伝統と革新の"黄金比率"を見出す3つの鍵~中道:調和を生む智慧~
不滅の経営 ~300年企業に学ぶ12の智慧~(全12回) 第6回
長寿企業の多くが直面する課題の一つに、伝統の継承と革新の推進の両立があります。
過度に伝統にこだわれば時代に取り残され、革新を急ぎすぎれば本質的な価値を失いかねません。
この難しいバランスを、300年企業はどのように実現しているのでしょうか。
創業340年の老舗金物メーカーP社では、「守・破・離」という考え方を経営に取り入れています。
伝統的な鍛造技術を「守」りながら、新素材との組み合わせで従来の常識を「破」り、さらに全く新しい製品カテゴリーを創造する「離」の段階へと、計画的に事業を展開しています。
「伝統と革新は、対立する概念ではありません」とP社の社長は語ります。「伝統とは、革新の積み重ねの結果として生まれたもの。
その本質を理解することが、次の革新への鍵となるのです」
この考えに基づき、同社では以下の3つの要素のバランスを重視しています:
時間軸のバランス
短期的な市場ニーズへの対応
中期的な技術開発の推進
長期的な価値の保持と進化
投資のバランス
伝統技術の継承・改良への投資
新技術の開発・導入への投資
人材育成への投資
価値のバランス
伝統的な価値の保持
現代的なニーズへの適応
将来価値の創造
創業380年の老舗菓子メーカーQ社では、この考え方をさらに具体的な指標として運用しています。
例えば、売上構成における「伝統商品:改良商品:新商品」の比率を「4:4:2」に保つことで、安定性と革新性のバランスを取っています。
また、年間の開発予算も同様の比率で配分。伝統商品の品質維持・向上に40%、既存商品の改良に40%、新商品開発に20%を充てることで、計画的な商品開発を実現しています。
仏教でいう「中道」の考え方、つまり「極端に偏ることなく、調和のとれた道を歩む」という智慧が、これらの取り組みの根底にあります。
老舗の道具メーカーR社では、伝統工芸士の技と最新のデジタル技術を組み合わせた新しいものづくりに挑戦しています。
3Dプリンターで原型を作り、その後、職人が手作業で仕上げるという革新的な製法を確立。「技術は変われども、美しいものを作るという本質は変わらない」という理念を、新しい形で実現しています。
これらの事例から、伝統と革新の調和を実現するための重要なポイントが見えてきます:
伝統の本質的価値の明確な理解
革新を通じた伝統の進化
バランスの定量的な管理
長期的視点での判断
柔軟な価値の表現方法
伝統と革新の調和とは、単なる古いものと新しいものの混在ではありません。本質的な価値を守りながら、その表現方法を時代に合わせて進化させていく、創造的な営みといえるでしょう。
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