【管理監督者編⑭】
・改正旅館業法→「宿泊拒否事由」運用の実際
旅館業法の一部が改正され、令和5年12月13日より施行されました。
今まで旅館業法においては、一定の場合を除き、「宿泊しようとする者の宿泊を拒んではならない」と規定しています。
拒否された人が、その後、行倒れになる事などを防ぐのが主な理由です。
今回の改正では、宿泊施設の事業者が、迷惑行為(カスタマーハラスメント)等をする宿泊客の宿泊を拒否できるようになりました。
報道番組で、日光の旅館の事業者の方が、宿泊したお客様に、豚肉メインの夕食を提供したところ、
「豚肉とはどういうことか、伊勢えびが食べたかった」などと、不当なクレームをつけられたことを話しておられました。
この事業者の方は、「宿泊拒否事由に該当すれば、宿泊拒否できる」今回の改正を歓迎するとの事です。
しかしながら、実際にどのように運用すればよいのか?悩んでおられるようでした。
この事例でいうと、風呂からあがり、浴衣を着て夕食を食べたお客様を、不当なクレームで宿泊拒否事由に該当したからといって、叩き出せるのか?ということでしょう。
弊社がこういう事例の場合、「叩き出してよいのか」厚生労働省に電話確認したところ、「宿泊拒否事由に該当する場合、拒否していただいてよい」との事でしたが・・・
自身が叩き出したクレーマーを、近隣の他の宿泊施設に引き受けてもらう、ことも出来ません。
また、悪意のクレーマーが、素直に出ていくとは、考えにくい。
では、どう対応すればよいのか?
弊社の結論→「改正旅館業法の拒否事由を使用しない」です。
せっかく法制化され、前進したと思ったのに、なぜ?
ー理由ー
(1)今回の改正では、逆に拒否できない場合も強調されているため。
→障がい者の方に対し、障がい等を理由として宿泊拒否できない。
当然ですが、過去事例として、ひとりで車椅子の障がいのある方が来られ、宿泊事業者側が、「介助者がいない場合、宿泊を受けられない」と不当に拒否することがあった。このようなことを防止するためですが・・・
障がい者の対応は、人権問題に発展する可能性があり、慎重な対応が求められます。
(2)法律の改正時においては、悪意のクレーマーは、裏をかいてくる可能性がある。
→悪意のクレーマーが障がい者を装い、宿泊し、カスタマーハラスメントを働き、施設側の不手際を誘発して、不当な要求をすることが考えられます。
→いちどに10人で、障がい者を装い宿泊してきたら、どう対応しますか。
→宿泊客が泥酔し、一晩中介助を強要された場合、宿泊拒否事由に該当しますが、この宿泊客が障がい者だったら?
※この事例についても、厚生労働省に電話確認したところ、「事由の重い方で、判断してください」との事でした。
要するに、泥酔→一晩中の介助=障がい者であっても、宿泊拒否事由に該当
ですが、悪質なクレーマーは、「障がい者に対して、この施設(ホテル・旅館等)は、〇〇〇だからといって、宿泊拒否する気か?」などと、ついてくる可能性があり、準備が必要です。
(3)宿泊拒否事由に該当したからといって、現実に叩き出せない。
店舗対応であれば、悪質なクレーマーは,その場でお引き取りいただくことができます。
しかし、宿泊施設の場合、風呂に入り、夕食を食べてから、カスタマーハラスメントを働かれても、叩き出せない。自身が叩き出したクレーマーを、近隣の宿泊施設に引き受けてもらうことも出来ない。
(4)民事裁判を起こされる可能性がある。
改正旅館業法の宿泊拒否事由に該当し、宿泊拒否を行っても、こちら宿泊施設側にも、多少の不手際などがあった場合など、民事裁判を提起されることが考えられます。
(5)宿泊を拒んだ場合は、書面を作成し、3年間保存する義務がある。
施設側は、宿泊拒否事由に該当し、宿泊拒否した場合は、
・宿泊を拒んだ日時
・拒否された者とその接遇の責任者の氏名、理由、経緯等を記載した書面を作成し、3年間保存する必要がある。
書面に事実関係を残すことは、悪いことではありません。
