【衝撃】『世界でいちばん透きとおった物語』読みましたー(ネタバレなし)
はじめに
今更ながら杉井光先生の新感覚ミステリー『世界でいちばん透きとおった物語』読了しました。ネタが分かったときのあまりの衝撃に思わず声が出ました。
ネタバレ厳禁の本作でありますので、最低限の内容情報と感想だけになってしまうかもしれませんが、受けた感動を記録していきたいと思います。
個人的な評価
内容(読んで得られるもの) S
筆力(文章の躍動感) B+
読みやすさ S+
装丁・文体 S+
表現力 B
思想(夢中になって読めるか)B
総合(読んでよかったか) S
S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ
D→やめときゃよかった
内容(全13章のうち3章までの概要)
内容的には、ミステリー作家の巨匠・宮内彰吾が死去したという知らせから始まります。生前プレイボーイで女遊びが激しかった宮内は本妻以外に、編集者、ファン、女優、キャバ嬢、女性作家とあらゆる女性に手を出していて、その中のひとりである女性編集者・藤阪恵美が産んだ不倫の子供・藤阪橙真がこの物語の主人公です。
橙真は10歳のときに重い眼の病にかかり、手術は成功しますが、後遺症でなぜかPCや電子書籍の文字は読めるのに、紙の文字は読めなくなります。
親子はお互いを気遣い、慈しみ合って生活しますが、母親の恵美は心労が祟ったのか、橙真が18歳のときに自転車で走行中トラックに跳ねられて亡くなってしまいます。
それまで母親第一で生活してきたにもかかわらず、唐突に母親を失った橙真は、生きる意味を見失い、人生に現実味を感じられなくなります。家の屋根がなくなったような、根本的な欠落感に圧し潰されそうになりながらも、2年間何とか生き抜きます。
そんな中で、生前まったく面識のない父親であり、大作家の宮内彰吾が癌で亡くなったという知らせを聞くことになるのでした。
宮内彰吾の訃報により、愛人の子である橙真は、宮内の本妻の息子・朋晃との遺産相続争いに巻き込まれることになります。朋晃は橙真に対し「遺産なんてほとんどないよ」と予め断ったうえで、後々、強制認知など面倒事になるのを嫌って橙真に相続放棄を迫ります。
父親の宮内に何の思い入れもない橙真は承諾しますが、朋晃の用件はそれだけではなく、宮内の遺品に『世界でいちばん透きとおった物語』と題された大判茶封筒があり、中身の原稿を愛人の誰かが持ってるはずなので知らないか?と尋ねられます。
もし、その原稿が実在すれば宮内の遺作であり、発表すれば大ヒット間違いなしで、宮内の校正の仕事をしていた橙真の母親の恵美が持っている可能性が一番高い、と朋晃は見当を付けていました。
原稿を見つけて渡してくれれば高額で買い取るという朋晃の提案を橙真は了承し、熱心に自宅を探しますが、徒労に終わります。
そこで橙真は、原稿探しと未知の父親の実像を求めて、複数いる父親の愛人たちひとりひとりに会い、詳しく話を聞くことを決意するのでした。
感想
人間が家族や大切な人に愛情を伝える方法として、優しい言葉を掛けるとか、親身に接するとか、一生懸命働いて養うとか、苦しみを共に乗り越えるとか、いろいろな形があると思います。
『世界でいちばん透きとおった物語』とは何なのか?話の展開を予測しながら読み進めました。
しかし、12章の途中までこの終局は予想できませんでした。
そして、この物語の結末を知ったときに、愛情表現でこんな途方もないことをできる人がいるんだ…という驚愕と感心に包まれました。
この世には、伝わる愛情と伝わらない愛情があります。あるいは、気づかれる愛情と気づかれない愛情とも言えるかもしれません。実に難しいですね。言葉にしなければ分からない人は分からないですが、言葉にしてしまうと感情の一部を切り抜いた安直で不正確な表現になってしまうのもまた事実でしょう。
基本的に、思いやりの言葉を掛け合うことが愛情だと思っていた私にとって、忘れられない一冊になりました。