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【週刊消費者情報】         公益通報者保護法は誰のため?       

後を絶たない情報漏洩

3月1日付の新聞紙上に「NTT西社長辞任へ」の記事がありました。同社の子会社に勤めていた元派遣社員による約928万件におよぶ個人情報の不正流出問題を受け、”トップの引責辞任”という内容でした。

企業不祥事でよく指摘されるガバナンス(統治)不全は、ここでも取りざたされていました。不正流出が発覚して元派遣社員の男が不正競争防止法違反の容疑で逮捕されるまで10年超の間、同社は不正を把握することができなかったわけです。というのも、件の子会社が実施した社内調査が「極めてずさん」でいいかげんだったということです。

同社が公表した外部の弁護士らによる調査報告書のなかで「個人の不祥事として捉えるのではなく、組織文化を見直す機会とすることが求められる」と記事に書かれていました。元派遣社員の男は逮捕されたけれども、要は組織風土やガバナンスに問題があったという指摘でした。

情報漏洩の問題は枚挙にいとまがありませんね。現にいまもLINEヤフーがその対応に追われています。でも、アメリカ国家安全保障局(NSA)の元局員E.J.スノーデン氏が情報を持ち出したように、どんなに厳しい管理体制を敷いても完璧に防ぐことは無理なのかもしれません。もっともスノーデン氏の場合は私腹を肥やす目的ではなく、広く国民に向けられた内部告発であったようですが。

話は変わりますが、以前、とある造り酒屋の当主が「酒蔵の規模をわきまえず、身の丈以上のお酒を造ろうとすると味が落ちる」というようなことを言っていました。事業には適正なサイズがあるという話です。これは経済学者のE.F.シューマッハーが著した『スモール イズ ビューティフル』のなかにもあったように思います。
事業体が大きくなればなるほど、端々に目が届きにくくなるのは当然です。
だからこそガバナンスが強く求められてきたのでしょう。しかし、なかなかどうして情報漏洩は後を絶ちません。

内部通報制度と公益通報者保護法

昨年11月、消費者庁は内部通報制度の現状を知るため、就労者1万人に対しアンケートを実施しました。結果は半数超の人が制度を理解していなかったそうです。公益通報者保護法では、従業員301人以上の事業者には内部通報体制を整備することが義務づけられています。

さて、公益通報者保護法の公布から20年になりますが、その目的は内部通報者の保護を図るとともに、事業者等の法令順守を図り、もって国民生活の安定および社会経済の健全な発展に資することとなっています。施行されたのは2年後の2006年4月。
立法の経緯は2000年代初めに発生した企業不祥事でした。そのころなにがあったのでしょうか。ちょっと列挙してみましょう。
2000年:雪印乳業食中毒事件。三菱自動車リコール隠し発覚
2001年:東芝、テレビ発火事故で公表遅れ。三洋電機、石油ファンヒーター欠陥の公表遅れ
2002年:ダスキン、無認可添加物入り肉まん販売。雪印食品、日本ハム、国産牛肉偽装
2003年:日本生命、パンフレットの不当表示。ローソン、アプラス、顧客情報流出。・・・などなど。

公益通報の本質は違法行為の事実を国民に知らせること

上の言葉は「公益通報者が守られる社会を!ネットワーク」代表の串岡 弘昭さんの言葉です。『消費者情報』2016年6月号特集「ホイッスルブローワー 公益通報者保護制度10年目の課題」巻頭インタビューで串岡さんは自らの経験をこう語っています。
「(前略)企業が違法行為や不正を行うときは、必ず理由があります。超法規的で、自己正当化する論理です。その論理に従業員はなかなか抗えません。なぜかと言えば、法律よりも会社から受ける報復の方が何倍も怖いからです。僕は結婚して子どもが誕生する前に、すでに会社での将来はなくなっていました。何十年に及ぶ報復はとても過酷なものでした。」
「小・中学生が学校でいじめに遭って自殺する事件がありますね。それと同じで、企業内でもひどいいやがらせが行われるわけです。そのような報復を受ければ、たいていの人は精神を病んでしまい辞職に追い込まれます。(後略)」

公益通報者保護法の立法化にはこのような現実が・・・串岡さんだけでなく星の数ほどあったに違いありません。
この制度は、まさに「公益通報の本質は違法行為の事実を国民に知らせること」であり、引いては消費者の利益を守る行為なのだと思います。

               『消費者情報』Web版編集室 原田修身
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