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梅仕事の今と昔

梅干しなんて知らなかった

子供の頃、梅干しのことがよく分からなかった。干す? シワシワ? 何じゃそりゃ。我が家にあったのはカリカリ梅である。
実家には大きな梅の木があった。父が青梅を収穫してくれた。祖母と母が塩漬けにする。赤ジソをいれる。こうやって作った梅漬けはしょっぱくて酸っぱくてカリカリしていた。

朝のお茶会

母が時々、納戸から梅を出してくる。これを割って種を出すのは子どもの仕事である。種を割って天神さまを食べるのが楽しみだった。梅や赤ジソをきざみ、ガラス瓶に詰めていく。上からはちみつをいれると、梅のすきまにはちみつが流れていく。蓋をしめて出来上がり。
これを食べるのは早朝である。早起きをすると、大人たちが食卓で茶を飲んでいる。ちょっとお値段高めのお茶だ。お茶請けは豆皿にとりわけられたはちみつ梅。おしゃべりをしながらお茶をのみ、梅を食べる。10分もかからない。すぐに朝飯前の仕事(祖父はペットの世話、父は畑の管理、祖母と母は朝食の支度)にとりかかる。
これで7時には朝食をとり、身支度を整えて出勤していたのだから、我が家の大人たちはどういう生活をしていたのだろう。私にはできない。
まあ、それはさておき、早起きをすれば子どもたちも朝のお茶会に出られる。まろやかな緑茶の香りとはちみつ梅は楽しみだった。はちみつ梅といっても、はちみつは少しだけ。全体としてはしょっぱくて酸っぱい梅であるが、ちょっとのはちみつが特別な感じがして美味しかった。
このお茶会がいつまで続いていたのか知らない。早起きができたのは小学校のうちだけで、その後はぎりぎりまで寝ていたからだ。

梅肉エキスも作った

祖母の時代の梅加工は上記の梅漬けが大半だった。梅酒も毎年作っているようだったが、飲んでいるところを見たことがない。だからいつのものか分からない古い梅酒がごろごろあった。
梅肉エキスも手作りだった。大人になって梅肉エキスの作り方を知り、めまいがした。青梅を一つ一つおろし、汁を絞り、煮詰める! 無理だ!
これが我が家には大きめのジャム瓶ひとつ分あった。お腹を壊すとオブラートにくるんで飲むように言われた。更に、夏になると梅肉エキスを煮とかして砂糖を加えたジュースを作ってくれた。冷蔵庫に常備されていた。
これはどうしようもなく酸っぱいジュースだった。

母の甘い梅

母の時代になると、普通サイズの梅の木は枯れてしまった。小梅は元気でたわわに実った。母はお友達の農家のお宅から普通サイズの梅をもらってきた。
どちらの梅も相当な量があるが、母は平気である。これを漬物樽に入れて、薄い塩漬けにしてしまう。それを塩出しして、割り、甘く漬け直す。お茶請けになった。会合にも持参した。母の世代の人たちはよく作るらしく、会合でお互いの梅漬けを味見することもあるようだった。
祖母も母も、梅は青いうちに収穫し、カリカリで食べるものと思っていたようだ。

梅干しに挑戦!

結婚して、夫の祖母から自家製の梅干しをもらった。祖母は関東の出身で、梅干しを作る。夫も梅干しが大好きだ。孫が大好きな祖母は、いい歳をした孫のために梅干しを作っていた。私も祖母のアドバイスを受けつつ、挑戦することにした。大変だった。
最初の数年は失敗の連続だった。様々な本を読み、祖母に聞き、これはどうだ、あれはどうだと試す。梅酢があがってこない、カビが生えた、梅がつぶれた、干したらザルにくっついて無惨な姿になってしまった……。やっと完成しても、「梅干し」というよりも、「塩漬けにした梅を干したもの」にしかならなかった。祖母の梅干しには程遠く、市販の梅干しと比べても、何かが違う。夫と一緒に首をひねる。
曲がりなりにも梅干しらしいものが作れるようになったのは最近だ。コツは「ある程度の量をつけること」と「手間を惜しまない」である。失敗するのが怖いから、ちょっとだけつける。すると梅酢があがらず、心配していじるからカビが生える。ちょっとしか漬けていないのに手間を惜しんで「1キロでも簡単!」みたいなレシピに頼ると、塩漬けの時点で壊れてしまう。
まあ、「ある程度の量」と言っても、我が家の祖母と母、夫の祖母が扱っていた梅の量から比べれば微々たるものだが、今の量が私の限界だ。

残りの梅仕事

現在の私の梅仕事は次のような感じである。ちなみに今は小梅の木も枯れてしまったので、母のお友達の家から分けてもらう。
まず、小梅をバケツいっぱいもらう。きれいに洗って、梅シロップ、梅酒にする。小梅をいちいち割るのは大変だ。簡単に加工できるものにする。
次に、大きな梅をみかん箱1つ分もらう。青いうちに一部を甘露煮にする。残りは追熟させる。あっというまに青梅は黄梅になり、良い匂いがしてくる。傷のないものを選んで塩漬けにする。残りは梅ジャムだ。
これらの仕事をするためには、梅だけでは足りない。大量の砂糖や塩、ホワイトリカーが必要だ。瓶を洗ったり、重石を出して消毒したり、用意しなくてはいけないものがあれやこれやある。私としては大仕事だ。昼間は仕事がある。通常の家事もある。

梅を保存して食べること

梅干しは塩分が気になる。シロップやジャムは砂糖が多い。(ちなみに母は梅ジャムのことを「砂糖の無駄遣い」と言う。うわあ、そんな言い方!! その通りだ!)しかし、梅のすばらしい香りをかぐと、なんとかしてこれを保存し、通年で食べたいと思う。塩分や砂糖が気になるのなら、少しずつ食べればいい。我が家に梅をくださる母のお友達に感謝。そして、梅を育ててくれる大地に感謝。

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たか
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