が、実際問題面倒です。
以上、5項目が、悪意をもった悪質なクレーマーに対する対抗措置として、「改正旅館業法の宿泊拒否権を使用しない」理由です。
では、「改正旅館業法の宿泊拒否権を使用しない」で、どのように対応したらよいでしょうか。
※もちろん「満室」の場合は、ご存じのように例外で拒否できます。
悪意のクレーマーに対しては、裏の裏をかく
→「クレーマーのやり過ぎは、刑法に抵触する」で対応します。
「暴力をふるう」→暴行罪・傷害罪
「暴言をはく」「大声で脅す」→脅迫罪・威力業務妨害罪・軽犯罪法違反
「不当に金銭要求をする」→恐喝罪
「土下座の要求」→強要罪
「無断で撮影をする」→肖像権の侵害・都道府県迷惑防止条例違反(公共の場所、都道府県により範囲、内容に違いあり)
「不当にSNSで誹謗中傷する」→SNS侮辱罪・偽計業務妨害罪
※法律(改正旅館業法においても)、「繰り返し伝えたが」という文言が入っているため、2回以上(「大声はおやめください」など)言ってください。
弊社が確認したところ、1回目と2回目の間隔は、続けてでも、少し間をおいても、どちらでもよい、との事でした。
2回以上注意喚起しても、聞き入れない場合は、警察に相談します。
悪質なクレーマーには、「留置場で一晩、頭を冷やしてもらいましょう」
【障がい者対応】上記(2)の準備
予約の時点で、「障がい者」の申告を、任意でお願いしましょう。
また、ホームページなどで、障がい者手帳のご提示を、お願いすることがあるなど、協力を要請しておきます。もちろん、「申告なし」「手帳の提示なし」を理由として、宿泊拒否はできません。あくまで、悪意のクレーマーが障がい者を装うことを想定して、釘を刺しておく意味です。
次に、クレーム対応営業で、会社(店舗)組織側の最もしてはいけないことは、
→「事なかれ主義」「現場まかせ」です。
もう、これですむ時代では、ありません。
悪質なクレーマーの思うつぼです。
いちど特別扱いしてしまうと、「この施設おいしいぞ」「この施設、ぬるいぞ」となり、SNSで繋がった者同士が情報共有する時代です。狙われてはいけません。
また、毅然とした対応をしなければ、現場スタッフの信頼を失い、精神疾患等で労災案件に発展する事例も、多く報告されています。
しかしながら、警察、警察と簡単にいうけど、他の宿泊客が怖がるし、まして今、SNSなどで、すぐに悪い評判や噂が広まるから、そうやすやすと、警察沙汰には、出来ない。
→お気持ちは、よくわかります。
しかし、起こってしまったことは、「消えません」「無かったこと」にもなりません。それがこちらとしても、都合のよくないことであったとしてもです。
→言われたくないことほど、こちらから先に、勇気をもって、正直に公表しましょう。
ホームページの、行事や出来事のポップなどに、
「〇月〇日、〇時頃、こういうお客様がおられ、こういう事案が発生しました。こういうご対応をしましたが、ご納得いただけず、大声でさわがれ、何度もおやめくださいとお願いしましたが、聞き入れていただけませんでした。他のお客様に、多大なご迷惑をおかけすることになるため、やむを得ず警察に相談いたしました。」と報告しておく方法があります。
※たとえば、自動車メーカーのリコール時、
A社は発覚後、すぐに謝罪会見を開き、現状を報告し、無償で部品交換を呼びかけ、対応しました。
B社は、ひた隠しにし、内部告発で発覚するまで発表せず、事態が公になって初めて謝罪会見を開き、対応した。
今後、マイカーを購入する際、どちらの自動車メーカーを選びますか?
明らかですね。
以上、悪意のある悪質なクレーマーの対応方法です。
ホワイト・グレー・ユーザーに対しては、お話ししてきましたように、お客様として、企業全体(組織全体)で営業対応し、こちらの味方になっていただく努力が、今、求められています。
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