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本を読むことについて考えるー図書館の本ー

 図書館の本が苦手だ。
 図書館に行って、適当に本を手に取ってパラパラするぶんにはなにも問題はない。おもしろそうな本だし、ちょっと借りて読んでみよう。カウンターに持って行って貸出手続きをする。
 「〇月〇日までです」と本を手渡された瞬間に、ぎゅんっと緊張感が走る。これは図書館からお借りしている大事な本だ。かばんに雑にほうりこんではいけない。しわや折り目がついたらどうする。そうっとそうっと胸に抱き、少しも傷つけずに持って帰るのだ。家に持って帰ったらどこにおこう?自分の本ではないから、自分の本棚に入れてはいけない。万が一紛れてしまってなくなったらどうする。テーブルに置くのも危険だ。私は飲み物をよくこぼす。大事な本が濡れてはいけない。飲んだり食べたりには使っていないカウンターの隅がいいだろう。そうっとそうっと本を置く。ここなら大丈夫。
 置き場所が決まると今度はその場所に目をやるたびに本から吹き出しが出ているような気分になってくる。「〇月〇日までに読むべし」わかっています。必ず読み終えます。汚さないように、傷つけないように細心の注意を払って読み、途中まで読んで本を閉じる。また吹き出しが見える。「そんなペースで読み終わるのか」がんばります。きっと読み終えます。所定の位置に本を置く。安心なスペースに置かれていったん本は黙る。黙るが 「ここに図書館の本があります」という 無言の圧力を発してくる。あそこに図書館の本がある。図書館の本だ。読まなくては。目をやるたび、またにゅるりと吹き出しが飛び出てくる。「返却期限は〇月〇日!」
 「〇月〇日」が近づいてくるほど、吹き出しは大きく太字になる。「返却期限を守るべし!」ははーっ、図書館の本様、必ず、必ず守ります。私はもうひれ伏さんばかりになって、必死になって読む。なんとか「〇月〇日」までに読み終わり、そうっとそうっと捧げるように図書館のカウンターに返しに行く。
「ありがとうございました~」
返し終えて、ほっと息をつく。読んだぞ。無事に返し終わったぞ。返却期限を守った。私は守ったんだ。解放感でスキップしそうになる。そんなに必死になって読んだ本、どんな内容の本だったか。あれ・・・?読むことに必死になりすぎて、内容が少しも頭に残っていない。がんばって読んだのになぁ・・・。

そんな理由で図書館の本が苦手なのだ。

 でも、最近はがんばって図書館の本を借りるようにしている。知人が図書館を有効活用して、読書ライフを満喫しているのに影響されたのだ。流されやすい私は、人の影響も簡単に受ける。ささっと借りてささっと読んでささっと返却している姿がかっこいい。私もかっこよくなりたい。

 借りる本は一度に一冊まで。なるべく装丁が優しそうな本を選ぶ(なんとなく例の吹き出しの声が優しそうな気がするから)。ちょっとずつ、図書館の本が家にあることに慣れるのだ。かっこいい読書ライフを目指して。

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