【神回】『少女革命ウテナ』第5話「光さす庭・フィナーレ」観ましたー。
はじめに
prime videoで『少女革命ウテナ』第5話「光さす庭・フィナーレ」鑑賞完了しましたー。前回は、生徒会メンバーの薫幹が姫宮アンシーに接触する話でしたが、今回はその動機が明らかになりました。
コメディも交えつつ、ところどころ男女関係における急所を描いた神回に思えました。記録していきたいと思います。
第5話のあらすじ&名シーン
第5話は生徒会メンバーの有栖川樹瑠と薫幹がフェンシングを訓練をしているシーンから始まります。幹はファンの女生徒たちから「ミッキー」の愛称で呼ばれているようです。
樹璃「ついに取られたな。強くなった」
幹 「いえ、まだまだです。まだまだ完成していません」
樹璃「いや、完成していないことが君の強さなんだ。純粋ゆえの勢いだな。君の剣にはいつも素直な勢いがある。でも、君の剣は戦うためじゃないな?」
鳳学園の花嫁・姫宮アンシーに「光さす庭」を弾いてもらい、その演奏の美しさに満足した幹は、この曲の由来を語り始めます。
幹 「僕の求めている音色だ」
ウテナ「これ、昨夜も姫宮が弾いてた曲だよね?」
幹 「ええ、光さす庭。小さいとき僕と妹が作った曲です」
ウテナ「君が作ったの?でもこれ有名な曲だよね?」
幹 「僕と僕の双子の妹は、物心ついたときからずっとピアノをおもちゃにして遊んだんです。あの庭で―僕と妹がピアノを弾くと、いつも周囲の大人たちは驚いたものでした」
ウテナ「兄妹揃って神童だったんだ」
幹 「今思えば、僕の幸せのすべてはそこにはありました。だけど僕は、それを壊してしまった。自分の手で壊してしまったんです」
幹 「妹はピアノを弾かなくなってしまったんです。そうなって、初めて僕は、自分がどれほど妹のピアノが好きだったのか気づきました。どれほどあの庭を愛していたか。どれほど技術を磨いても、妹が弾くピアノのあの音色は、どうしても出せなかった。僕はその音色を出すためだけに、ピアノを続けてるのに。だけど彼女の、姫宮さんのピアノにはそれがあるんです。僕は、ついに輝くものを見つけたんだ」
アンシーに好意を寄せる幹ですが、「私はウテナ様の花嫁ですから」と言って、アンシーはまったく相手にしません。このことから、幹は生徒会メンバーを招集し、生徒会による決闘システムの廃止を訴えます。
幹 「緊急動議。僕は提案します。この生徒会の解散を。決闘で姫宮さんを奪い合うなんて馬鹿げてる。やはりそういうことは許されるべきじゃないと思う。どれほど多くの力が手に入るとしても、姫宮アンシーというひとりの人格を蔑ろにするこんなシステムを認められない!」
樹璃「恋は人を変えるね。成程」
冬芽「自分が本当に何を求めているのか、若さが邪魔をして見えないことはある」
幹 「結局僕たちのしてることは、人間にとって何か大切なものを壊しているんじゃないんですか?」
冬芽「世界の殻を、破壊せよ」
樹璃「世界を革命するために」
ピアノの練習に音楽室に向かう幹ですが、ドアを開けようとしたところ女生徒が出て来てぶつかってしまいます。どうやら、幹の双子の妹のようですが、制服が乱れています。
妖艶な態度で接する彼女に対し、幹は冷淡な対応をします。
??「あら?不愛想だね。ねえ?また私としてみたい?」
幹 「お前なんかに何も期待してないさ。どうせ弾くつもりもないくせにこんなところで何をしてるんだ?」
??「別に…私の自由でしょ。音楽室はピアノを弾くためだけの場所じゃないわよ」
冬芽「おはよう、薫幹くん。君の妹は、君に似てかわいいね。それに、君に似て素直だ。本当に大切なものは、自分の手に入れて守らなきゃ人に取られちまうぜ。エンゲージした者だけが、花嫁を思うがままにできるのだからな」
失ってしまった理想の妹。妹と冬芽の痴態の残り香が香る音楽室で、気を取り直してアンシーの演奏に聴き惚れる幹ですが、「僕のためにずっとピアノを弾いてくれますか?」と問うと「ウテナ様がいいって言えばね」と返されます。
何でもウテナの許可が必要で、何も自分の意思で決めようとしないアンシーに対し、幹は決め手になる一言を放ちます。
幹 「天上先輩がピアノをやめろって言ったらやめるの?」
姫宮「もちろんです。私はエンゲージした方の思うがままですから」
決闘という女性を勝者への景品のように扱うシステムには抵抗感を抱きつつも、アンシーがそれを受け入れている以上、自分が決闘に勝利してアンシーを奪わないことにはアンシーが振り向いてくれることはないと悟った幹は、ウテナに決闘を申込みます。
