■AUTOMAGICイズム■ 第九章・ひとり勝ちでなく共同で業界の発展を
序章:重く湿りがちの経済状況にあっても、常に新しい提案をして
ユーザーにアピールし続けなくてはならないのがカスタムバイクの世界。バイクショップはそれぞれの個性で勝負すべきなのだが、一方でショップ同士が協力することで効率よく魅力的な成果を得ることもできるはず。業界全体の発展を考えた時、ポテンシャルアップのための方策を探りたい。
政治の世界では昨年末に政権が代わり、年が改まって為替や株価にもいくつかの変化が現れてきたようだ。ライダーや我々のようなカスタムショップにとって、どのような好影響が及んでくるのかは今後の推移を見ないと分からないが、昨今の僕の正直な感覚としては「あまり動きが良くないなあ」という印象だ。
1980年代後半にオートマジックを開業した僕は、1990年代初めのバブル経済の崩壊をショップ経営者として体験した。あの時もそれまでの好景気ぶりがガラリと代わって消費がガックリ冷え込んだが、僕の印象としてはそれは大きな会社を中心とした企業側のムードだったような気がする。実際その頃、Zやカタナカスタムのオーダーはガンガン入っていて、当時の主流だったFZR1000やGSX -R1100の足周り流用や、カタナの油冷化で大忙しだった。
様々な不良債権処理は大変そうだけど、関係ない一般人はまたバブリーな
ムードで独創的で個性的なカスタムバイクに乗りたいライダーが多かったのだろう。1995年頃まではまだユーザーにもショップにも個性があった。
ところがここ数年は、他のカスタム好きをあっといわせるような型破りなモディファイのオーダーは減少しているというのが正直なところだ。ホイールやブレーキ、サスペンションなどの部品単位ではものすごくグレードアップしたパーツが次々と登場して、それらの順列組み合わせで豪華さを競うカスタムは盛んだが、それは過去のコラムで書いたように僕に言わせれば「核心」ではなく体裁のための「補足要素」でしかない。
フレーム加工やディメンション変更など、バイクの骨格部分に関わる加工やカスタムを得意技としてきた我々は、ボルトオンで済むカスタムには作り手としての醍醐味を正直感じない。だが、ユーザーの希望がそこにない、つまり他人と似たような無難なセンでまとめた方が安心だと思うような風潮が蔓延しているのが現状だとすれば、思い切ったカスタムができない今の方がバブル崩壊直後よりみんなと同じ方が安心で保守的なのかと感じてしまう。残念だが、次に爆発するブームのきっかけも見えず、モノカルチャー化を感じてしまう。
【人それぞれで異なる格好良さを破綻なく作るのがプロの力量】
今となっては全国津々浦々にバイクを改造するショップが立ち並ぶ中、「あのカスタムがカッコイイ」「あんな風にカスタムしたい」とユーザーに感じさせるには、待っていればいいというわけでなくショップ側から仕掛けたりアピールしなくてはならない。開業当初からそう考えていた僕は、1992年の東京モーターサイクルショーにツインターボのホンダCBX1000を展示したり、テイストオブフリーランスに1度に4台のマシンでエン
トリーしたりしてきた。
その結果、常識外れとか異端児という有り難いのか迷惑なのか分からない称号をもらいながら、オートマジック流のカスタムを求めるユーザーにマシンを製作してきた。個人の趣味が全面に押し出されるカスタムマシンにおいて、個人の価値観を他人がとやかく言うことはできないと思う。オーナー自身がカッコイイと思えばそれが全てであり、他人がそれをジャッジするのは大間違いだ。そのマシンが乗りやすいかどうかだって、オーナーが納得できれば済む話である。
ただ、そこで我々が疎かにしなかったのは車検に対応できるマシン、バイクとしてまともに走行できる骨格を持つマシンを作るという基本方針だった。造り手として、ユーザーが最も求めている内容を盛り込みながら、オートマジックテイストで作り込むのが腕の見せ所。そこで満足してもらってこそ結果となる。
その一例が、昨年製作したZ400FX改だ。ホンダRC45用プロアームの先に幅200㎜のリアタイヤを組み込んだド迫力のスタイルは、マシンオーナーの「とにかく太いタイヤを装着して欲しい」というオーダーを受けて製作したものだ。はっきり言って見た目重視であり、リア200㎜のFXがヒラヒラとコーナリングするマシンになるわけがないのは百も承知。
だからといって、作り込みに手を抜いて良いはずがない。オートマジックではフレームモディファイに対する経験はどこにも負けるつもりはないから、200㎜のタイヤをキチンとセンターにセットするのは当たり前の話で、RC45のリヤ足周りを忠実にFXフレームで再現できるかがポイントだった。太いタイヤによってチェーンラインは大きく外側にずれるから、当然ド
