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母の実家が消える

と書いたけれど、「まだまだ先の話だけど」とのことだ。
いずれ処分するつもりで遺品の整理が進められている。
先日、「欲しいものがあったら持っていってよ」と言われたので、家族で行くことにした。

母の実家は長い間、祖父母が2人で暮らしていた。
祖父が亡くなると祖母が1人だけになったが、叔母夫婦が同居した。
その頃のことはすでに書いた。

祖母は長い闘病生活の末に亡くなった。叔母一家だけの暮らしとなり、いとこたちが独立し、叔父が亡くなり、叔母が一人暮らしをしていた。
その叔母も昨年亡くなった。

母の実家は閑静な住宅街にある。古いながらも落ち着いた、いい家だと思うけれど、親族の中にここで暮らしたいという人がいない以上、処分するしかない。まずは家の中のものを片付けようということになり、親戚にも声がかかったわけである。

行ってみると、親戚が集まり、押入れや洋服ダンス、食器棚などの中を見ている真っ最中だった。
母の親戚はもったいない精神にあふれている。もし、この場に叔母がいたら、「さあさあ持っていってちょうだい。このままじゃ片付かないんだから」と言ったことだろう。いとこたちは「元気な頃の母からいろんなものを『生前贈与』されてるから、正直もういいんだよね。なんでも持っていってよ」と言っている。それならということで、洋服や小物を数点いただいてきた。

見ていると、ブローチがついたままになっているジャケットやブラウスがいくつもあった。このジャケットにはこれ、と決めておいたのだろう。

小さなピンブローチがあった。ちょっと独特なかわいいデザインだったので持ち帰った。裏側を見ると遠方の美術館の名前がある。

この美術館の近くに、就職したばかりのいとこの職場があった。
我が子を訪ねた際に美術館に寄ったのだろうか。
我が子の就職記念に求めたものなんだろうか。
ブラウスにつけてあったのだから、気に入っていたんだろう。

叔母は亡くなる寸前まで元気だった。翌日には庭の草取りをするつもりだったらしく、草取りセット(サングラス、軍手、日焼け止め、鎌)がまとめて縁側に置いてあったという。草取りが終わったら、どこかに出かけるつもりだったかもしれない。ちょっと旅行をしたいなどと言っていた。
高齢ではあったが、見た目も立ち居振る舞いも声音も、それを感じさせない凛とした人だった。

叔母が大事にしていたもの、思い入れのあるものが残っているはずだから、それは手元に残しておきたいと思ったけれど、今となっては分からない。

叔母が元気なうちに「生前贈与」してもらいたかったなあ。
一つ一つのアクセサリーや衣類、食器の思い出話をしてもらって、
思い出話ごと受け継ぎたかったなあ。

こうやって感傷的になっている間も、叔母の孫と母の孫(つまり私の子どもたち)は、おしゃべりに夢中である。
良い意味で、親戚の縁は大切に受け継がれていく。




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たか
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