未来を変えた?(1):老子の魔術的改名
歴史を振り返ってみると、「ひょっとして、命名・改名で運勢や未来を変えたのでは?」と思われる例がいくつか見つかります。ここではその代表例として四つ取り上げたいと思います。
①古代中国の賢者 老子、②易占の大家 邵康節、③キリスト教の創始者イエス、そして④修験道の行者 道賢(日蔵)です。彼らについては、いずれも命名、改名にまつわる不思議な逸話が伝えられているのです。
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第一話は、老子が改名を繰り返すことで、まるでサーフィンでも楽しむように、運気の波(盛衰)を巧みに乗りこなしたという話です。
●老子が説く「道(タオ)」とは?
一説では、老子は道家思想の開祖で、『道徳経』を書いたとされます。『道徳経』は深遠かつ難解、実に不思議な書です。少し読みかじると、分ったような気になりますが、すぐにそれが思い過ごしだったと気づきます。
『道徳経』の中で、老子は万物の根源が「道」であると説いています。道とは何か? 解説によると、道はあらゆる現象の背後に潜む時空を超越した本体とされます。万物はそこから生み出されるが、道自体は見ることも、聞くことも、触ることも、ことばで定義することもできないそうです。
老子がいうには、
しかし、説明もできないというのでは、道がどんなものか、こちらも理解しようがありません。分からないままにしておくしかなさそうです。
老子が生存した年代を特定するのは、ほとんど不可能だと言われています。彼の人物像についても諸説があり、いまだに神秘のベールに包まれています。その神秘的な人物像にいっそうの神秘性を付け加える話があります。老子は魔術的改名によって不老長生を実現したらしいのです。
●改名による老子の長生法
『神仙伝』巻一の「老子」の項には、老子がたびたび名や字を変えた話が出てきます。この時代にはすでに、改名によって運気改善できるという思想があったようです。
人間にはそれぞれ厄運という災厄にめぐりあう時期があるといいます。ただし、その時に名や字を変えることで天地の気の変化に順応するならば、寿命を延ばし、厄を回避できるとされるのです。老子もそのようにしたので、いくつもの名や字を持っていたそうです。
神仙思想などで知られるように、古代中国には不老長生こそ究極の理想とする考え方がありました。司馬遷の『史記』によれば、老子は百有六十余歳、あるいは二百余歳まで生きたそうですから、改名の効果は相当なものです。[*1]
これが本当だとすれば、老子は二百年どころか千年以上も生きたことになりそうですが、いくらなんでも誇張しすぎでしょう。『神仙伝』にも「これらはみな雑書に見えているもので、神仙の正しい経典には出ていないから、典拠とすることはできない」と但し書きしてあります。
●老子は実在したか?
老子を実在の人物ではないとする説もあるようです。というのは「もっとも信用できる『史記』でさえ、老子の伝記の内容は不確か」だからです。[*3]
こういうと、「実在もしない人物について、改名の効果をうんぬんするのは無意味だ」というご意見もあるでしょう。しかし、奇妙なことに『史記』には老子の子孫のことが詳しく書いてあるのです。
老子の子孫についてここまで具体的に書いてあるなら、すべてがまったくのデタラメということもないでしょう。宮の子から ひ孫 までの間が抜けているのも、どことなく真実めいているではありませんか。
業績や名前が記されていない子孫たちは、後世に書き残すほどの名声がなかったのかもしれません。ただの作り話なら、間を飛ばさずに、子孫の名をずらっと並べたらよさそうなものです。
それに、司馬遷の厳密な記述には定評があります。彼が老子の伝記を書くとき、すでに老子の時代から相当の時間的隔たりがあったため、慎重に資料に基づいて記述したそうです。老子は名前を次々と変えることで、本当に二百歳以上まで寿命を延ばすことができたのかもしれません。