『片葉の葦伝承』~津々浦々、葦~リテラ探求学習研究レポート
昨年の秋、ふと、自分の住んでいる地域に対する興味が湧いた長谷川尚哉くんは、区役所のページで、千住に伝わる七不思議の存在を知りました。
さらに調べていくと、他の地域にも七不思議があり、共通する題材があることに気づきました。
今回の研究では、その中から「片葉の葦」の伝承に注目して、各地のバリエーションを調べ、その傾向を探っていきました。
この研究をしたのは卒業生の長谷川尚哉くんです。
■プレゼンテーション動画
■リテラの先生からのコメント
同じ片葉の葦を題材にしているのに、伝承にさまざまなバリエーションがあることに気づいたのは、素晴らしい着眼点ですね。
まだどこにも答えの用意されていない問題に踏み込み、試行錯誤しながら探求を深めることができたのは、尚哉君に自分で考える力があればこそだと思います。
これからも、さまざまな謎に向き合ってください。
■テキスト資料
今年の秋、ふと、自分の住んでいる地域に対する興味が高まりました。
そして、区役所のページで、千住に伝わる七不思議の存在を知りました。
さらに調べていくと、他の地域にも七不思議があり、共通する題材があることに気づきました。
今回の研究では、その中から「片葉の葦」の伝承に注目して、各地のバリエーションを調べてみることにしました。
葦は、水辺に生える背の高い草で、ほぼ日本全国に分布します。
広く親しまれている植物で、大阪では難波草とも呼ばれます。
これは、僕が隅田川で撮影してきた葦です。
そして、この葦の片方にしか葉がつかない現象が、起こることがあります。片葉になる要因としては、水流の速さや、風の強さなどが挙げられています。
日本には、この片葉の葦を題材にした多くの伝承があります。
関東を中心とした東日本に広く分布し、地域それぞれの伝承が語られます。
西日本では、佐賀を除き、片葉の葦にまつわる伝承は稀のようです。
今回の研究では、この片葉の葦の伝承を、内容ごとに分類してみました。
まず、葦が特定の人物に敬意を表したため、片葉になったというタイプです。
親鸞や弘法大師、法然上人など、偉大な僧侶の威光になびいたものから、美しい女性に傷をつけないよう気遣ったというものまで、さまざまあります。これらの伝承は、千住や千葉、山梨などに分布しています。
次に、葦の葉が何らかの理由によってちぎられたため、片葉になったというタイプです。
魔物や地元の娘が笛にした、溺れた人が掴んだらちぎれた、僧侶が手で払って通った、雁が船の代わりにするためにちぎった、馬が食べたなどがあります。
栃木の塩原、埼玉の川越、神奈川の海老名、静岡の遠江、三重県の菰野町などに分布しています。
次に、体の欠損に由来したタイプです。
求愛を断ったことへの逆恨みで娘の片手片足が切られたため、武田勝頼が葦の精霊の片手を切り落としたため、目を射られた侍が傷を洗ったためなどがあります。
宮城県の仙台、山形県の高畠町、東京の本所、愛知県の長篠などに伝わっています。
次に、願掛けに由来したタイプです。
親鸞が念仏が広まるように祈ったため、源義経が部下の忠誠心が続くよう願ったため、などの伝承があります。
新潟県の上越市、群馬県の板鼻などに伝わっています。
最後に、どのタイプにも属さない伝承が残されている地域です。
神奈川の平塚には、盗賊に襲われた乳母を隠したという伝承が残されています。
このように、片葉の葦の伝承は、日本各地で見られます。
ただ、その分布は、東日本に偏っています。
街道の人の行き来などによって、伝わっていった可能性もあります。
片葉の葦は、各地の七不思議にもなっています。
七不思議とは、地域の不思議なできごとをまとめたものです。
有名な本所七不思議をはじめ、川越城七不思議や千住七不思議、板鼻七不思議に遠州七不思議などの一つになっており、このことは、身近にある葦にまつわる伝承が親しみやすかったからだと考えられます。
片葉の葦の伝承には、地域性が反映されていると思えるものがあります。
たとえば、ともに東京都内にあり、5キロほどしか離れていない千住の隅田川沿いと、現存していませんが、本所の駒留橋の間にも、はっきりとした差異があります。
千住に伝わる伝承は、空海が当時の荒川を渡った時、葦がその威光になびき、片葉になったという内容です。
千住の近くには空海ゆかりの西新井大師があるため、空海の偉大さを表す話になったのではないかと考えられます。
一方、本所に伝わるのは、ある男の求愛を断った女性が斬り殺され、その血がかかったため、片葉になったという伝承です。
江戸時代、本所には武家屋敷も多くありました。
しかし、芥川龍之介が『本所両国』というエッセイに書いているように、当時は生活に苦しい人々も多く住む地域であり、治安も良くなかったと考えられます。
このように、同じ葦を題材にしても、地域性が反映されているのです。
また、群馬県の板鼻、山形県の高畠、仙台などには、奥州征伐に関連する伝承があります。
板鼻には義経が部下の忠誠を願ったため片葉になったという内容、高畠と仙台には、武将が矢で射られた片目を葦の生えた池で洗ったため片葉になったという内容で伝わっています。
このように、地域で起こった実際の出来事が元になっている伝承があります。
片葉の葦に関する伝承は、題材が「葦」であることが必須であるような内容は、多くありません。
むしろ、片葉の葦は、それぞれの地域の文化や歴史、自然などに関する伝承の一要素としての性質が強いといえます。
身近にありながらも、すこし不思議な片葉の葦を媒体とすることで、人々は、昔の出来事にも、リアリティを感じていたのではないでしょうか。
今回は、片葉の葦伝承の伝播や変遷について、はっきりとしたつながりを見つけることはできませんでしたが、今後は、伝承が伝わったルートや時代などについても、詳しく調べていきたいです。
これで発表を終わります。
聞いてくださって、ありがとうございました。
■研究の振り返り
◇これはどのような作品ですか?
片派の葦にまつわる伝承の分布について
◇どうしてこの作品をつくりたかったのですか?
地元愛に目覚めたから
◇作品づくりで楽しかったことは何ですか?
分布に偏りがあって面白かった
◇作品づくりで難しかったことは何ですか?
資料が意外と見つからなかった
◇作品作りを通して学んだことは何ですか?
日本の人々にとっていかに葦が身近だったか
◇次に活かしたいことや、気をつけたいことはありますか?
実地調査したい
◇来年、研究したいことはありますか?
今年が最後
◇この作品を読んでくれた人に一言
ありがとうございます。
水辺に行ったら葦を探してみてください。
この記事を書いた生徒さん