ライブスプロケットは当然ワンオフで必要なオフセット量に対応している。
見た目がプロアームならチェーンラインもホイールセンターにも目をつぶるという手抜き工事は、我々にとっては考えられないものだ。したがって、ポン付け仕様のやっつけ仕事より製作コストは掛かるし、純正のスタイルには戻れない(フレーム加工部分を直せば戻せるが、それ
はその突拍子のなさ、悪く言えば大真面目におバカをやるのがカスタムの魅力の一端だと思っている。
「こんなカスタムできるかなあ?」
「やったらカッコイイじゃん!?」というシ
ンプルな衝動と行動を抑えて無難という枠に押し込むことで、どれも同じ様な仕上がりになっているのが最近のカスタムバイクだと思う。それを補おうとするために補足要素で差別化を図る手法は、いずれユーザーから「どこでマシンを作っても、結局一緒じゃん」と飽きられる要因になることを僕は危惧している。
【カスタム業界を盛り上げるためにショップ同士のつながりも重視する】 そうした図式でカスタム業界を沈滞、衰退させないためにはどうするか。僕はその手段のひとつとして若手ビルダーとのコラボレーションや育成があると考えている。カスタムショップはビルダーの個性によってユーザーにアピールするのが本筋だと思うが、加工から塗装まですべてを自分たちだけで賄おうとすれば手間やコストがかさんでしまう。僕がカスタムを始めた頃は同業者が少なかったため、否応なく自らパーツ開発やフレームジグ製造などの環境整備から行わなければならなかった。だが現在では様々な仕事に特化したショップが数多く存在している。オートマジックでは以前から、元スタッフや共に成長してきた仲間達の得意分野を生かし、FRP加工やペイント、
エンジンチューニングなどカスタムの内容に応じて我がブレーンの職人達に作業を依頼することで、我々自身はフレームを筆頭にしたバイクの骨格に関するモディファイに専念する体制を作ってきた。
36年以上の経験を重ねてきた中で、いかにもオートマジックらしいと言われるような着眼点から独創的なマシンを一生懸命製作しながらも、僕には一人勝ちしたいという考えはなかった。むしろカスタム文化が定着するためには個性あふれるショップが10店、20店と集まってカスタムコンストラクターの業界を作っていかなければならないと思ってきた。
だからこそ、太いタイヤを装着するためのオフセットスプロケットや三つ又を流用する際に必要なステムシャフト、ボルトオンホイールキットなど、皆さんがつまずきそうな門外不出のフィッティングパーツであっても商品化して市販し、我々だけでなく他のカスタムショップがカスタムマシンを製作する際の難関をスムーズに突破できる環境を整えたのだ前号で述べたように想定外の権利問題が発生することもあったが、こうした活動はカスタムブームを盛り上げる一助になったと自負している。
また、様々なパーツ開発を行ってきた経験から、他店様のオリジナルパーツ製作のお手伝いをすることもできる。もちろん窓口となるだけでなく、僕自身の経験やノウハウを追加したコンサルティングのようなこともできるだろう。そうすることでショップ、ユーザー双方にとってメリットの大きなパーツ開発ができるものと考えられる。
こうしたスタンスは昔から一貫しており、オートマジックが特許を取得しているDFC(デュアル・フレーム・コンバインド)も、カスタムと偽り悪用しない為の制御力と、このアイディアと権利を利用して共同で何か面白いカスタムバイクを開発したいと公言している。僕が作ったアイデアを真似するだけではなく、私だったらDFCの発想でもっと独創的なカスタムができる! という若手カスタムビルダーには喜んで協力したい。
冒頭で触れたように、僕が経験したバブル崩壊後に比べても、物も金の回りも鈍っている現在、ただ『当店でもカスタム承ります』の看板を掲げているだけではお客さんは来ない。頼みたくなる理由と表現の発信がなくては来ないのが現実だ。だからこそユーザーに新たな提案をしていくために、得意分野でショップ同士がうまく連係することで、それぞれのショップの可能性を底上げしたい。ユーザーにとっても、自分の希望を具現化してくれる一店に出会える確立が高まるという点で、個々のショップのパフォーマンスが高まるメリットは大きいはず。
カスタムが一過性の流行ではなく、バイク文化のひとつとして継続していくために、オートマジックとしてもカスタムバイク製作の手を緩めることなく、これまで以上に業界に向けての働きかけを行っていきたいと考えている
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