『傷物語-こよみヴァンプ-舞台挨拶付き』観てきましたー。
西尾維新先生、物語シリーズ、そして作品に関わるすべての方々を敬愛する皆様ごきげんよう。2024年いかがお過ごしでしょうか。
私は今年の映画ライフは傷物語から始めようと思い、観て参りました。たいそう感動しまして、その記録をここに至るまでの経緯含め拙速ながら綴っていきたいと思います。
物語シリーズとの出会い
私が西尾維新先生の物語シリーズに初めて触れたのは、友人の勧めで2009年に地上波テレビで観た化物語でした。そのときは精神の変調が具現化した”怪異”という超常現象を抱え、人知れず苦悩している女の子を助けずにはいられない男子高校生が、忍という吸血鬼っぽい謎の幼女に定期的に血を吸わせつつ、魅力的な女の子たちに慕われリア充高校生活を送る、台詞と心理描写のナレーションがめっちゃ多い学園ハーレムアニメなんだな~という感想を抱きました。
それ以降の物語シリーズはリアルタイム視聴せずにいたところ、つい数年前にNetflixで偽物語から続・終物語までを観終えました。話が進むにつれて内容が重くなっていくなぁと思いつつ、登場人物たちの背景が掘り下げられ魅了されていきました。それぞれの女の子の物語に、核となる西尾維新先生の人生哲学的な問いが盛り込まれていて、阿良々木くんらに作者なりの答えを代弁させる構成に惹かれ、自然とラブコメから人生ドラマの鑑賞方法に心づもりが変遷していきました。特に、恋物語(ひたぎエンド)くらいからシリアス強めな話になり、個人的に心に刺さる要素が急激に増えてハマりました^^;
化物語しか観ていなかった頃には、物語シリーズ=戦場ヶ原ひたぎさんが魅力的な返しをするキャラクターで好き、でしかなく、キャラアニメとして評価していた私でしたが、続・終物語まで観終えたときにはみんないいじゃんに変わっていました。
そして高校卒業後、それぞれのキャラクターはどんな人生を歩んでいくんだろうと気になり、原作を読んでみることにしました。昔、化物語だけは読んでいたのですがそこで止まっていました。
西尾維新先生の物語シリーズは京極夏彦先生の百鬼夜行シリーズと同じで、それぞれのキャラの視点で思考内容を濃密に描いていくスタイルなので、全部買って読むのは大変に思えました。花物語が特に気に入ったのもあって、花物語から読み進めていきました。
個人的に思う原作とアニメで受ける印象の違い
アニメだと化物語では戦場ヶ原ひたぎさんに魅力と阿良々木くんの好意が集中していて、セカンドシーズン以降は分散しますが、キャラ的にみると斧乃木ちゃんこと斧乃木余接に比重がかけられている印象を受ける気がしています。ストーリー的には、実は阿良々木くんと一番永く時間を過ごしている老倉育さんだったり、忍野扇ちゃんだったりが重要だったりするのですが。。
一方原作、アニメと違ってビジュアルや声なし、台詞と思考内容を表現した文章だけだと、阿良々木くんの妹の阿良々木火憐ちゃんや後輩の神原駿河さんがすごくいい子という印象を受けたり、賢くて誰にでも親切な印象の羽川さんがすごく逞しく勝ち気な精神性を感じられたり、キスショットが心身ともに超絶美女として描かれていたり、そもそも阿良々木くんが女の子とイチャついてるだけではなく、男から見てもめっちゃいいやつとして読み取れるなど、アニメから受ける心証とギャップを感じられて新しい発見がありました。
傷物語について
傷物語に関しては、物語シリーズを勧めてくれた友人曰く『とても大切な物語』とのことでしたが、その詳細は語ってくれませんでした。私自身もいつか触れようと思ってただけで、おそらく忍(キスショット)との出会いの話なんだろうな~くらいの想像だけして原作も未読で、過去に鉄血編・熱血編・冷血編と三部作にわたって映画化された作品も観てませんでした。
なので、多くの物語シリーズのファンが懐古視聴の目的で映画館に足を運んでいるのが散見されたところ、私に関しては前提情報をほとんど仕入れてないまっさらな状態で鑑賞できました^^
観るべき作品は観るべきときに自然と触れることになる、という勝手な信条を持っているのですが、傷物語がまた映画化されるとは思ってなかったので、まさに運命を感じました。
傷物語-こよみヴァンプ-
個人的な評価
ストーリー A+
脚本 S-
構成・演出 A+
思想 S
作画 A
キャラ S-
声優・歌 S
バランス A-
総合 S
S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ
個人的な感想
内容的には、阿良々木くんが羽川さんと仲良くなった経緯と、ギロチンカッターら三人のヴァンパイアハンターに四肢を切り落とされ助けを求める瀕死のキスショットを見捨てられず、自らを犠牲に阿良々木くんが血を吸わせるところから始まるストーリーでした。
