!


むかし、あたしが結構手作り界隈で有名になってきた頃ね。
"新作のガンダムを手づくりしてみないか?"っていうお話が来たの。
先生の感覚、解釈でいいですから、って。
依頼のメール見ながら、すごく迷ったのね。あたしの手づくりってそういう商業的なところを目指してきたわけではないし、でも、もっと自分の手づくりを世間に知ってもらえるきっかけにはなるし、って。
メールとにらめっこしてるうちに、スマホの電源が切れちゃって(笑)
気づいたらもう夕暮れよ。
見渡すと、ビルのように太くて高い木々がひしめきあう森の中。
ぴん、と張り詰めたような静寂。
そこで、3本足の天狗が、空を這う巨蛇(きょじゃ)に紫の煙矢(けむや)を射掛ける音を聴いたの。

澤岡レモン1stエッセイ「酸味一体」より

作れない!?

中むら:その、さいころを作れないってことは、どうするんですか?
レモン
:どうするもこうするもねぇやな。二人で偉いさんとこ行って頭下げる。しゃあねぇだろ。
中むら
:もうちょっと考えてみましょうよ。自分で回りだすさいころなんて、作れたら、すごく面白いと思いますよ!
レモン
:いや作れたら面白いわよ、それは。でもどういう原理でそういうのを作るのか全然わかんないもの。手芸がね、なんでも手作りするのは大好きだけど、分かんないモノはわかんないのよ。
中むら:それは……
レモン
:なんかローターを地べたに置いた時みたいな感じで動かせばいいのかなとかしか思いつかないのね。
中むら
:先生。
レモン
:ローター作りましょうか。好きなのよ。
中むら:先生、先生!
レモン
:うるさいわね。「先生」と「先生」で韻踏まないでね。
中むら
:韻ってそういうやつじゃないですよ。
レモン
:あたし嫌いなのよ。韻を踏まれることにトラウマがあるのね。母親が怪我したの。踏まれたの。韻に。私を産んだあと……お母さん、韻に踏まれて、左手にね、左手の甲にね、一生消えないアザができたの。なんにも知らない漁師の娘よ。馬の蹄みたいなアザがあるのよ。たぶんZEEBRAに踏まれたのよあれ。
中むら:……
レモン
:……
レモン
:だから今日は申し訳ないけど諦めるか、お庭の井戸の横にもう一つ、全く同じ形の井戸を作るかのどっちかしかできないのね。
中むら:自分で井戸つくるのは十分すごいですけど……じゃあ、そうしますか……
レモン
:うん。
中むら
:もう時間も残り少ないですけど、作れます?
レモン
:うちの3Dプリンター高性能なのでいけるわね。
中むら:いや3Dプリンターで作るんかーい!
レモン
:ウシシシシ!


次回は……

今回はちょっと予定と違うものができちゃいましたね。次回はどんな手づくりが見れるんでしょうか?
楽しみですね!

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