読書感想文『武藤章 昭和陸軍最後の戦略家』

半ばあきれながら思うのですが、ここまで人気のない軍人をよく新書にしたなと思う。
日本人において軍人とは(特に大東亜戦争においては)山本五十六であり、硫黄島における栗林忠道であり、マレーの虎こと山下奉文、毀誉褒貶のある辻政信、戦後商社で活躍し小説の題材にもなった瀬島龍三、無能の代表である牟田口廉也であると思うのです。
今回読んだ新書が取り上げたのは武藤章である。

新人の著者が武藤章を書きたいと思っても売れないので絶対に企画を通さなかったと思われるが今回の著者は『昭和陸軍全史』などもある方でもあり。かろうじて企画が通ったと思われる。ただ、現在10日程度新書が発売されて経ってますが、アマゾンのレビューは未だ一件もありません。そんな軍人、武藤章です。

日本の軍人でグランドデザインをもっていたと言われるのは(本当なのかはさておき)永田鉄山、石原莞爾そしてこの武藤章と言われています。
永田鉄山の戦略は高度国防国家を作りたかったのですね。政治体制、工業、農業、その他総力戦にたる国家を形成したかったのです。第一次世界大戦を本格的に体験していない+そもそも戦前の日本の工業力では無理だと後知恵で私は思いますが。それはさておき、山県有朋の流れをくむ日本陸軍ですが第一次世界大戦後もそれは続き長州系(宇垣派)が力を持ちます。そこを一夕会メンバーが長州系を排除し、そもそも陸大に受からせないなど露骨な排除を行い、徐々に一夕会メンバーが陸軍のメインストリームになり、満蒙問題を研究し、石原莞爾+板垣征四郎が主体となり満州事変を起こします。そして1932年以後日本が実質統治していた満州に続いて、北支を日本の影響下におき(出来れば植民地化する=華北分離工作)たかったのです。満州で採掘できなかった地下資源を活用並びに市場として活用しようとしたんですね。その間に所謂皇道派に永田鉄山は惨殺されてしまいます。そして結局、華北分離は上手くいかず泥縄の1937年~シナ事変に流れ込みます。永田鉄山の後を受けた本書の主人公=武藤章が中心となり中国戦線にのめり込んでいきます。そして、石原莞爾作戦部長と武藤章作戦課長とは中国戦線をめぐって対立、戦線拡大派の武藤章(や田中新一)を中心に戦線は拡大されるんですね。
そして近衛首相が『爾後国民政府を対手とせず』とか言ってしまうものだから、中国側と和平交渉もできなくなってしまいます。
そしてヨーロッパで第二次世界大戦がはじまり、ドイツの勢いが止まりません。破竹の勢いでオランダを蹂躙し、フランスもあっさり降伏させてしまいます。
このころには永田鉄山の時代と違って戦略物資として新たにゴム、石油の重要性がまします。そして東南アジアに目をむけるとそれらを得られます。ここでそれらの植民地を支配していたのは、フランス、オランダ、イギリスです。フランスオランダはドイツに占領され、イギリスもそろそろドイツに上陸を許しそうです。ここで、アメリカとことを構えず、イギリスとだけ戦争を行いたかったようです(米英可分)。個人的にはここが重要だと思ってます。我々は太平洋戦争(大東亜戦争)はアメリカと闘ったイメージが強いと思うのですが、この時点で陸軍は少なくても英米が分離できドイツのの戦争で弱ったイギリスとなら勝てると思っていたようです。そして『バスに乗り遅れるな』ってことに火事場泥棒的に(援蒋ルートをつぶす目的があるにしろ)フランス領ベトナムに進駐します。そしてベトナムを前哨基地としていよいよ本格的に東南アジアに侵略します。いよいよヤバメのラインに突入です。以後は本書を読んで欲しいのですが、なぜ武藤が望んだ対米戦が回避できなかったのか、回避のために何を譲歩しようとしたのか、日本にとって日独伊三国同盟の意義など本書は述べており、当時の頭脳がなぜ無謀な戦争に至ったか、国民の300万人以上が亡くなり、武藤章もA級戦犯(平和に対する罪)として巣鴨で刑死するに至った経緯の一部を著者は新書サイズで上手く書いておられると思う。


我ながら誰が興味あるんだという読書感想文を書かせて頂きました。


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