キスショットは命を取り留めますが、四肢を失ったせいで幼女の姿になってしまい、血を吸われ眷属となった阿良々木くんに願いを叶えてくれたら人間に戻してやるという約束で、ヴァンパイアハンターと戦って両腕両脚を奪い返してほしいと頼みます。阿良々木くんは奮闘しドラマツルギーを倒し右脚を、エピソードを倒し左脚、ギロチンカッターを倒し両腕を取り戻します。
体のパーツが戻るのに従って力も戻り、幼女→童女→少女→キスショットと姿が変わっていきます。
キスショットが回復してめでたしかと思いきや、阿良々木くんが買い出しに行ってる間にふたたび襲撃してきたギロチンカッターをキスショットは返り討ちにして殺し、栄養補給のため捕食している様を阿良々木くんは目撃してしまいます。そして、自分がキスショットを哀れに思って助けたせいで、人類にとって重大な脅威となる存在を復活させてしまったことを悟ります。
このあたりの葛藤の描写は『キノの旅』の-人を喰った話 -I Want to Live-で、雪山で遭難して死にかけてる人々を助けて食糧を与え回復させたら、実はその人たちは犯罪者で、あとで牙を剥いてきて殺さなくてはならなくなる話と構造が同じだな~と思いました。
西尾維新先生は攻殻機動隊の神山健治監督同様、”正義とは何か?”ということを作中で何回も問いかけられる方ですが、傷物語では主人公の阿良々木くんが青臭い正義感を発揮し、吸血鬼で人類の天敵である“怪異の王”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが死にかけで泣き叫ぶ様を見て、不憫に思って自己犠牲で助けるという眩しい愚かさを見せてくれます。
この選択は目の前の現象だけを見た判断であり、人類にとって間違っていたと阿良々木くんは後悔します。責任を痛感し、一時は自殺しようとしますが、羽川さんに励まされて自分が招いた結果から逃げずに立ち向かう勇気を持ちます。
目の前で困ってる人を放っておけないタイプの人。けしてバカではないのに感情が先行してしまい、自分にとって損な役回りばかりこなしてしまう人。自分が傷つくことで問題を解決しようとする人。そういう人々に刺さる描写に思えました。
正しくなかったはずの阿良々木くんのその優しさはちゃんとキスショットに届いていて、『誠実に勝る知恵なし』を実感し、素晴らしく感動しました。
最後、忍野さんの提案で阿良々木くんの理想とする『みんなが幸せになる選択』は実現不可能なので、全員が不幸になり全員が生き残る、いわば『不幸を分かち合う選択』を実行しますが、このあたりにもけして弱者を見捨てない、愛すべき者を切り捨てる形の解決を求めない西尾維新先生の思想が強く感じられて、大変心打たれました。
今まで傷物語というタイトルから、『傷物』ってなんだろう?とか、あるいは誰の『傷』なんだろう?とか、そもそも肉体的な傷なのか精神的な傷なのか?とか、いろいろ想像してみたものの傷物語の『傷』とは何を指していたのか分からなかったのが、明確に理解できてすっきり満足しました。まさに、原点にして頂点ではないでしょうか。
また、阿良々木くんと羽川さんの生死を共にした深い絆。愛し愛され殺し殺されの許し許されの後に築かれた忍との運命の一心同体、一蓮托生。普通の男女関係では到底到達できない信頼関係の究極形態に思えます。人を愛するということの本質を見させていただいた気がしました。
特に記憶に残った台詞
まとめ
傷物語-こよみヴァンプ-鑑賞に際しムビチケを購入していたのですが、上映後の舞台挨拶が観たいという理由で使いませんでした。目の前で神谷浩史さん、坂本真綾さんを視認できたのは眼福でした。
舞台挨拶では、神谷さんが原作・三部作時の台本・今回の台本とすべて照らし合わせ、他の物語シリーズと違って傷物語は台詞やナレーションが少ないため、削られたシーンがあっても意味が通じるよう苦心された点。坂本真綾さんが、化物語のアニメが始まるより前にキスショット役のオーディションで”本気の命乞い”を見せて勝ち取った逸話、尾石達也監督が今回の映画でどれだけの思い、情熱を費やしたかなどをお聞かせいただきました。仕合せでした。
最後、坂本さん「傷物語!」神谷さん「こよみ!」観客一同「ヴァンプ!」という掛け声をやって一体感の中、イベントは終了しました。すべてが素晴らしかったです。
これは愚物語以降もアニメ化期待できるのではないでしょうか。10代20代の若者も結構観に来ていました。私自身、微力ながらこれからも応援させていただきたいなと思いました。少なくとも、傷物語は来週以降ムビチケを消化してもう一度観に行きます。元になった三部作も観なければなりませんね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。物語シリーズを愛する皆様、関係各位の皆様に幸あれ!
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?