新型コロナウイルス感染症＝葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏ではない

はじめに

新型コロナウイルス感染症発生初期から話題となった葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏が、再度メディアでも取り上げられましたね。
おかげさまで調剤薬局では出荷規制のため納品しにくい状況が続いております。
漢方薬の出荷規制は、普段目にすることが少なかった小柴胡湯加桔梗石膏の過剰な需要のため、一部の生薬が中国から輸入しづらくなったことが原因と推察されます。
小柴胡湯加桔梗石膏だけならまだしも頻用されるその他の漢方薬にも規制がかかっているので、特効薬かのごとく処方することは控えていただきたいと思います。
結論から言いますと、新型コロナウイルス感染症の特効薬ではないので体質（証）にあった方に処方・販売していただきたいと思っております。
また、「テレビで見たからこの漢方薬が欲しい」といって受診することも控えていただきたいと思います。

葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏は新型コロナウイルス感染症に効くのか

なぜ葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏なの？

葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏は各々保険適応のエキス剤であり、ともに新型コロナウイルス感染症に有効と話題になった処方です。
この処方の大元は、 原典「勿誤薬室方函口訣（ふつごやくしつほうかんくけつ）」にある柴葛解肌湯（さいかつげきとう）という漢方薬です。
柴葛解肌湯は市販のエキス剤はあるも保険適応がないため、病院では2つの漢方薬の合方を処方されていると考えられます。

柴葛解肌湯はどんなときに使うの？

柴葛解肌湯は葛根湯と小柴胡湯が基本となることで分かるように、傷寒論の六病位（三陰三陽）における太陽病・陽明病・少陽病で使用する方剤です。
自覚症状として悪寒、頭痛、発熱、口が苦い、胸脇苦満、悪心、食欲不振などがあり、インフルエンザのようにめまぐるしく進展する急性疾患に使われます。

新型コロナウイルス感染症に柴葛解肌湯は効く？

今回の新型コロナウイルス感染者の自覚症状は、発熱、倦怠感、関節痛、 筋肉痛、呼吸困難、胸痛、咳嗽、味覚障害、嗅覚障害、下痢、頭痛、咽頭痛、食欲不振、脱毛、集中力の低下、記憶障害、睡眠障害、抑うつ等が挙げられます。
インフルエンザのような急性疾患と酷似した症状で柴葛解肌湯は有効のように思います。
新型コロナウイルスのデルタ株感染者は症状が急激に悪化し、表→半表半裏→裏へ進行する症例が多く見られたことから処方が功を奏したと考えられます。

ただし、オミクロン株においてはどうでしょうか。
デルタ株からオミクロン株主体となると自覚症状がない患者が多くなっています。症状があっても微熱や喉の痛みだけの方もいらっしゃいます。
新型コロナウイルス感染症がない時代では、総合感冒薬や解熱剤、抗プラスミン薬、鎮咳薬、去痰薬、漢方であれば葛根湯や麻黄附子細辛湯、桔梗石膏等を処方または販売されていたのではないでしょうか。
それでいいのです。
新型コロナ感染だから葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏（柴葛解肌湯）を処方（OTC販売）するのは理にかなっていないといわざるを得ません。
逆に症状が強く関節痛や高熱などあれば葛根湯ではなく麻黄湯を使っても良いです。

まとめ

・葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏は柴葛解肌湯が原典
・めまぐるしく進展する急性疾患に使用する
・葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏は新型コロナ感染症の特効薬ではない
・漢方薬は証を診て処方・販売する

最後に

メディアで漢方薬が注目されることは嬉しいことです。
ただ、情報が全部誤っているとはいいませんが、過度に誘導するような取り上げ方をすると現場が混乱してしまいますので慎んで頂きたいですね。
漢方薬は病名を特定して処方するものではありません。
○○病に△△湯が効くと聞くと安易に処方・販売されがちですが、漢方薬を使用するときは病気をみるのではなく人をみることを忘れないようにしたいですね。