幹 「今日の放課後、広場で待ってますから。…待ってますから」
幹の申込みに応じて、決闘に向かうウテナに、激励するかのように”絶対運命黙示録”が流れます。
ウテナ「結局、こういうことになるんだね、ミッキー。君はピアノの前に座ってる方が似合っているのに」
幹 「僕はどうしてもあの音楽を取り戻さなきゃ。だから、どうしても花嫁が必要なんだ」
姫宮 「気高き白の薔薇よ。私に眠るディオスの力よ。主に応えて今こそ示せ」
ウテナ「世界を革命する力を!」
幹 「薔薇の花嫁は僕の者にしますから……たとえ、あなたを傷つけても!」
幹 『彼女の目が言ってる、本当は自由になりたいんだと。僕が君を…僕が君の美しい音色を守ってあげるよ』
ウテナ「勝負!」
幹 「絶対に負けない!彼女は僕を信じているんだ!」
姫宮 「そこだ!ウテナ様!やっちゃえ!」
幹 「えっ!?」
ウテナ「これで、文句なしだな」
幹 「どうして、誰も輝くものになってくれないんだ…誰も」
姫宮 「ご苦労様。また勉強教えてね」
女性徒「アンタさあ、ホントに昔ピアノやってたの?私でももう少しは上手いわよ」
?? 「ま、才能はなかったわね。興味もなかったけど」
女性徒「じゃあなんでやってたのよ」
?? 「隣に住んでた男の子がさ、昔よくラブレターくれたんだよね。『あなたのピアノが好きです』って。その子勘違いしてたのよね。私がピアノを弾けるって。弾くときはいつも兄貴と一緒に弾いてたからさ。小さいときはよく間違えられたわ。私までピアノが上手いって。兄貴は天才だからさ、私がデタラメに弾いても、ちゃんとフォローしてくれるんだよね。でも発表会のとき兄貴が熱出して寝込んじゃったからすべてオジャンよ。ひとりじゃ何にもできないのがバレバレってやつね」
女性徒「アンタのお兄さん、カッコいいよね」
?? 「まあね」
幹 「天上先輩。昨日は油断しました。でもこの次は負けませんから」
感想
とてつもない神回でした。私が少女革命ウテナをしっかり鑑賞し直そうと決意した理由は、現在放送中の朝の連続テレビ小説ドラマ『虎に翼』における、主人公・猪爪寅子の奮闘、すなわち男尊女卑の蔓延る社会の中で、女性でありながら男性以上の努力をし、志高く、女性として男性と同じ生き方を模索し、困っている人々を助けるという自分らしさを希求した信念に心打たれたからでした。
しかし、今回は色々と考えさせられてしまったのです。16日放送の虎に翼では、寅子は弁護士になったものの、女性という理由で仕事がなく、仕方なく社会的身分を得るために10年遅れの婚活に挑みますが、もう20代後半で(今の価値観でいったら40代くらいでしょうか)男性には相手にされず、また弁護士という本来賢い人としてプラスに働くはずの職業バイアスが、男性から見たら従順な女性ではないというレッテルになり、縁談を遠ざけました。
結果的に、寅子は気心が知れた優三さんと結婚したのでよかったのですが、社会の不条理、結婚制度の問題点、女性としての生きづらさを痛烈に感じる回でした。同様の論点が、今回のウテナにも散りばめられていました。
すなわち、
①女性をモノのように扱うのはよくないが、社会システムがそのようになっているため、女性自身がそれを受け入れている点
②女性自身もモノ扱いはされたくないが、その一方で白馬の王子様に大切な宝物のように守ってもらえるならむしろモノ扱いされたい点
③決闘システムのように、勝者が女性を景品のように支配下に置く制度は倫理的に間違っているが、その一方で男性に力がなければ女性と関係を維持できず、他の誰かに奪われるという点
④そもそも『恋愛や結婚は、相手の自由を制限あるいはお互いに束縛し合って、相手の肉体に一定の所有権をもつこと』なのか?という点
⑤女性の人権に一定の配慮がなされる一方で、結婚すれば相手を思うがままにできる(主に力関係が強い方が好き勝手やるのが許される)という点
…などです。
具体的に今回の話の内容に言及すると、幹はかつて妹が奏でた(と思っている)ピアノの演奏に強いこだわりを持っていますが、その一方でピアノを弾かなくなった、現在の性的に奔放な妹にはまるで興味がありません。
アンシーを救いたいと思ったのも、彼女自身を助けたいから、彼女が助けてほしいと頼ったからではなく、『彼女のピアノの音色を守りたい』という自分の欲望からでした。この感情を幹は恋愛感情のように誤解しています。
恋愛と性欲の違いについて、あるいは恋慕の情と理想の押し付けの行き違いについて、非常に自戒させられる回でした。