さよならと一緒に
駅から降りた通学路にある葬儀場、毎朝その側を歩く高校生活だった。時々霊柩車と親族用のバスが停まっていて、そんな日は気のせいか、微かに線香の匂いがした。
丁寧に手紙で案内が届いて、行くか行かないか迷いに迷った高校の同窓会。残っていた数少ないLINEグループの一つに「みんな行く?」と尋ねると、案外みんな参加に前向きだった。
同級生がどんな変化をしているのかの楽しみと、誰も自分を歓迎してくれなかったらどうしようという不安の半々で迎えた当日。いつもよりヘッドホンの音量を二つくらい上げて電車に乗った。流れてきたのは「me me she」だった。
葬儀場では、式の真っ最中だったらしく、霊柩車の運転手も家族用のバスの運転手もスマホを片手に持っていて、目線もその画面にしか向いていなかった。
僕は集合時間を10分ほど過ぎて参加した。会場の食堂にはもう100人くらい集まっていて、空気感はかなり完成されていた。少し億劫になりながら向かった受付。名前を言うよりも前に
「久本くんね」
と言われた。思ったよりも心配しなくて済んだ。
「あとこれ」
番号札だった。のちに抽選会に使うのだとわかるが、ここではまだ秘密だと伝えられた。73番だった。
授業が昼までの日が何度かあった。まだ日が高いうちに下校できるから、友達と都会に出ることも多かった。いつも陽の光が暖かだったと思う。ホカホカのダウンジャケットに包まれて、或いは汗だくのTシャツに纏われて、いつもラーメンを食べに行った。
ただ葬儀場の出棺のタイミングと被ってしまうことがしばしばあり、そんな時は決まって道路の反対側に着くまで黙って歩くのだった。だからその記憶の中には音がない。
ダンス部の演技に人気者だった人の漫才、あとはささやかなお話タイムで時間は過ぎ、机の上のお菓子はどんどん減っていった。
「じゃあ当選者、今年の抱負とこの2年間でチャレンジしたことを教えてください」
抽選会の時間を迎えたものの、僕が100人あまりの中から選ばれることはなかった。
校門を出ると何人かの同級生がアイコスを吸っていた。もう何も言えなかった。
葬儀場には車は停まっていなかったけれど、73番の番号札が出棺前の2人の運転手を覚えていた。だから僕はそれを綺麗に四つ折りにして、ポッケに入れた。もう線香の匂いはしなかった。