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ヒトのPDCAだけではなく、ヒト・モノ・カネを合わせたPDCAを回すことが求められているのに、データ基盤が整わないから非常に難しい


はじめに

現代の企業経営において、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)は、改善活動の重要なフレームワークとして機能しています。

しかし、日本の多くの企業では、ヒトのデータだけを扱う「人的資本」PDCAサイクルが多く見られ、モノ(サプライチェーン)やカネ(財務)を統合して一元的に運用することができていないのが現状です。

特に、データ基盤が整っていない場合、モノやカネのデータとヒトのデータを連携させたPDCAを効果的に回すことが非常に難しくなります。

1. ヒト・モノ・カネを統合したPDCAサイクルの必要性

経営において、ヒトのパフォーマンスはモノやカネと深く結びついています。

サプライチェーンや財務パフォーマンスが、従業員のスキルやモチベーションに直接的な影響を与えることは明白です。

しかし、ヒトのデータだけでPDCAサイクルを回すと、モノやカネのパフォーマンスとの相関が無視され、偏った改善策が実行されるリスクが高まります。

例えば、以下のような取り組みができる企業/できない企業では、モノ・カネの観点でも差がついていくことは明確です。

■製造業における生産ラインの最適化

  • ヒト
    生産ラインに配属された従業員のスキル、労働時間、シフトの管理。

  • モノ
    使用する材料や部品の在庫状況、機械の稼働状況、メンテナンススケジュール。

  • カネ
    生産にかかるコスト(人件費、材料費、機械の維持費)や、売上げに対する利益率。

  • PDCAの回し方

    1. Plan(計画)
      生産計画を立て、どの従業員をどの工程に配属するかを決定し、必要な材料を調達。

    2. Do(実行)
      計画に基づいて製造を開始。ヒト・モノ・カネのリソースを効率よく配分。

    3. Check(評価)
      実際の生産結果を分析。生産性やコストを見比べ、ラインの効率がどの程度上がったか確認。

    4. Act(改善)
      もし生産性が低かったりコストがかさんだ場合、スキル不足の従業員を研修する、部品の調達方法を見直すなどして改善。

■小売業の在庫管理と販売戦略

  • ヒト
    店舗スタッフのスキルや配置、シフト管理、お客様対応能力の評価。

  • モノ
    商品在庫数、商品の回転率、仕入れのタイミングと量の管理。

  • カネ
    売上、在庫コスト、店舗運営費、スタッフの人件費。

  • PDCAの回し方

    1. Plan(計画)
      売れ筋商品の在庫を確保し、販売目標を設定。必要に応じてスタッフのトレーニングも計画。

    2. Do(実行)
      売場配置を変更したり、キャンペーンを実施する。販売スタッフをピークタイムに効率的に配置。

    3. Check(評価)
      売上実績や在庫の回転率を確認し、スタッフの配置やキャンペーンの効果を分析。

    4. Act(改善)
      売上が伸びなかった場合は、商品の配置やキャンペーンを見直し、次回の販売計画に反映。

■IT企業のプロジェクト管理

  • ヒト
    プロジェクトに携わるエンジニアやデザイナー、プロジェクトマネージャーのスキルや進捗状況。

  • モノ
    プロジェクトで使用するソフトウェア、ツール、サーバーなどのIT資源の管理。

  • カネ
    プロジェクトの予算、エンジニアの人件費、外注費、ソフトウェアライセンス料。

  • PDCAの回し方

    1. Plan(計画)
      プロジェクトのスケジュールや予算を設定し、必要なスキルを持つエンジニアを配置。

    2. Do(実行)
      プロジェクトを進める。各フェーズでの進捗状況をモニタリングしながら、リソースを適宜調整。

    3. Check(評価)
      予定通り進んでいるか、コスト超過がないかを確認。チームのパフォーマンスを測定し、プロジェクトの進行度を評価。

    4. Act(改善)
      予算オーバーや遅延が発生した場合、次のプロジェクトではチーム編成やツールの使用方法を見直し。

このように、ヒト・モノ・カネのデータを統合することで、各部門の効率化と業績向上が可能になり、より精度の高い意思決定ができるようになります。

2. データ基盤の整備が必要な理由

現在、ヒト・モノ・カネのデータを統合的に管理できる基盤が整っている企業は少数です。

特にヒトに関するデータ(例えば、エンゲージメント、離職率、スキル評価など)は、モノやカネのデータと同じように頻繁に更新されることが少ないため、リアルタイムでの管理が困難です。

データ基盤の整備が進まない理由は主に以下の通りです:

  • 異なるシステムの統合が難しい
    人事システム、財務システム、サプライチェーン管理システムが連携していない。

  • データの標準化ができていない
    ヒトのデータは定性的な要素が多く、定量化や標準化が難しい。

  • データの収集頻度が異なる
    財務やモノのデータはリアルタイムで集められる一方、ヒトのデータは年に1回のエンゲージメント調査や離職率の報告に限られる。

3. 経営と人事の連携が求められている

経営層は、データに基づいた戦略的意思決定を行いたいと考えています。

しかし、人的資本に関するデータが他の部門のデータと統合されていないため、人事部門は経営戦略と人事戦略を連携させることが難しいという状況に陥っています。

たとえば、財務データとモノのデータが週次や月次で提供され、経営会議で議論される一方、ヒトに関するデータは遅れて報告されることが多く、タイムリーな意思決定に反映されにくい状況です。

4. データ基盤が整わないことで生じるリスク

人的資本のデータ基盤が整わないと、以下のようなリスクが生じます。

  • 経営戦略の非効率化
    ヒトのデータを含めた全社的なパフォーマンスを把握できないため、戦略の最適化が難しい。

  • 人材流出のリスク
    人的資本の管理が適切に行われないため、優秀な人材が流出する可能性が高まる。

  • 業績低下
    ヒト・モノ・カネの連動がないと、業績が不安定になり、特に競争の激しい市場では競争力を失う恐れがある。

まとめ

ヒト・モノ・カネを合わせたPDCAを効果的に回すためには、データ基盤の整備が欠かせません。

特にヒトのデータを正確に収集し、モノやカネのデータと連動させることで、経営戦略と人事戦略の連携が可能になります。

現時点では、ヒトのデータは他のデータと比べて整備が遅れているため、企業としてのデータドリブン経営の進化を妨げています。

データ基盤の強化とシステムの連携を急務とし、人的資本経営を推進していく必要があると思います。

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